第289話 兵器輸送というアルバイト 12月上旬

<<バルバロ辺境伯領>>


今日はラメヒー王国からの依頼により、アメリカ製兵器の輸送を行う。とりあえず、今回の輸送品目は、試験的なもので、大量輸送はまた別の機会のようだ。


朝一で五稜郭の補給を終わらせ、軽空母でバルバロ辺境伯領の上空にまでやってきた。


城壁の周りには、多数の移動砦が泊まっており、多数の技術者たちが城壁工事を行っていた。


今、バルバロ辺境伯領の城門の外には、国中の移動砦が集結している。

3月に発生するスタンピードの討伐用、それから工事用として。


そのうち工事用は、既存の城壁の補強をしたり、城壁前に足止め用の堀と土塁を築いているようだ。

この中に、きっとモルディやドネリーやネメア、それから豆枝さん達がいるのだろう。是非頑張って欲しい。


このいくさの勝敗は、これから数ヶ月の準備にかかっている。

彼らも、間違いなく戦士だ。


なお、先日持ち帰った潜水艦もこの辺に置いておいたはずだが、今は無くなっている。


軽空母をバルバロ辺境伯領に近づけると、水先案内役である反重力魔術士が飛んできて、誘導してくれる。


誘導のまま進み、移動砦軍の陣地の一角に着陸する。


到着すると、そこには目覚ましおじさんが待っていた。

今回のラメヒー王国の移動砦軍を指揮する、ウスピラ将軍だ。


「よう。待っていたぜ、兄ちゃん」と、ウスピラ将軍が言った。


「お疲れ様。目覚ましの」と、返しておく。


ウスピラ将軍は、「がははは。相変わらずだな」と言って、人なつっこい顔をする。


「調子はどうです? 見た感じ、城壁外の簡易砦も結構形になって来たかな」と言って、移動砦が沢山泊まっている荒野に目線を移す。


バルバロ辺境伯領は、高さ15mの城壁を誇るが、その前や横にも高さ5mくらいの城壁がちらほらと造られている。


「そうだがな。こんなもんじゃまだまだ足りんだろう。間に合わなければ、死ぬだけだがな」と、目覚ましおじさんが言った。


「まあまあ、そうならないように兵器を輸入するわけで」


「ふん。使える武器であればよいがな。とりあえず、ついて来てくれ」と言って、将軍が歩き出す。


・・・・


目覚ましおじさんの後ろを、俺、ツツ、糸目、アルセロール、フランでついていく。


城門の外にある少し小高い台地に案内される。ここは、天然の台地のようだ。


「このあたりを訓練用の陣地とする。本番の詳細配置は、性能を見てからだな。とりあえず、今回は迫撃砲、野戦砲、戦車と装甲車数台と聞いている。転移させるなら、ここだ」と、目覚ましおじさんが言った。


今回は、大物輸送用の『パラレル・ゲート』の入り口を、アメリカの海兵隊基地とここに繋ぐ。


「了解です。早速取り掛かりましょうかね」と言いながら、この高台からスタンピード転移門のある方角を眺める。見渡す限りの平野である。ここからなら、さぞかし狙いやすいだろうと思った。



・・・・

<<アメリカ合衆国 キャンプ〇〇>>


アメリカに転移すると、直ぐに見知った人に声を掛けられる。


「よっ。来たね、多比良さん」と、スキンヘッドの御仁が言った。今日はスーツ姿だ。


「お疲れです。小田原さん。いつも移動距離が長くて済みません」


「いえいえ、これも仕事ですから。すっかり、こちらの方達とも知り合いになりまして」と、小田原さんが言った。


小田原さんは、俺と連絡を取ることができる数少ないチャンネル。相手さんも無碍にはしないだろう。


「ハロウ、ミスタータビラ。ようこそキャンプ・〇〇へ」と、アメリカンアーミーが言った。


「こんにちは。早速、転移物の安全確認をしましょう」


握手は無しでビジネス開始。

握手無しは、事前に伝えていたのだ。俺を暗殺する手段の一つは、握手の時の毒殺。

魔術による免疫力強化と自己修復能力で、俺にどこまで毒が効くかは不明だけど。


「OK、こちらでも調べてはいるんだが。どうぞ」と言って、彼は両手を広げるジェスチャーをする。アメリカナイズな軍人さんだ。当たり前か、アメリカ人なんだから。


「転送事故を起こしたら大変ですからね。糸目たち、お願い」と言うと、糸目達が早速作業に取りかかる。


今から何をするかというと、ガイガーカウンターで放射線量を計測する。

プロに完全に隠蔽されると、こういう素人調査なんて意味が無いんだろうけど、一応確認。


異世界転移に必要な魔力の量は、モノによって異なる。

その量は、人間が意外と多く、金属類は重量比だと人よりとても少ない。

化石燃料や火薬は人ほどではないがそこそこ多い。

で、注意が必要なのは、魔王が言うには核物質。核物質を異世界転移させるには、半端でなく大量の魔力が必要になるらしい。


今回の車両に核爆弾を積んでいるとは思わないけど、例えば劣化ウラン弾が混じっていたりすると少々まずい。


まあ、最悪、俺の『パラレル・ゲート』は、あの温泉があるからなんとかなるらしいが・・・


糸目とアルセロール、それからフランがガイガーカウンターを持って車両の線量を計測する。ついでに水魔術によるタイヤやボディの洗浄も。こちらは環境対策だ。微生物や昆虫などが混入しないような配慮だ。


