第70話 冒険者ギルド訪問 7月上旬
今日は、冒険者ギルドに向かうことに。
俺は、少し思うところがあって、反重力魔術を使って周囲の散策をしたいと考えている。
いろんな街を訪れたり、魚釣りのポイントを探し、そして温泉探し。いいところがあれば今度は皆で行きたい。
あの温泉アナザルームはひとまず専門家に任せるとして、俺は異世界を堪能することにする。
で、その散策ついでに見かけたモンスターを倒して魔石ハントを行おうかと。要はお小遣い稼ぎ。
冒険者ギルドに向かう理由は、その際の注意事項とか、魔石売買の話を聞こうと思ったから。
カラン!カララン!
扉を開けると鈴が鳴った。
広めのフロアにカウンター。まるで市役所か郵便局のよう。
ちょっとした談話ができるテーブルと椅子が数セット。そして掲示板。
ここは、サブカルチャーに心得のある日本人有志が、自分たちの想像で作った冒険者ギルドの事務所だ。
受付カウンターには女性が座っている。
彼女はギルドマスターの奥さん。めがねをかけてて、おっぱいが大きい。
俺が入ると、皆の視線が集まる。フロアテーブルの半分は、現地の人達。みんな結構若い。
ゆっくり歩いてみたけど、絡まれたりしなかった。
「いらっしゃい多比良さん。今日はどのようなお話で?」
めがねの受付嬢が話しかけて来た。俺は以前、ここに仕事を依頼したことがある。彼女とはそれ以来の顔見知り。
「ちょっと、魔石ハントしてみようと思いまして、その辺の話が聞きたいな、と」
その瞬間、周りがガタンと音を立てる。注目を集めた模様。何事?
「まあ! 多比良さんも冒険者に? 歓迎します。マスター呼んできましょうか?」
「今日、前田さんいるんですね。お願いしようかな。個人的な話で申し分けないけど」
「いえいえ。工事現場の警備員のお仕事、あの後いくつかいただいてるんですよ。遠出したくない人の安定した稼ぎになっています。感謝してるんですよ? 今呼んできますね」
・・・・
ギルドマスターの前田さんが2階から降りてきた。彼はラガーマンみたいなマッチョタイプで、いつもはバンダナを巻いている。
カウンター内部の方のテーブルで話を始める。奥さんで受付嬢の女性が麦茶を出してくれた。
「いや、多比良さん。城壁工事以来ですね。あの時はお仕事の斡旋ありがとうございした。あれでノウハウも分かってきて、なにより顧客の信頼を得られたから。タラスクの魔石も良い値がついたって、連中も喜んでたよ」
「いや、それは何よりです。今日は魔石ハントのルールとかの話を伺いに」
「ええ、伺ってます。でも、多比良さんは冒険者になって、パーティーを組まれてギルドの仕事を受注される、という分けではないんだよなぁ。もちろん、そうなったら歓迎だけど」
「う~ん。俺って飛んで移動するし、ハントも空からだし。パーティー組むのは無理かなと。それに、やりたいこともあるんで、しばらくはソロ活動でしょうか。魔石ハントはそのついでというか」
なんか、お互い、敬語がいいのかため口でいいのか探り合うような感じの会話になってしまった。
たぶん、お互い少しコミュ障が入っている。似た者同士なのかもしれない。
「なるほど。魔石の取引だけかぁ」
「個人的な用事で済みませんねぇ」
「いや、それがそうでも無いんだ。うちは、魔石ギルドに一括で卸してるし、余裕があれば魔石に魔力を入れて売ってるから。小口で売買するより買いたたかれないし、値動きをみて高めで売ったり、値崩れにも気を付けているから。後は税金の納付も代行してる。ギルド手数料は取るけど、小口取引よりかは実入りがいいと思うよ」
「な、なるほど。すごいですね。要は、私が取ってきた魔石も冒険者ギルドに卸せば、魔石ギルトとの交渉や税の計算や申告なんかしなくてもお金だけいただけるわけかぁ」
「ああ、もう少しキャッシュが貯まれば、即金で払えるようになると思う」
「キャッシュですか。貴族通貨は扱ってないんです? 現金はちょっと。ストーンって大きいし」
