第11話

 優は九重の姿が見えなくなると、手に持ったお守りを見た。


「これがあれば大丈夫って言ってたけど、本当なのかな・・・?でも効果を試すのに霊に自分から近寄るのも危ないしな・・・。まぁ師匠を信じておくか」


 優は師匠になった男、九重の事を思い浮かべる。


 彼が実際に見せてくれた霊は、優にとって凄く衝撃的だった。今までの人生で過去一番驚いたかもしれない。


「あ、でも女になった方のが衝撃的だったかも?」


 優はもう一つの衝撃的な事態を思い出した。霊の事で一時的に頭から抜けていたが、こちらの方がよっぽど衝撃的かもしれない。


「っていうか・・・もしかしてこれも霊のせい・・・?」


 優の数多の中にそんな考えがふと浮かんだ。自分が女になったのはファンタジーやSFなのではなく、ホラー的なモノなのではないかと・・・。


 今更ながら、九重にそういう事もあり得るのかと聞いておくべきだったと、優は少し後悔した。ならば今から聞けばいいのではないかと言う所なのだが・・・。


「しまった・・・。連絡先聞くの忘れてた・・・。っていうか師匠も師匠だ!連絡先くらい何も言わなくても教えてくれよぉ~・・・」


 優は理不尽な怒りを九重に向けていた。恐らく九重が聞いたら「知らん」の一言でそっけなく返されるだろうが、何か言わずにはいられなかった。


 優は暫くあーだこーだと愚痴を言っていた。しかも愚痴を吐き続けるにつれ、九重にはまったく関係ない事まで言い出し、挙句の果てには愚痴を言って疲れて来た事まで九重のせいにしだした。


「あぁ~もう!本当に師匠は・・・!・・・ふぅ。俺何言ってたんだろ・・・」


 しかし一通り愚痴を吐いてスッキリすると、急に思考が落ち着き、自分何言ってんだろうと気分が落ち込んできた。


「これはあれだな、師匠のせいじゃなくて・・・霊のせいだ!一時期流行ったしな、何でも霊のせいにするの。・・・なんか違うか?まぁいい!全部霊のせいだ!」


 優は全て霊が悪いと結論付けた。それも理不尽な気もしたが、霊はそんな事を言われたところで何もないだろうといい事にしておいた。


 一通り暴れ終わったところで優は神社の方へと向き直り、どうしようかと考える。元はといえば、自分が女になった手がかりを探すためにここへと来たのだが、もしかすると女になってしまったのは霊のせい、そういう新しい考えが出て来た。

 それならば九重に聞いてから動いた方がいいのかもしれない、そう優は考えた。


「けど来ちゃったし、取りあえず一通り見て回るか」


 しかしすでに神社にいるので、ここだけ見て後は九重に相談してから動いてみよう。優はそう決めて神社の境内を見て回ることにした。


 少し色あせた鳥居、古くなっているが未だ水が流れている手水舎ちょうずや、元は人が詰めていたであろう小さな社務所、年期は入っているがしっかりした拝殿。


「後はあそこだけか」


 優は後一か所だけ見ていない場所を見てそう言った。


 優が見たのは、拝殿の奥にひっそりと建っている、拝殿同様年期は入っているがしっかりとした『本殿』 だ。


 本殿とは神様が祀られ、ご神体が置かれている場所。何かがあるならここなのだが、普通の神社だと本殿は基本一般客は立ち入り禁止で中を見る事は敵わない。だが、この神社は人もおらず無人、それでも立ち入るのはよろしくないかもしれないが、優は本殿へと歩みを進めた。


