第240話 ハイブリッド兵器への道 途中視察 11月上旬

<<マ国 スバル 軍需工廠>>


ここ、マ国とラメヒー王国の国境都市には、軍需工廠がある。今は、スタンピードに向けて、2カ国で合同研究をやっているとのこと。今日は、研究成果を見せてくれるということで、ここ、スバルにやってきた。


もちろん、移動はゲートで一瞬だ。


イセとエウロペアさんに連れられ、工廠の野外ヤードに出る。


そこには、どこかで見た戦車もどきがいた。通称ガンタンクだ。


「おお、いたいた。もう、こいつ可愛くってな。よく持ってきてくれた」と、イセがにこにこして言った。


これ、可愛いかなぁ。

まあ、感性の問題だから、とやかく言うのは止めよう。


「これ、効果はあったの?」と、聞いてみる。


「大ありじゃ。説明を頼む」と、イセがガンタンクの横にいたマ国の魔道具士に向けて言った。


「はい。ガンタンクの命中性能は、対ファイターでも有効です。砲弾威力は空間バリアを多重掛けしていた場合は、受け止められることもありますが、搭乗している人間は無事では済みません。なお、榴弾の場合ですと、1発命中でほぼ行動不能。3発命中で艦載機のフレームにダメージが入ると共に、大抵の魔道士はクリアされるでしょう」と、エンジニアの人が言った。


結構凄い気がする。


「まあ、空間バリアは術者の敵性や熟練度で強度かかなり異なる。今のはあくまで平均的な目安じゃ」と、イセが補足する。


「はい、その通りです。それから、異世界で使用する兵器ですので弾薬の消費が問題になりますが、今、自作を試みています。榴弾なら、なんとかなるでしょう」と言った。


なぬ? 何とかなるのか。


「このリボルバーカノンというシステムは、多少重量があるが、連射性を考えるとなかなかよい」と、イセが言った。


「ラメヒー王国のロングバレルは60口径30ミリ無反動砲という部類になります。マ国のバズーカ砲もほぼ同じです。同じ口径の火薬兵器より、魔道兵器の方が性能が連射性能以外は優れていますね。そして、このガンタンクの砲は90口径35ミリのリボルバーカノンという分類になります。威力も射程も連射性能も優れています。弾薬を魔道具化させたり、銃口部分に再加速魔術を行使したりすれば、まだ性能が上がると思います」とは、三角重工のエンジニアだ。


「問題は今の艦載機では取り付けが難しい事じゃ。だが」と、イセが言って、泊めてあるボロボロの移動砦を指し示す。


移動砦の上半分が無残に破壊され、ボディには黒いススが付いている。操縦室もむき出しだが、こちらは修理の跡が見える。


そして、そのぼろぼろの移動砦から、リボルバーカノンが数機突き出ている。


「あれは、グ国から鹵獲した旧式の移動砦じゃ。復旧する気が起きないくらいボロボロだが、カノンのキャリアーとしてなら役に立つだろう」と、イセが続けて言った。


さすがは、ずっと戦争をし続けている国の感覚だ。

動力部分だけ生き残っている移動砦を、リボルバーカノン用のガンシップにするつもりだろう。見た目は悪いが実用性を重視したようだ。


俺の隣では、エウロペアさん、心の中でエウさんと読んでいる女性がガンタンクを物珍しそうに見つめている。


「その、リボルバーカノンの中身を見せてくれないか?」と、エウさんが言った。


・・・


ボロボロの移動砦に登り、カノンのむき出しの部分を見せてくれる。


「ここが回転して砲弾を装填します。撃った後の薬莢も自動で排出されますが、今、無薬莢の魔道弾薬の研究も進めています」と、エンジニアの人が言った。


「なるほどね。対空兵器は命中精度、すなわちレーダー追尾と連射が正解か。そうよね。魔術を放たれる前に仕留めなければいけないから」と、エウさんが言った。


「ああ、後は砲弾の研究と輸入費用だな。ガンタンクに付いているレーダーの研究もやっておるが、魔道具化するのは時間がかかる見込みじゃ。当面はそのまま使用する事になるだろう。さて、次はロングバレルの開発だ。あちらはまた思想が違う兵器じゃ」と、ここはイセが締めて、再びヤードに降りていく。


