第339話 南方空戦とガイアの緒戦
<<南空域 浮遊空母翔鶴>>
スタンピード転移門の南空域では、モンスターをメイクイーンの地から引き離すべく、航空型モンスター1800を引き連れて飛行していた浮遊空母翔鶴が、途中で進軍速度を上げたモンスターに肉薄されるという事象に見舞われていた。
だが、そこに作戦中の多比良軍主力が居合わせたことで、難を逃れていた。今では、爆撃のためにお出かけしていた艦載機も軽空母で補給を済ませて合流し、ガーゴイル部隊を退けるに至っているが、依然として千を超える大型の航空型モンスターに追われていた。
「瑞鶴から入電、東側の迂回空路でうまく敵の索敵から逃れたようです。今は転移門の東20キロ地点」と、通信士が言った。
本作戦のレーダー通信機能は、瑞鶴と翔鶴で同等機能を持つ。仮にどちらかが離脱しても、1函でも残れば作戦に支障はない。
「分かった。これで通信インフラは保てるな。後はどうするか。このまま五稜郭まで飛ぶか?」と、翔鶴の艦長が冗談めかして言った。ここから南に500キロ弱飛ぶと、五稜郭に着く。
その時、浮遊空母の近くで爆炎が上がり、しばらく後に衝撃波が到達する。ノーラ団長の殲滅魔術と推察された。
「近いですな。いかが致しましょう」と、通信士。
「軽空母からの情報によると、南に動いていた地上モンスターの大半が反転し、メイクイーンに向かっているようだ。地上と航空のモンスターが離れすぎたためだろう。さて。こちらはどうするか。五稜郭がある南に飛んで陸自の恨みを買うか、東に飛んで海に落ちるか、西に飛んでメイクイーンに行くか」と、艦長が言った。
予定では、幕僚から指示が来るはずであったが、作戦室が多忙なのか、まだ指示は来ていない。
「この際、西に飛んでメイクイーン軍と合流しては? 実際、それが現実的かと」と、副艦長。
「そうだな。航空モンスターは、後どれだけになっている? いくらなんでもトレインしてきたモンスターでメイクイーンに迷惑を掛け過ぎてもいかん」と、艦長。
「正直、ばらけ過ぎていて不明です。ですが、戦闘開始からすでに2時間。爆発音の数から言って、千体は倒しているでしょう」と、副官。
「それでもまだ800か」と艦長が呟きながら、自分の浮遊空母の飛行甲板を見る。
ここでは、ひっきりなしに降りてくる艦載機が、魔力の補給等を受けている。魔力備蓄用の『魔王の魔道具』が希少すぎて装備数が少ないため、直ぐに魔力を使い果たしているようだ。
中にはモンスターの攻撃に合い、被害を受けている艦載機もあるし、怪我人も出ている。
だが、撃墜と死者は未だ出ていない。これは偶然ではなく、防御性能を優先して上げていることに起因すると翔鶴の艦長は考えた。
この魔道科の飛行戦隊は、日本人の設計思想としては珍しく、被弾することを前提に、防御と隊員の生命維持に配慮したものとなっている。要は、空間魔術入りの魔王の魔道具、自動バリア発生装置、墜落時の反重力安全装置は標準装備で、なおかつ広域魔術障壁の適性者が必ず一人は乗るような規則になっている。
しかも、多比良城という日本人のお陰で、魔力とそれを備蓄出来る魔道具は、かなりの数が自衛隊に回されている。
「彼が、日本人であることに感謝か」と、艦長が呟いた。
◇◇◇
<<同空域 多比良城>>
『多比良さん、魔力切れ。補給よろ』と、ノーラ団長機から連絡が入る。かれこれ何回目だろうか。そろそろモンスターと空戦するのも疲れてきた。腹筋が痛い。両足のもものあたりも痛い。
「ツツ、座標設定お願い」と、前席に座るツツに命じる。
ツツは、『はい、この辺で』と言って、座標を出してくれる。もちろん、モンスターがいない安全空域だ。今の局地戦においては、軽空母の管制に頼らず、ツツが判断してくれていた。
「よし、ノルン、しばらく一人でガンバ」と通信機に言って、目の前の空母型を一発切りつけて合流地点に飛ぶ。