「流石に中へ入るのはよくないかなぁ・・・まぁ隙間からチラッと見るだけなら大丈夫だろう」


 それも本当はいけないのだが、女になってしまった原因がここにあるかもしれないんだ、と自分に言い訳し、本殿の入口へと近づいて行った。


 本殿の入口前にたどり着いた優は、所々に隙間がある事に気付き、その中でも一番大きそうなものに取り付き中を覗いてみた。




 本殿の中は所々にある隙間から光が差し、存外と明るかった。


 一番奥には祭壇が組まれ、そこに何やら色々と乗せられていた。


 入れ物に入れてある葉が付いた枝、液体が入った瓶、小さな社、鏡、箱、人の首。




「・・・?」


 おかしなものが見えた気がした優は、一度隙間から顔を離し目をこする。そして首を傾げながら再度覗き込んだ。



 葉が付いた枝、液体が入った瓶、小さな社、鏡、箱、人の首。



「・・・っ!」


 やはり見間違えではなかったようだ!優は声さえ上げなかったものの、驚き固まってしまい、その人の首に視線が固定されてしまった。


 その人の顔は作り物の様で、閉じられた瞼に付いた長いまつ毛、スッと通った鼻筋に、小さめの赤みが美しい唇、顔は小顔で髪は艶やかな長い黒髪と、人形のように美しかった。


 優は、もしかしてあれは人形かと考えてしまう。何故なら、あそこまで美しい人がいるとは考えられなかったからだ。


 人形ならば流石に恐怖することはないと体の力が抜け、覗いていた隙間から顔を離す。それでもあんな所に人形の首があるのはおかしいとは思ったのだが、優はそこまで神社の事には詳しくなかったので気にしないことにした。そして再び隙間に取り付き中を見回していく。


 しかし最初に見た物以外は特に何もなく、まぁそんなものだよなと祭壇の上を再び見て行く。




 墓とか仏壇によく見られる葉が付いた枝。


 恐らくお酒だろう液体が入った一升瓶。


 神様でも祀っているのだろう小さな社。


 ご神体だろうか?社の前に置かれた鏡。


 何が入っているのか解らない小さめの箱。


 そして目を開きこちらを見ている・・・人の首。




 優は再び固まった。確かに閉じていたはずの人の目が開き、優の方を見ていた。


 その瞳はやはり作り物の如く美しくて、吸い込まれるような黒い瞳の視線に優は射貫かれていた。


 しかし何故だろう、境内で九重に見せてもらった霊には唯々恐怖を感じたのだが、あの黒い瞳からは・・・。


 なんであろうか・・・そう・・・畏怖、恐れと敬う気持ちが混じり合った様なそんなモノを感じた。


 やがてその人は目を閉じ、再び人形の如き感じへと変わってしまった。


 優は隙間から顔を離して本殿の前から動き出した。そしてそのまま静かに境内から石段の方へ行き、やがて自分の止めた自転車までたどりついた。優はそのまま自転車に乗り、自宅へとペダルを漕いで行った。


 ・

 ・

 ・


 優は自宅で夕食を取っている時に、ハッと我に返った。


「あ・・・、ご飯食べてる。いつの間に・・・」


 優は、本殿で見た人の首に見られてから自宅に帰りご飯を食べ始めるまでの間、ボォーっとしていたみたいだった。

 確かにあの神社から今までの記憶はあるのだが、あの美しくも恐ろしい瞳に射貫かれてから、ずっと夢を見ていたみたいにふわふわしていて現実感を感じられなかったみたいだった。


「あれ・・・なんだったんだろう・・・。もしかして神様・・・?」


 九重曰く、神様も霊という分類なのだそうだが、あんなのは神様と呼んでもいいんじゃないかと優は思った。格というのだろうか、今まで見て来た霊とはまるで違ったものの様に感じられたのだ。


「師匠にあったらその事も聞いてみるか・・・」


 優は九重に対して聞きたいことがドンドンと増えてくるのを感じていた。もし連絡先を交換でもしていたら、「流石に質問が多い」と言われていたかもしれない。


「速く来週にならないかなぁ・・・」



 優は、来週の約束の日がはやくこないかなぁ・・・とそんな事ばかり考えて夜を過ごした。



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