第65話 悩みの日々

 ソフィアとの買い物から月日が刻一刻と迫る中、俺は全くいい案が浮かばずに、今日も教室の自分の机で頭を抱え続けていた。


 今回のイベントの内容についてだが……それは、夏休みにソフィアの両親が日本に来るのが発端だ。ゲームの中のソフィアは大喜びで、陽翔も喜ぶ中、事件が起こる。


 なんと、乗っていた飛行機が故障してしまい、そのまま墜落……ソフィアの両親は帰らぬ人となってしまう。


 両親が大好きだったソフィアは、遺体の前で泣き崩れる。そんな彼女に、陽翔はなんて声をかければいいのかわからず、その時はそっとしてあげるんだ。


 そして、その後ソフィアは……後を追うように自殺する。遺書には、『ハル、ごめんね』という短い文章が、涙でヨレヨレになった紙に書いてあった。


 もう後悔しても遅い。ソフィアは……大切な幼馴染は、二度と帰ってこないんだ……というシナリオだ。


 補足しておくと、その後主人公も病んでしまい、廃人みたいな生活を送るようになる。マジで救いようがない鬱エンド。


 そんなのが、これから来るって分かってたら……絶対に阻止しないとって思うのが普通だろ!? なのに、どうすればいいかわからず、時間だけが過ぎる。


「ハル~?」

「陽翔さん?」

「…………」


 本当にどうすればいいんだ? こっちに来たら死ぬから来ないでくれって頼む? そんな事を言っても信じてくれないよな。


 駄目だ、本当にいい案が浮かばない。焦れば焦るほど、頭の中に霧がかかっていくように、何も思い浮かばなくなる。


「ハルってば~!」

「どわぁ!?」

「きゃあ! 陽翔さん!? ソフィアちゃん!?」


 突然ソフィアに抱きつかれた俺は、驚きのあまり椅子から転げ落ちてしまった。しかもソフィアを巻き込んで。


 あ~……いってぇ……ん、なんだこれ。なんか目の前が真っ暗なんだけど。もしかしてまたソフィアのおっぱいに埋もれ――いや違う。おっぱいの感触じゃない。


 ついでに補足しておくと、お腹辺りにやたらと柔らかくて弾力のある物が乗っかってる。


 なんだろう、埋もれてるっていうより挟まれてる? それに、薄暗い景色の向こうに、肌色と白いのが……って、もしかして!


「ひゃん!? は、ハル~! 息吹きかけないで~!」

「んぐっ……!?」

「ソフィアちゃん! スカートめくれてます……!」

「え? あわわ、本当だ!」


 やっぱりこれ、ソフィアのおしりに潰されてるのか!? って事はこの白いのは……ソフィアのパンツ!? しかも布面積が少ないから、おしりがほとんど見えちゃってるんですけど!?


「んー!!」

「ご、ごめんね! すぐに退くから!」


 ソフィアのパンツから解放された俺は、息を乱しながら立ち上がった。


 うぅ……体が痛いし、ビックリして心臓バクバクしてるし、クラスメイトの視線が痛いし、ついてないぜ。


「あ~ビックリした! まさかそんなに驚かれるとは思ってなくってさ~」

「そ、そうか。それで二人ともどうかしたのか?」

「その……お昼、一緒に食べませんか?」

「……ごめん、今日も一人で食べたいんだ」

「あ、ハル!」

「陽翔さん……」


 そう言いながら、俺はソフィアが作ってくれた弁当を持って教室を一人で後にした。


 最近、俺はずっと一人で飯を食いながら考え事をしている。一人で考えてたって、良い案なんて浮かばないのは分かってても、どうしてもみんなで楽しく昼飯って気分になれないんだ。


「はぁ……」


 屋上に来た俺は、もう何度目かわからない溜息を吐きながら、ソフィアの作ってくれた弁当の蓋を開ける。今日もソフィアの弁当は美味そうなのに、心が躍らない。


「随分と暗い顔だな」

「え? 西園寺先輩……どうしてここに?」

「暗い雰囲気で屋上に行く姿が見えたからね。私も一緒にいいかな?」


 そう言いながら、俺の答えなど聞かずに隣に腰を下ろした西園寺先輩は、持っていたおにぎりにかぶりついた。


「あの……?」

「最近随分と悩んでいるそうじゃないか。私に相談してみないか?」

「……お気持ちは嬉しいんですけど、誰かに話しても……」

「ふむ、何故話す前に決めつけるのか、私にはわからないが……君がそうするなら、考えがある」


 そう言いながら、西園寺先輩は指をパチンと鳴らすと、俺の背後に一瞬でメイド服を着た人が現れた。しかも、俺の背中に筒状の物を突きつけている。


「西園寺先輩!? どういう事ですかこれは!」

「おや、これは困った。このままでは君の背中がどうなることやら」

「なっ……!?」

「嫌なら私に話すんだな。さあどうする?」

「……わ、わかりました! 話しますから!」


 こんな……ヤクザや警察が使うようなものを突き付けられたら、素直に話すしかない。まさかこんな力技をしてくるなんて、思っても無かった。


 まあいいや、とりあえず解放されたしよかったよかっ――え?


「何でございましょう?」

「え、これ……クラッカー?」

「はい。パーティーに使うあれでございます」

「ふむ、君は一体何と勘違いしたのかな? 私には定かではないが、男が自分の発言を曲げるような事はせまい」

「うっ……」


 俺はてっきりもっと物騒なものだとおもってたら、まさかのパーティーグッズというオチとか、勘弁してくれよ!


「さて、話すという事で……私がゲストを呼んでおいた」

「ゲスト? あっ……」


 ゲストの存在に首をかしげていると、屋上の出入り口に、こちらを心配そうな顔で見つめている、ソフィアとゆいの姿があった。


「私が呼んだんだ。君が悩むくらいなんだから、少なからず彼女達も関係してるってね」

「そうですか……」

「ハル、お願い……話してくれないかな?」

「陽翔さんが悲しそうだと、ゆい達も悲しくなっちゃうんです」

「ソフィア……ゆい……」


 推し三人に心配されるなんて、俺は幸せ者だ。そして、なんて情けないんだ。自分が恥ずかしい。


 そんな俺だけど、覚悟は決まった。ここまで来たら、どうせ逃げられない。そう思った俺は、ソフィアの両親がこのままこっちに来たら、途中で飛行機事故が起きて亡くなると伝えた。


「も、も~! 冗談キツイよハル!」

「そ、そんな事が起こるとは……思えないです」

「……? 君は何を言っている?」

「そうなるから、誰にも話さなかったんですよ。俺が逆の立場だったら、絶対同じ反応になりますし」


 そりゃ、いつの飛行機が落っこちます! だから乗らないで! なんて話したら、こいつ何言ってるんだって反応になるよな知ってる。


 でも、だからといって俺の馬鹿みたいな話ですーで終わらせる事は出来ない。このまま進めば、確実に事故は起こるのだから。


 そんな事を考えてたら、顔が強張ってきたのか、ソフィアが俺の手を握りながら、心配そうに見つめてきた。


「ねえ、本当に……このまま来たら、パパとママは死ぬの……?」

「俺の知る限りではな」

「そんなのやだ! なんとかしないと!」

「俺もそう思って、ずっとそれを考えてたんだ。けど、何もいい案が浮かばなくて、焦りばかりが募って……でもソフィアに心配もかけたくないし、信じれ貰えるとも思えないし……で、今に至る」


 本当にどうすればいいんだ……頭を悩ませていると、西園寺先輩は注目を集めるように、パンっと手を叩いて音を出した。


「わかった。私に任せろ」

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