47「狂い出す歯車」
「あ~、もう疲れた!」
城門を出た所で、ブラックが声を上げる。
空に向かって伸びをして、貯まったモヤモヤを吐き出した。
天使ちゃんから体力回復の施術を受けた後、恩赦だとして解放された。
聞く所によると、一緒に捕まった仲間たちも帰されているらしい。
こうなってくると助けにきたマコトは無駄骨になるが、まあ嬉しかったのは間違いないからいいだろう。
存外マコトの計らいで、自分達が釈放されたのかも知れなかった。
「な~んて事はないでしょうけど」
マコトが本当に領主だったとしても、偽者疑惑のある今のマコトは、恩赦なんて大それたことができる立場にはないだろう。
そもそも恩赦なんてものは領主の代替わりとか、新王の誕生とかそういった代えがたい出来事に際して行われるものだ。
たかが近隣の城主が訪ねてきた位で、ほいほいと行われるものじゃない。
「……確かに、そうじゃない。おかしいって」
自分で考えていて、状況のおかしさに気が付いてしまった。
今は恩赦なんて行われるタイミングではないのだ。
恩赦というのはめでたい時に、全ての犯罪者が許されると言うとんでもない措置なのだ。
だいたい今回捕まった自分達は、ルドワイエのパレードを襲ったとして捕まった者達。
解放して再びルドワイエを襲わせたいのだろうか?
いや、それなら最初に襲撃した時に、阻止などしなかっただろう。
そもそも奇想の断崖は、メイド隊に反発する動きを見せて、領民の不満を肩代わりする役目でしかない。
力がないからこそメイド隊にも見逃されている、領民たちの仮初のヒーローでしかないのだ。
だいたいルドワイエの後ろには、先代領主であるリューインが関わっていると聞く。
マコトやメイド隊、領民がルドワイエを害せば、リューインは支援しているルドワイエを護るためという大義名分を得て、シリウスアクティビティに攻め入ってくる恐れがあるのだ。
マコトやメイド隊の意図ではない。
だとすると、
「……ルドワイエがやったの?」
レインから聞いた、洗脳というワードに思い至る。
ルドワイエがメイド隊の誰かを洗脳して、恩赦を出させたのではないだろうか?
目的……目的は分からないが、自分が新しい領主に代替わりする前祝のような感覚で?
そもそも代替わりするための布石だろうか?
「……レインの言う通りメチャクチャじゃない」
大きな音が鳴り、ブラックの後ろで城門が締まる。
跳ね橋も回収されており、城との間には巨大な堀が流れるばかりだった。
城門脇の扉から中に入っていくメイド達に、大声で警告でもしようかとも考えた。
しかし彼女達がルドワイエ側に洗脳されていないという確信が持てない。
これがメイド長が感じているというジレンマかと、ブラックは自嘲するしかない。
「バレルゲイザーを返してもらうべきだったわね」
バレルゲイザーとは、ブラックが愛用する2丁の銃だ。
捕まった時に没収され、まだ返却されていない。
恩赦が超法規的なものだったので、物品返却の手続きが間に合わなかったとの事だった。
今手許にはレインに借りた、頼りない銃しかない。
「とにかく本部に戻りましょう。皆はもう帰っているらしいし」
治療の関係で、ブラックの釈放が最後だったらしい。
ブラックは胸騒ぎを覚えながら、本部へと急いだ。
呑気に釈放パーティーでもして、男どもがホワイトに呆れられている。
そんな、いつもの仲間たちを思い描きながら。
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