・・・


「こちらがロングバレルツーになります」と、ラメヒー王国の魔道具士が言った。


目の前には、別の人がロングバレルⅡを肩に担いで構えている。

見た目はロングバレルそっくりに見える。


ロングバレルの銃口の先には、背の高い石が地面から生えている。アレを狙うのだろう。


ドン! と音がして、50mくらい先の石に当たる。砲弾が石に当たって爆発を起こす。


いつも使っているロングバレルと遜色ないようには見える。


「射程と発射時のブレに少し課題が残りますが、十分に実用的です。我らは、これを量産することを決定しました」と、ラメヒー王国の魔道具士が言った。


「射程が短いとタラスクが問題になりませんか?」と、聞いてみる。


「長距離砲は輸入対応を検討しています。タラスクは足が遅いので、弾幕は必要ありませんので。それよりも、このロングバレルⅡの大量配備を優先させたいのです」と言った。


彼が言うには、前回のスタンピードでラメヒー王国軍がボロボロにされたのは、接近戦闘タイプ『マシラ』が原因だったらしい。下手に射程を追求するよりも、素早く肉薄してくるモンスターを仮想敵と考えているとのことだ。


それに、今年ならではの事情もあるようだ。いや、今後ともずっとと言うべきか。

彼が言うには、『魔王の魔道具』の登場と、異世界からの材料輸入によって、これまでの兵種の大転換を行っているらしいのだ。


要は、魔力補給要員が不要になる。それから、抜刀隊も今までは魔術兵装による接近戦だったが、ロングバレルの方が当然強い。しかも、ロングバレルは、ある一定以上の腕力があれば、魔術的才能が低くても十分戦力になるのだ。


なので、魔力補充要員や抜刀隊を、新たにロングバレル隊として再編するのだそうだ。

確かに、ロングバレルは扱いが簡単だ。何せ中学生や主婦が普通に趣味でモンスターを倒しているのだ。


ロングバレルを大量導入すると、魔力が劣る兵士が活躍することができる。苦渋の決断として、民間人の登用、すなわち、貴族では無い人を軍人として活用することも考えられているらしい。確かに、軍事教育を受けていない人でも、ある程度の腕力があれば、ロングバレルは扱える。


後は、資金と魔力が続く限り、ロングバレルⅡの制作と、長距離砲を輸入すればいいわけか。


ラメヒー王国は、去年兵士の半数を失ったが、ロングバレルの多数配備という技で、この兵士不足を切り抜けようとしている。だが、この事は、貴族による軍事力の独占という特権が崩れるわけで・・・このことが数年後にどのような社会的変化をもたらすのか、正直俺では分らない。だけど、これが、この国の選択なのだ。


考え事をしていると「次に、魔道飛行機の改良の途中報告です」と、三角重工のエンジニアの人が言った。


・・・


ヤードを歩いて行くと、空母改修された移動砦が見えてきた。

そこに、加藤さんらがいた。


今は、ここにいたらしい。

今、マ国の極秘『パラレル・ゲート』は、ここ、スバルにある。ここで三角重工とでやり取りをしていたのだろう。


「お疲れ様です。加藤さん。調子はどうですか?」と、適当な挨拶をしてみる。


「なかなかですよ。直ぐに改装出来る部分もありますし、見えてきた課題もあります」と、加藤さんが言って、後ろに駐めてある数機のマルチロールを示す。


結構形が違う気がする。


まず、三角重工航空部と本多技研航空部から説明いたします」と、加藤さんの隣にいた人が言った。


彼らが言うには、FEM解析という手法で、艦載機の骨格を解析したらしい。

難しいので原理は理解できなかったが、要は、強度を増やした方がいい部分、逆に減らしてもいい部分、それから、しなやかな金属を用いた方がいい部分などがあって、今は骨格の最適解を探っているらしい。


隣のエウロペアさんは興味深そうにしていたが。


「これ、下の方も少し変わってる?」と、聞いて見る。足の部分が変わっている気がする。


「ああ、それは着陸した時のタイヤですね。今は、直接甲板にぶつけて止めていると聞いて、付けてみました」とはエンジニアの人。


確かに、今は適当に甲板のウッドデッキにぶつけて止めているからな。魔道飛行機はVTOL機とはいえ、魔石ハント中は母艦も結構な速度で移動させているから、なかなか綺麗な着陸が難しいのだ。着陸した後の移動にも便利かもしれない。ロックかけ忘れると、飛行甲板から落ちて行きそうだけど。


