第36話
「あぁ……、美味しいわ。甘いホットケーキと少し苦いホットコーヒーの組み合わせが最高ですね」
「ええ、そうね。ホットケーキを食べたのは初めてだけど、こんなに美味しかったのね」
「え……、今までホットケーキ食べたことなかったんですか?」
ホットケーキを食べたことがないなんて、珍しいどころではない。
どこのボンボンなのよ……。
あ、この国の王子か。
「もう一枚注文したいわ」
「食べ過ぎたら、あとでご飯が食べられなくなりますよ」
「それもそうね……。それじゃあ、ご飯を食べたあと食べられそうだったら、また食べるわ」
どうやら、殿下はホットケーキが気に入ったらしい。
「そういえば、クッキーの件だけれど、不思議よね」
「え、何がですか?」
「もしあれが、あの被害者を狙った犯行だとしたら、どうやって毒を仕込んだのかしら?」
「え……、普通に、クッキーに毒を入れたんじゃないんですか?」
「あの出店のクッキーは、客が箱を選んで店員に手渡していたわ。憲兵さんの話では、ほかの人が食べたクッキーには、毒が入っていなかったんでしょう?」
「ああ……、いわれてみれば、不思議ですね……。まるで、その箱を取るのがわかっていたかのようです」
*
(※ナタリー視点)
あぁ、今月も厳しいわ。
一向に上向きにならない。
どんどん利益は下がって、今は赤字にまでなっている。
今日の出費もかなりのものだった。
あれだけの数のサクラを用意するのに、かなりのお金を使った。
まず、前金としていくらか渡し、そのあと報酬を支払った。
予想外の出費だったけれど、店の経営状況を怪しまれないためには、仕方のないことだった。
問題は、皆がまた、お店に来るかどうかということだった。
ああ、どうしたらいいの?
みんなが来るたびにサクラを用意していたら、とんでもない額の出費をしなければならないわ……。
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