第5話
「君も、家族から酷い仕打ちを受けていたのかい?」
「ええ、そうなんです」
私も、自身の過去を話すことにした。
「私の両親は、子宝に恵まれませんでした。だから、私が施設から引き取られたのです。でも、私が引き取られてから数年後に、両親の間に子供が生まれました。それからは、本当に大変でした。妹がやることを、両親はなんでも肯定して、甘やかしていましたからね。私は我慢を強いられるばかりで、酷い扱いを受けました」
殿下は、真剣な表情をして、私の話を聞いていた。
今思えば、身の上話を誰かにしたのは、これが初めてかもしれない。
「ある時、家が財政難に陥ったことがありました。私は両親から、仕事をしろと押し付けられ、無我夢中でお店の経営をしました。そして、それがうまくいって、何とか財政難から立て直したのです。それから私は婚約したのですが、妹に彼を奪われてしまいました。両親は当然、妹の味方です。しかも、妹が奪ったのは、婚約者だけではありませんでした。私の経営しているお店まで奪ったのです。何もかも奪われて、私は遂に我慢の限界を迎えました。だから家を出て、こうして一人、こんなところにいるのです」
「そうか……、そんな目に遭っていたなんて……、君も、大変だったんだな」
殿下に話して、少しは気持ちがスッキリした気がする。
今まで後ろ向きなことばかり考えていたけれど、後悔してばかりいても、何も始まらない。
「さて、殿下、これからのことを考えましょう」
「ああ、そうだな。今ならこの辺りに兵はいないみたいだから、またどこかへ逃げるよ」
「そのことなんですけれど、私、決めました。私も、殿下の逃避行にお付き合いすることにしました」
「え、しかし、君をこれ以上巻き込むわけには……」
「いえ、私が自分の意志で決めたのです。私もずっとこんなところにいるわけにはいきませんから」
「ああ、ありがとう。そういえば、君の名をまだ聞いていなかったな」
「私はエルシーといいます」
「そうか。エルシー、これからもよろしく頼む」
「はい、エミリオ殿下」
私は笑顔で答えた。
笑ったのは、久しぶりのことだった。
「数日はまだ、この部屋で大人しくしておいた方がいいと思います。兵たちはまだ、この街を捜しているはずです。……それでですね、この部屋、一日に一度、清掃員の方が部屋に入ってくるのです」
「それは……、まずいな」
「ええ、ベッドの下などに隠れても、バレてしまう可能性があります。だから、殿下には一度この部屋から出てもらって、改めて受付をして、この部屋に泊まっていただきたいのです」
「えっと、しかし、それは難しいと思う。私は大勢の人に、顔を知られている」
「はい。そこで私に、考えがあります。殿下には、女装して頂きます」
「え……」
殿下は驚いた顔をしていた。
神に誓って言うが、決して私は殿下の女装姿が見たくてこんな提案をしたわけではない。
しかし、殿下の女装姿を見るのは非常に楽しみだった。
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