「そこは今勉強中」
「御三家の貴族通貨くらいは扱ってた方が便利だと思います」
「御三家? タマクロー、ブレブナー、ランカスター?」
「そうそう。伝統貴族派。サイレンでの商売だけならストーンでなくてもいいしね。ただ、新興貴族の通貨は止めといた方がいいって、知り合いの貴族が言ってました」
「なるほど。でも、最初に同額のストーンを預けないといけないんだろ? まとまった仕事があれば考えてみるか」
俺は、仕事の対価で貴族通貨を受け取ったけど、普通はストーンと交換で入手するみたい。貴族通貨。
「貴族通貨で貰う方が額面的には報酬が上がる可能性がある」
「ふむ。証券取引関係の知識が必要そうだ。三角商会とも相談してみるか」
「うん。俺の方は、当面は、魔石の売却だけお願いすることになるかなぁ」
「そうだなぁ。もし、出来ればなんだけど、ハントに出かける前に、ここに来て確認してもらえんだろうか。うちのメンバーが受けた任務と被っていたりするとあれだし、逆に間引き業務や大型討伐があるときは、協力してもらえるとありがたい」
「なるほど、寄れそうなら。俺もギルドに迷惑かけたくないし」
「助かる。それから、この時間をお借りして、ギルドからも少し相談があるんだが」
「はい。なんでしょう」
「話は2点。バルバロ辺境伯領に興味がある。それから、多比良さんの飛行能力で手紙や人の移動が出来るかどうか聞きたい」
「え~つと。バルバロ辺境伯領の話は、サイレン屋敷のことではなくて、バルバロ領のこと?」
「そうだ。あそこは人類未到の地が近い。モンスターも大物が多いし、輸出品目が米だからな。素材探しも色々面白そうでさ。というか、他が行きたがらないところに行くのが冒険だろうと思って」
「バルバロ領。俺も一度行ってみたいんだよなぁ。いつかは旅行で行くつもり。素材とか、今度、サイレン屋敷の主に聞いてみよう。それから、あそこに行くことがあったら、どんな感じか報告する」
「ありがたい。それで、移動の事だけど」
「う~ん。街による、かな。これから移動範囲を少しずつ広げて行きたいとは思っている。でも、飛行禁止の街とかあるらしいし、その辺のルールを熟知する必要がある。それから、人の移動だっけ。理論上は出来る」
「理論上?」
この辺は何処まで話すべきか。極力、力は隠したい。
「安全対策をどうするかによるかな。反重力魔術は生物にかけるのはかなり難しい。だけど、物にはできるので、例えば、タンカとか椅子に人をくくりつけて、そのタンカに反重力魔術をかけて運ぶことは出来る。だけど、その状態で延々と空を飛ばすとなると、その人が大変じゃないかな。俺の方もどれだけの距離持つか分からないところがある。移動距離次第かな」
少しごまかした。
「・・・そっか。器具と本人次第か」
ただ、人を運ぶ場面は今後出てくるかもしれない。気にとめておこう。
「具体的な話があれば相談していただければ」
この後、数点情報交換して面会は終了。
意外な話では、目立つモンスターより、生来のハンターである恐竜などの野生生物の方が怖いとか。特に毒持ち。俺も気を付けよう。
・・・・
帰るには全然早い時間。かといって、遠出も難しい。
なので、街のリサイクルショップを物色することに。
「これはこれはようこそいらっしゃいました」
彼はモルディに安物腕時計を100万円で売りつけたお店の店長。その後、ソーラー電池式のやつと交換してくれたので、騙す気は無かったのだろう。
先日はモルディと一緒に来店したから、覚えていたようだ。モルディは、ああ見えてバルバロ辺境伯家のサイレン屋敷の家主なので、このサイレンにおいては辺境伯の代理人として見なされる。
バルバロ辺境伯家は、その直轄領だけで人口15万人を誇る。
強力な軍隊の保持を許され、水田地帯と港を有し、海峡という要衝にあるラメヒー王国有数の大都市。
