第128話 各ポーションのフレーバー

 シェフの気まぐれ料理を導入して早十日が経った。


 初日のトンカツから大好評を博したが、それ以降の料理も非常に評判も良い。


 特に、昨日出した『バターチキンカレー』はトンカツ並みに好評で、レギュラー化希望の声も多数ある。


 個人的にも良い出来だったと思うので、追加の調整次第では正式メニューに加えるつもりだ。


「――ふぅ。今日の『シュークリーム』もいい感じだったな」

「キュウ♪」


 営業終わり、俺はいつものように寮の簡易キッチンへ向かう。


 店のキッチンはクービスが使っているからだ。


 シェフの気まぐれの人気具合を見て料理人魂に火が付いたらしく、最近は特に熱心に試作している。


 今はトンカツに似たオリジナル料理を試作中だと言っていた。


「さて……今日はポーションのほうを仕上げるかな」

「キュ!」

 

 ツキネのおやつに油揚げを作った俺は、魔法袋からポーションを取り出す。


 先日ディーニャから貰っていたライフポーション以外のポーションだ。


 ここ数日は気まぐれ料理に力を入れていたため、今日はポーションに集中したいと思う。


「まずは……マナポーションから始めるか」


 マナポーション。


 魔力を回復させる効果があり、ライフポーションに次いで定番のポーションだ。


 ほんのりと青みがかり、見た目にはとても美しいが、ディーニャのポーションなので味についてはノーコメントである。


 マナポーションから調整することに決めた俺は、さっそく【味覚創造】を発動。


 ここ数日忙しかったとはいえ、ポーションについて考えていなかったわけではない。


 各ポーションの味についてはイメージに合わせて決めている。


「……うん。良い感じ」


 味覚チェックを行い頷く俺。


 マナポーションの味はその爽やかな色味から、スポーツドリンク風に調整した。


 いわゆるスポドリの味にさらなる柑橘感を加え、すっきり感を重視した味だ。


 柑橘感が強いのでスパークリングとも相性がよく、強力タイプの味も作りやすい。


 満足のいく味に仕上がったため、次のポーションの調整に入る。


「次は麻痺治しポーションだな」


 麻痺治しポーションの色は透き通った黄色。


 レモン味とエナジードリンク味で迷った結果、薬ということでエナドリ風にしようと決めた。


 他のポーションは炭酸の有り無しで2タイプの差別化を図っているが、エナドリといえば個人的に炭酸のイメージが強い。


 そのため、通常タイプは微炭酸のエナドリ味、強力タイプは強炭酸のエナドリ味に調整した。


「こんなもんか。やっぱエナドリは美味いな」


 十五分ほどで納得の味に調整できたので、最後の解毒ポーションの調整に移る。


 解毒ポーションの色は濃い紫。


 紫色のジュースと言えば葡萄味のイメージがあるので、葡萄系のドリンクを意識して作っていく。


 芳醇な葡萄の香りとしっかりとした甘みを付け、後味はスッと消えていくように調整。


 葡萄味なのでスパークリングとの相性も抜群だ。


「よし、完成!」


 全てのフレーバーを調整し終えた俺は、実際に各ポーションの味を変えてみる。


 ライフポーションの時同様、まずはAの粉でポーションの味を消し、その後に今しがた調整した各種Bの粉を入れるやり方だ。


 基本的に味は変わらないが、水に溶かすことで僅かな差異が生じることもある。


 さらに二、三十分の微調整を行い、全ポーションのBの粉が完成した。


「意外と早く終わったな」


 休憩のためリビングに行った俺は、テーブルで談笑していたビアとフルールにもポーションの味見をしてもらう。


「どれも美味しいよ! ボクはスポドリ味? のマナポーションが一番好きかな」

「私はエナドリ味の微炭酸。だけど他のも全部美味しい」


 どの味もビア達に好評で、特に異世界にはないスポドリ味とエナドリ味を気に入ったようだ。


「キュウ!」

「ん? ツキネも飲んでみるか」

「キュウ♪」


 ついでにツキネにも試飲してもらったが、どれも甲乙つけ難く美味しいとのこと。


 強いて言うなら葡萄味の炭酸無しが一番らしく、ちょうど三者で好みが分かれた形だ。


 各ポーションの個性が出せた証拠とも言えるので、バランスの良いフレーバー選択になったと思う。


「明日ディーニャに手紙を出さなきゃな」


 その後、明日出すための手紙を事前にしたためた俺は、再びキッチン部屋へ戻る。


 ポーションの調整がスムーズにいき、思ったよりも時間が余ったからだ。


「そうだな……新作のデザートでも試してみるか」


 ジェラートをメニューに加えて以来、なんだかんだでデザートのレギュラーメニューは増えていない。


 甘い系としてはテイクアウト用のパン・オ・ショコラが増えたが、デザートかと言えば違う気がする。


 先日はトンカツが正式メニューとなり、バターチキンカレーも近々加わりそうなので、この機会にデザートを増やすのもありだ。


 そうして、いろいろなデザートを考えているとあっという間に時間が過ぎ、夕食を挟んだ後も眠くなるまで試作を続けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る