今は、ノーラとノルンで消費魔力量を調節しながら航空型モンスターと持久戦を繰り広げていた。
最初はガーゴイルの駆除を俺たちでちまちま行っていた。だけど、翔鶴所属の艦載機30機が戻ってからは、雑魚はそちらに任せ、俺たちは大物狩りを始めた訳だが、これがまた数が多くて嫌になってくる。
もう何匹倒したのか数えていない。だけど、まだまだアホみたいに空を飛んでいる。
などと考え毎をしながらツツが指定した座標に近づくと、ノーラ団長機を真下に確認。こちらに手を振っている。
そのまま速度を落とし、高度を下げると、向こうがこちらにピタリと付けてきた。悔しいけれど、運転技術はノーラ団長の方が上かもしれない。
「いや~楽しいね」と、ノーラ団長が言った。そうかなぁ。俺はもう飽きて来たけど。体がキツいし。まあ俺は触手攻撃でノーラ団長は攻撃魔術だから、その差はあるのだけど。
「はいはい。でも、そろそろ魔力の出が悪くなってきた。無駄遣いは厳禁」と言っておく。
俺の魔力は無限という訳ではない。大量に備蓄でき、魔力の回復速度も人よりとても速いというだけだ。
使いすぎると温泉の湯の出が悪くなるらしいのだ。俺が直接確かめた事はないけど、実験したらそうなったらしい。魔力を使いすぎるとお湯ガイアはどうなるのだろうか、などと益体もないことを考えながら、ノーラ機に魔力を補給していく。
「さあて、敵は後半分もいない。シールド型とマシラはほぼいないし。余裕でしょ」と、ノーラ団長。
「だけど、メイクイーンに敵が向かってるって連絡あったでしょ? まずくね?」
「到達まであと3~4時間でしょ? 第一波は凌いだらしいし、航空部隊がいなけりゃ大丈夫よ」と、ノーラ団長。
今は15:00だから、敵の到着予想時間は18:00~19:00だ。夜戦になるかもな。
空飛ぶ巨大なモンスターが、メイクイーンに向かっていないのは幸いだけど。
「でも、ホッパーいるんでしょ? あの超巨大バッタ」
ホッパーとは超巨大ショウジョウバッタで、滑空の後、頭突き攻撃をするという肉薄されるとかなり厄介なモンスターだ。
「そうね。でも、そのためにあそこ要塞化したんでしょ? 彼らがなんとかするわよ」と、ノーラ団長。少々、テンションがハイになっている気がする。
『ねぇ~まだぁ~。私も魔力が欲しいぃ~』と、ノルンから通信が入る。
「ああ~はいはい。そろそろ行くから。少し待ってて。合流座標はココで」と、ノーラが言った。
ノーラはこちらを見て、「さて、私はまた行ってくる。メイクイーンのために、早くしないとね。彼ら、ちゃんと撤退するか心配なのよ」と言った。
それは同感だ。俺もまだまだ頑張りますかね。
俺は、敵に突撃していくノーラ団長を見送り、補給のために合流するノルンを待った。
◇◇◇
<<田園都市攻防戦>>
「うひょおおお~アレがガーゴイルか! なんという数じゃ」と、ガイアが移動砦の艦長席で叫ぶ。
地平線の彼方には、無数の低空飛行する粒が見えていた。
ひゅうひゅうと降り注ぐ迫撃砲の爆風にも怯まず、突進してくる。
「艦長、前に出すぎです。少し後ろに下がらせますぜ」と、副官が言った。
ここ、田園都市南部では、移動速度を上げた地上モンスターを遊撃すべく、マ国のガンシップと手近にいた移動砦を前進させていた。
その中の艦に、ガイアの移動砦がいた。この艦は、日本人技術者が手を加えた一品。ロングバレルのオリジナルが多数配備された特殊構造を有していた。
火力は相当なものであるが、ラメヒー王国の兵士は実戦経験が乏しいからして・・・
「頭上にはマ国のガンシップもおる。大丈夫じゃ。ラメヒー王国の一番槍は私じゃ」と、ガイアが言った。
戦場の緒戦において、何故か無敵感を抱く兵士は多い。だいたいそういう兵士から先にやられるものだが、彼女は艦長・・・
その時、ガイア艦の頭上でマ国のガンシップから、155ミリ魔道榴弾砲が一斉射される。
