第105話―ランドセルを背負う女子大生―

最も信頼していて親しい間柄でも、そこには踏み込めない領分はあることを俺は知った。

緩やかに柔らかい月の下で見た真奈との思い出。きっと良き思い出として笑って語れるはずだ。

恋が叶わず、二人だけで終幕を告げたことは悲哀で叶えられないものはある。でも前を向けて悲観的にならず前へと行けるなら吉兆は訪れるに決まっている。

東から朝日が規律に従って昇れば真奈と朝食の支度をした。


「こんな朝早くから手伝ってくれて助かるよ真奈。まだ眠たいはずなのに」


「ううん睡眠を鍛えているから平気だよ。

友人として、お兄さんのためなら無条件で協力するなんて当然なんだから」


屈託のない笑みで当然とは言うが年下の友達にそう言われるのは少々いや大きな違和感。


「はは、頼もしいなぁ。

けど若いんだから睡眠時間は、もっと取らないといけない。下ごしらえ終わったら――」


「目を開けたまま調理して睡眠を取るというすべを身につけているのでお構いなく」


眩しい笑顔で言いながら手を止めずに鶏肉を片栗粉でまぶす。ああ、これは真奈のためにと身体を休むべきと善意の言葉をもう区切りをつける言葉だった。

それで話題を変えながら調理を続けて出来上がった料理をテーブルへと運ぶ。そして泊まっていた彼女たちは続々と降りてきた。

食いしん坊キャラがいないとはいえ高校生や大学生の彼女たちはそれなりに食欲が旺盛。

満足が出来るものとなれば作る量は増える。量を増せば、それだけ作る時間も掛かる。

いつもよりも張り切って挑もうとするのを真奈が助太刀したことで負担が少なくすんだ。

――それから日が過ぎていった。矢庭やにわに現れては泊まることになったのが最近の出来事を懐かしみながらノートパソコンに向かってしていたらドアが開く音。

ここにいるのは俺と冬雅だけだ。

着替えることで二階にと向かっていたので待っている間にリビングで小説を書いていた。

時刻は夕方ではあるが空は焼けるような日ではなく青く澄み切っている。


「わぁー、お兄ちゃんだ!ねぇねぇ遊ぼうよ」


「こ、今度はなにをするつもりなのですか?なッ――!?ふゆかッ!……その格好は」


「えへへ、どうどうカワイイ?」


今度はなにをするつもりなのかと警戒をしながら音の方へ向ける……それと期待も込めて。

居室に現れた彼女の顔を見ようとして絶句した。絶句したことを自覚するまでが数秒ほど要した。

そして次に、その格好を上から下まで観察して目的がなにかを探ろうとして。


「えへへ、そんなマジマジと見ても困るよ。

でもどんな要求されてもお兄ちゃんのためなら何でもしますよ!」


「また危ない発言を……それよりも、どうして小学生の格好なんかを?」


そう彼女は、女子小学生の格好をしていた。

その多くが私服での登校が多いとはいえ制服を袖を通していた。いくらなんでも冬雅が小柄とはいえサイズ探すのは困難。

おそらくコスプレ用とかだろう。フリルやかわいさをトコトンと追求して現実的な格好ではない要素している。

とどめは赤いランドセルを背負っていること。


「以前に、お兄ちゃんが幼いのを好むと情報があったので作戦を練りました。そして

幼いといえば小学生。

わたしが小学生のように振る舞えば萌えると計算したのです!」


こぶしを上げながらと力説をする冬雅。


「相変わらずの超理論だ。それと語弊があるようだから言わせてもらうけど俺は小学生が好きとかじゃないから!」


「そ、そうなのですかぁぁ!!

かわいくなかったですか?」


もし漫画ならシュンという擬音語の文字が使われるほど肩を落とした冬雅。

だが、しかし悲しいかな冬雅がそんな格好することに少なくない可愛いと感じていたのだ。


「か、可愛いとは思っている」


「うん!そう言ってもらえるだけで頑張った甲斐がありましたよ。えっへへ」


そうしたふうに言うと大言壮語たいげんそうごに聞こえてしまうが言葉にしたのが激突の冬雅となれば心の声なのが理解する。


「でも誤解しているかな冬雅」


「えっ?誤解ですか……はっ!もしかして、お兄ちゃんやっぱり胸の大きい子やスポーツ少女が好きだったのですねぇ」


どうしてそう捉えたのか後で問い質すとして。


「ちがうちがう。幼い子やJKなど若い子が好きじゃなくて冬雅が好きなんだ。

仮の話をするなら好きなのは小学生じゃなく、冬雅が小学生の格好しているからなんだ。別に女子高生とか大人だからじゃなく、どんな現状でも冬雅が愛しているからだよ」


どう伝えるべきかを整然することせずに思いの丈をそのまま声にして伝えた。とんでもなく稚拙であることに血管が沸騰するような恥ずかしさを覚える。


「あっ、う、うん。そうなんだねぇ。

……立場や肩書きじゃなくて、わたしという存在が好きなんだねぇ。はうぅぅ。

お兄ちゃんがどんな人でも、わたし……愛せます。

だから、大好きです!それじゃあ」


絶叫するような声調で冬雅は告白をした。

そして恥ずかしさで居た堪れない気持ちになったのか冬雅は身をひるがえすとリビングを出て廊下を走っていたのだった。

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