今回は、車両10両を転送させる。


戦車1両と装甲車1両、大砲をけん引している車両が2台。その他は全てトラックで6両だ。

トラックは、おそらく迫撃砲や弾薬などを積んでいるのだろう。

人も20名くらいついてくる。


彼らは全員海兵隊。陸軍ではないらしい。

アメリカの陸海空軍を動かすには、議会の承認が必要らしく、手っ取り早いのは海兵隊なんだとか。しかも、アメリカの海兵隊は戦車を廃止したようで、今なら在庫を格安で買えるとかなんとか。


今回は、購入する武器の下見らしいが、その辺の取引は、俺は部外者なので分からない。


俺は淡々と輸送のみをこなせばいいだけだ。

本格導入の際には、また呼ばれるだろう。



・・・・

<<1時間後>>


軍人さんと立って駄弁ること1時間。椅子やテーブルくらい用意しておいて欲しかった。


「異常は無いと思うけろ」「洗浄も終わりました」と、アルセロールとフランが言った。


「そうか、よし、転送を開始しよう」と言って、海兵隊さんの方を向く。


「ミスタータビラ、それでは、車両を扉の向こうに進めていいのかな?」と、アメリカの海兵隊員が言った。


「いいのですが、この大きさなら、何回かに分けた方がいいでしょうね」


10両くらい入らないこともないが、狭いアナザルームで車両事故でも起こされたらたまらない。


・・・


とりあえず、安全策を取って、2両ずつで転移開始。


目覚ましおじさんから預かった『魔王の魔道具(子機)』を携えて、アナザルームに入る。


約束通り、劣化ウラン弾等の核物質は無かったようで、無事に転移が終了した。


転移させたトラックから、軍人さんがさっそく物資を取り出して何かを開始する。


しばらく待つと、異世界の荒野にアメリカ軍兵器が立ち並ぶ。

システィーナが喜びそうな大砲がずらり。

今回は試験導入ということだったから、いろんな種類を持ってきたのだろう。統一感が無い。


まずは戦車M1A1エイブラムス。それから野戦砲はM777だな。これはイギリスにもある。というか、最近俺の軽空母を近代化改修してくれているBAVシステムズが開発したものらしい。なので、アーリーさんを通して、マ国も数門購入しているはずだ。かく言う俺も購入して、システィーナというかメイクイーン軍にプレゼントする予定にしている。


今回は待ち伏せていれば相手から襲ってくるので、この大型の大砲が主力とみられている。迫撃砲も数種類あるようだ。こちらは命中率が悪いらしいが、地を覆い尽くすようなスタンピードならば、命中率なんて関係無いだろう。


アメリカ軍の兵器を眺めて考えごとをしていると、「タビラ」と、不意に声を掛けられる。


「お!?」


後ろを振り向く。


地平線の荒野に翻るは、シングルドリル。それが、綺麗にくるりと舞う。


「ガイア。元気か?」


「元気じゃ。おかげさまでな」と、ガイアは澄ました顔で答える。


いつの間にか、ガイアが後ろに立っていた。

もうすっかり元気だ。顔立ちはまだ少し幼い印象だが、手足がスラっと長くなった。バストもかなり大きく。

十分にレディと呼んでいい見た目だろう。もともと年齢的にはレディというか、何というか・・・


ガイアは移動砦の艦長だ。今はバルバロ辺境伯領に詰めている。スタンピードを迎え撃つために。


「いよいよ、異世界兵器が配備されるな」と、気を取り直して言ってみる。


「そのようじゃ。だが、異世界兵器は弾薬の数がネックな気がするの」と、ガイアが答える。じっと俺の目を見ている。


「いっぱい運ばなきゃ」と、何だかごまかすような回答をする。


「これが、攻撃魔術用の魔力を消費してまで必要なものなのか、見極めも必要じゃ」と言って、ガイアがアメリカの兵器群を眺める。


「『魔王の魔道具』に積み込める魔力にも限界があるだろ? 魔術を使用しない兵器があったほうがいい場合もあるかも。それから、射程だな」と、言っておく。


「それはそうだな。空飛ぶヤツラや敵空挺部隊用の兵器は、また別のものがあると聞いた。まったく、あちらの世界はどれだけ血なまぐさいのじゃ」と、ガイアが言った。


「戦争が強いに越したことはない。どの国も、自国に配備する武器は強いものを欲しがる」


まあ、ラメヒー王国はあまり武器を持とうとしていないらしいけど。


「そうだが。まあ、これから実験が始まる。さて、第1世界の兵器対第2世界の兵器。どちらが強いかのぉ。話が別の所に飛ばなければよいが」と言って、ガイアは腕組みをする。


まるで、自分の胸部装甲を強調するかのように・・・

腕組みし、どんどん組み立てられていく異世界の兵器を眺めるガイアの横顔は、ずいぶんと大人びて見えた。

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