「しかし、これは凄いですね。時速500キロ近くで飛んで、ガンシップもできるのに、空きスペースがまだ沢山あります。夢が広がる機体です。是非ジェット機に付けたいんですがね」と、エンジニアの人が言った。


気持ちは分る。だけど、ジェット機の開発って、時間とお金がかかりそうな気がする。


「ジェット? 聞いた事があるわね」と、エウさんがジェットに食いついた。


「まあ、エウロペア、対スタンピード戦に音速越えの飛行機は優先度が低い。興味があるなら、今度実物を見せてもらえ」と、イセが言った。


まあ、確かにそうだ。オーバースペックだろう。3月に間に合わないとあまり意味が無いし。今後の課題としては面白そうだけど。

早く平和にならないかなぁ・・・超音速ファイターとかカッコ良いし。


次に、駐めてある機体の説明を受ける。


「こちらは、ほぼ従来型のマルチロールですが、フレームも少し改良しておりまして、さらに車輪と無反動砲の台座を取り付けたものになります。台座は元々ありましたが、遊びの部分が広すぎで危険だったもので」とのことだ。


ふむ。これはマイナーチェンジ機か。


「次の機体は、従来型の座席を最初から2名分狭くし、代わりに弾倉スペースを専用に取り付けました。小型の発電機や無線機、速度計、高度計なども取り付けております」


次は近代化改修機かな。


「次の機体は、前後に60口径30ミリ無反動リボルバーカノン2挺を取り付けたタイプです」と、エンジニアの人が、顔をにやりとさせて言った。


これが本命なんだろう。多分。


操縦席の前後に、ガンナー席が設けられており、それぞれ機関砲が1挺ずつ取り付けられている。機関砲は、2mくらいの砲身の基部にリボルバー機関部分があり、後ろにラッパのようなガス噴出口が付いている。


「砲弾は今のところ魔道具化できていませんが、口径がロングバレルとほぼ同じであるため、今後の開発が待たれますが、要は、連射できるロングバレルです」と、言った。


「さっきのヤツは大きすぎで駄目って聞いたけど? まあ、これはガンタンクより短いけど」


長さはロングバレルと同じくらいだ。


「従来型のロングバレルの欠点は、砲弾の装填に手間がかかり、連射性能が悪いことです。その分単純な構造なので、ラメヒー王国の歩兵の主武装としては理解はできます。ですが、この無反動リボルバーカノンは、この艦載機とセットですと、一人で連射することが出来ます」とのことだ。


「多比良、これは艦載機の火器としての最適解かもしれんぞ?」と、イセが言った。


ほう。そこまで言うか。


「この装備は一人で扱えますので、ガンナーを前後2名置いて、火力を上げています。こうすることで、ガンの可動範囲も広く取るころができます」


確かに、今はバックファイアのせいで射線がかなり限られていたからな。


「おや、これって、真下が狙えるんですね」


機関砲が付いている台座の可動部分が、どうも下まで向くようになっている。


「そうですね。一度に大量の敵に対応できるように工夫しています」


スタンピードを念頭に考えたのだろう。


「使える弾は、第2世界の純正火薬型オンリーってことです?」


「今の所はそうですね。なので、1発の火力はロングバレルに劣ります」


「多比良、こいつの砲弾が土と火魔術で造れるようになるのは時間の問題じゃ。火力面は解決できるだろう。ただ、リボルバー部分と砲身をコピーするのはしばらく難しいかもしれん。買えるようなら買った方が早いだろう」と、イセが言った。