モルディがぽんこつなので忘れがちだが、バルバロ家は、実は大貴族なのだ。そんな大貴族に詐欺をふっかけるリサイクルショップがあれば、そんなのは商人失格だろう。
「今日は何をお求めでしょうか、旦那様」
「はい?」 旦那様と認識されていた。
「いや、旦那じゃない。家具類を見みにきた」
「そうでございましたか。やんごとなきお方でしたか」
今度はツバメと思われた? まあ、適当に想像させておこう。
・・・
家具コーナーに通される。
あのアナザールームの畳部屋に、椅子とテーブルを置きたいと思っている。
新聞読んだりしたい。実は、あぐらで新聞読むのは少し辛いのだ。椅子が楽。
それから、植物の茎コレクションや貴重品を置く棚。
「こちらでございます」
・・・う~ん。いまいち。
テーブル類はちょうどいい大きさのものがない。
だけど、気になる家具が1点。
「一応、聞いて見るんだけど、あの釣り竿を立てている棚? あれは売り物?」
「いえ、売り物ではありませんが、お求めでしたら勉強させていただきます」
「ふむ」
交渉の結果、壁側に立ててある竿立てを10万円で購入。残りの家具はまた今度。急ぐものでもない。
「あの、どちらにお運びいたしましょうか」
運ぶこと、考えてなかった。
「・・・バルバロ邸で」
「左様ですか」
店主は満面の笑みで了解してくれた。後でモルディに断りを入れておこう。
・・・・
カキーン! バシィ! 「さ、こっーい」 「オーライ、オーライ」
棚の話をするためにバルバロ邸に寄る。庭からは相変わらず野球の練習の声が聞こえる。
遠目でみる。まだ学生さんはいないようだ。
大人達が練習している。
・・・・
「と、いうわけでモルディ。荷物が届く。適当にその辺に置いておいて。すぐに持って行くから」
「しょうが無いヤツだな、お前は。まあいいぞ。部屋は余りまくっているし」
「お前、そのうち、1階の殆どは物置になるんじゃないか? ん? この宴会場って、こんなだっけ?」
何だか、半分の壁が外されている。
「いや、日本人が来て、タダで拡張工事するっていうから、許可したんだ。ここは廊下側に内庭があるだろ? その逆の外庭側に1階部分だけ屋敷を広げるらしいぞ?」
「そうかぁ」
ユーザーである日本人にとって、宴会場の広さが足りなかったんだろう。
モルディが寛容なのをいいことに、自分達好みに屋敷を作り替えているのだろう。
まあ、モルディがいいならいっか。
「料理人も今村殿を雇うことになったぞ。私と家臣たちのお昼御飯と、夜はこの屋敷の住人たちの分を作ってもらう。それから他の日本人達の夜飯に対しては、とりあえず、完全予約制の日替わり定食のみで始める予定だ。ああそうだ。お前の息子達の分は、親から纏めて受け取るから、お金はいらないと言っておいたぞ」
「そっか。ここの食堂も動きだしたか。息子の分も、ありがとな」
どうしよう。モルディ格好いい。料理の方も今村さんに任せておけば大丈夫だろう。
「礼には及ばないさ。アキラやカナコ、シスや弟もお前に感謝していたぞ?」
「・・・え? 言ったの? 俺が援助すること」
こういうことはそっと、援助したかった。そういえば口止めしていない。
それに、システィーナの分も俺資金を宛てるのね。まいっか。
「もちろんだ。シスのヤツが何故か青ざめてたけどな。あいつ。お前に買われると思ったらしい。あはははは。あいつの家は貧乏だからな。養われるということは、夜伽も求められると思ったらしいぞ?」
「いや、あまり、俺資金が入るのは秘密に」
「何でだ? いいじゃないか。システィーナくらい。あいつは戦闘狂だけど、基本いいやつだぞ? ああ、あいつガリガリだから、女を感じないか。私と違って。もう少し米を食べた方がいいと言っておこう」
だんだん頭が痛くなってきた。
「ああ、米はいいものだ」
どうでも良くなった。
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