ズドンズドンと頼もしい音を出す。だが、ガンシップは、目の前のガーゴイルではなく、遙か後方の地上モンスターを狙っている。
『前に出過ぎだ。即刻後ろに下がられよ』と、田園都市の本陣から通信が入る。
「どうします? 艦長」と、副官。
「う、うむ。少し下がろうかの」と、ガイア。
「艦長! ガーゴイルが上昇。さらに、速度増加」と、観測班が言った。
「何? 地雷攻撃は?」と、ガイア。
「地雷は、舞い上がられると効果が薄いです。それに、地上モンスターの本隊は後ろにいるのです。それまで温存でしょう」と、副官。
「じゃあ、後ろに下がるか?」と、ガイア。
「いえ、敵は有効射程内です。今動くとこちらの攻撃が当たりません」と、副官。
「何と! 敵の飛行兵ごとき、この移動砦の敵ではない。一斉射撃。応戦せよ」と、ガイアが叫ぶ。
「わ、分かりました。応戦せよ、砲撃開始」と、通信士が艦内放送で伝える。
・・・・
ドンドコとロングバレルの一斉射がガーゴイル部隊に振り注ぐ。何体かは即座にはじけ飛ぶが、空飛ぶ小さな敵にはなかなか当たらない。
そうこうしているうちに、あっという間にガーゴイルがガイアの移動砦に取り付く。
「艦長、抜刀隊で戦うしかないですな。よろしいですか?」と、副官が言った。
「う、うむ、分かった。任せる」と、ガイア。
「よし、D部隊、ガーゴイルを駆逐せよ」と、副官が全艦放送で言った。
その直後、艦内をドタバタと走る音がして、小さなおじさん達が一斉にロングバレルの砲座や屋上などに飛び出していく。
D部隊とは、ラメヒー王国が誇るドワーフ部隊。普段は陽気な彼らであるが、いざ戦闘となると持ち前の
ここ、ガイアの移動砦には、10女とはいえドワーフの姫たるガイアを守るため、D部隊が配備されていた。
というか、本来、対人兵器であるガーゴイルに移動砦を落とすことは出来ず、そのガーゴイルも対人戦に優れるD部隊相手にはひとたまりもなく、切り伏せられていく。
だが、一人テンパっているのが一人、「あわわわわ・・・どうなったのじゃ?」と、ガイアが言った。
「艦長、こちらは重武装の移動砦です。小型の飛行モンスターごとき、敵ではありません」と、副官。
「ほ、ほうか。うん、でかした。それで、どうなっている?」と、ガイアが言った。
「田園都市の城壁から機関砲応射が始まっています。うちらが邪魔で、ここには撃てないようです」と、副官。
ガイアが外を見ると、大量のガーゴイルが、ガイアの移動砦を無視して田園都市の方に向かっている様子が確認できた。
「ど、ど、どうしよう」と、ガイア。
「そうですな。まあ、いいのではありませんか? 敵の一部を引き付けて、戦っているのは事実。このままここでガーゴイルとやらと遊びましょう」と、副官。
「そうか。勇ましいな。ではその様に」と、ガイア。
「ですが、敵の地上モンスター本体がもう少しで到達します。アメリカ軍戦車隊の水平射撃が始まると、フレンドリィファイアが怖く、もはや逃げる事もままなりません」と、副官。
「なぬう? 不味いではないか」と、ガイア。
「敵本体もここで受け止めるしかないですな。まあ、東なら逃げる事が出来るかもしれません」と、副官。
アメリカ軍の配置は、西にあるバルバロ辺境伯領とその東にある田園都市の中間。
今、ガイア艦がいるのは田園都市の真下なので、東に抜ければフレンドリィファイアの危険性は少なくなる。
「うぐぐぐ。まあ、よい。我が国の移動砦は無敵じゃ。魔力もまだまだある。しばらくここで粘るぞ」と、ガイアが言った。
「分かりました艦長」と、副官が応じた。
田園都市では、機関砲掃射を抜けてくるガーゴイルに対し、走竜に騎乗した抜刀隊が城壁を駆けめぐっている様子が観察できた。
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