「なるほどね。今までは魔石ハントが出来ればいいや、くらいに考えていたけど、今後はちゃんとすべきなのかな。火器部分も」


俺がそう言うと、エンジニアの人は少し嬉しそうな顔をした。


本格導入は未だ少し先だろうけど・・・


「ただ、金がなぁ・・・今の魔術砲弾は、現実タダだし」と、俺が言うと、エンジニアの人は少し微妙な表情になった。


「多比良、お前今度アルバイトすると聞いたぞ? 旅行でも儲けているのだろう?」と、イセが言った。


「ああ、ちょっと、大物の恐竜ハントの依頼が来てて。成功したら潤うかな。旅行の儲けは兵器購入に当てていないしね。どうしよっかな・・・試験導入しようかな・・・」


貯金はノリで高級クラブとか買ってしまったし、怪人も人数を増やしたから養うのにコストがかかるのだ。高級クラブはたまに行こうと思っているけど。


「金は、使って世の中に回すためにある。貯めておいてもどうしようもないだろう」と、イセが言った。


「ま、そうかも知れないけど。ところで、マ国って外資どうしてんの?」と、何となく聞いてみる。


「ん? うちは魔王が創ったアルゴリズムで自動的に金が入って来ておる。暗号資産や金融商品でウハウハらしいぞ? ジマー家としては、双角族の派遣でそこそこ潤っているな」と、イセが言った。


魔王・・・なんて高スペックなヤツなんだ。恐るべし。



◇◇◇

<<日本、深夜>>


日本のとある海上で、1席のタグボートが、幅15m、長さ80mのポンツーンを曳航していた。


何の変哲も無いポンツーンだが、その上には、バイクのような機体と、10名くらいの人間が乗っていた。


「さて、もうそろそろいいんじゃないか? ここは夜焚きの漁師もいない」と、三角重工造船部のエンジニアが言った。


「いよいよですね。我々はこのまま乗っていても?」と、俺が返す。


「はい。それでもいいと思いますし、艦載機で飛ばれていてもいいと思います。あまり高く飛びすぎなければばれないでしょう」と言った。


さて、どうしよう。


この2隻建造中の浮遊空母は、今1函に反重力発生装置を取り付けたところだ。

今日は試験飛行を行うということで、夜の海に出陣したのだ。


今日は風も無くべた凪で、良い船出日和だ。


今日は、輜重隊3名と、新怪人2名、それから糸目とツツを連れてきている。


マルチロールも2機ほど持ち込んでいる。ちゃんと投光器も取り付けて。


「よし、うちらも飛ぶか。空から見学しよう」


「了解っす。出発しましょう」と、峠さんが言った。


・・・


輜重隊と怪人隊でマルチロールに乗り込み、ポンツーンから垂直離陸する。

俺はというと、単独で飛んでいる。


ツツは新怪人の素子とレイを乗せたマルチロールの操縦席に座っている。彼女達はまだ見習いだからな。


糸目は浮遊空母『一函いっかん』に残して来た。連絡要員だ。


タグボートと繋がった曳航ロープが外される。


いよいよか。


海を揺蕩うコンクリート製の白い箱が、上空20m程にいるマルチロール2機からの投光器に照らされる。


飛行甲板部分に突っ立っている糸目がやけに目立つ。


この浮遊空母『一函』には、ほぼフラットな平面に操縦桿しか付いていない。隅の方に高さ1.2mくらいの台座が突き出ている感じだ。厳密には、側面に防舷材と呼ばれる、衝突時の緩衝部材が付いている。それから、箱の中には実は色んなセンサーや反重力発電機やら、居住スペースやらが内蔵されている。


今、三角のエンジニア達が、あの箱の中に入って反重力発生装置の最後の調整を行っているはずだ。


今回、『一函』に取り付けた反重力発生装置は10基。もう一つの『二函』は16基付ける予定にしている。


今回は試験機でもある。色んなデータを取りたいのだそうだ。


しばらく待つと、『ピッ、浮遊開始するそうです』と、無線機が鳴った。


糸目からの連絡だ。


ゆっくりと、白い箱が海中から浮き出てくる。


そして、海水面から飛び出し、完全に浮遊した状態になる。


浮遊成功か。後は運動性能だな。


『ピッ、旋回から試すって』と、糸目が連絡を入れてくれる。


瞬間、白い箱が、ゆっくりと右旋回を開始する。

ちゃんと作動している。


よしよし、順調そうだ。五稜郭の港湾整備前に、浮遊空母が完成しつつある。築城も急がねば。


彼らを急がせたのに、受け入れを遅らせるわけにもいかない。最悪地面に置いておけばいいのだけど。


そう考えていると、『一函』が右に左に上下にと動き出した。

ふむ。安定している。アレなら、艦載機の離発着も問題ないだろう。


第2世界初の浮遊空母の開発は順調だ。

これで、俺の野望にまた一歩近づいた。

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