第62話 プロローグ と日本の現状を少し

<<ラメヒー王国サイレン、とある貴族の会議室>>


サイレン、その街はこの国にあって30万人という圧倒的な人口を誇る。

ラメヒー王国の経済中心地である。


サイレンは、タマクロー、ブレブナー、ランカスターという伝統貴族が牛耳っている街であるが、この国には他にも人口15万都市が後5つある。

それが、辺境都市バルバロ、国境都市ライン、中継都市ルクセン、海洋港湾都市ケイヒン、河川港湾都市タイガ、そして、貿易都市ヘレナである。

これら都市の名前は、そのままそこを治める貴族の名字となっている。バルバロ辺境伯、ライン伯爵といったように。

これら、大貴族家にとって、サイレンでの情報収集は必須であり、それぞれ屋敷をサイレンに構えていた。


この一節は、とある貴族家のサイレン屋敷での出来事である。


「さて、日本人の様子を報告してもらおう」


会議の議事進行を促すのはヘレナ伯爵夫人。

彼女はライン伯爵家の娘であったが、高齢のヘレナ伯爵に嫁入りし、見事第一夫人の座を獲得した。

その時、ヘレナ伯爵には妻がいたが、当時の第一夫人の出身が子爵家であったため、新参者で若いにも関わらず、彼女が第一夫人となったのである。


彼女がヘレナ伯爵夫人の座に着くと、まず多額の貴族通貨を発行、数々の事業や会社に投資し、莫大な利益を上げることに成功する。

彼女には元々才覚があったのか、海洋都市国家ホゲェやエンパイアとの貿易で瞬く間にシェアを獲得した。


さらに、彼女がサイレン屋敷に赴任すると多額の不動産投資でこれまた莫大な利益を出すこととなる。そして、子飼いの部下を貴族に推薦し、手駒を増やしつつ、着々と事業を拡大させていっている。


「は! ヘレナ夫人。まずは私から、三角商会という商会が立ち上がりました。すでに日本人が開発した商品や調味料、衣類を扱っています。ルクセン、ケイヒンとの行商、それから酒類の研究も開始しています。衣類の方は、日本人集団が古着を再利用して作成しているようです。服の形が上品で着易すく、裁縫の腕もよい、ボタンもふんだんに使用、そのくせ安いとあって、庶民の中で大人気です。今では下手な貧乏貴族より平民の方が良い物を着ています」


「私からも報告が、日本人が運営する飲食店が開店しました。異世界の料理が食べられるとあって、人気です。まだまだ、日本人料理人が店舗型の不動産物件を探しているという情報もあります」


「では、私からも。日本人技術者集団が『異世界工務店』というものを結成して、仕事をしております。主にタマクロー家やバルバロ家などの家屋の修築を行い、すでに納品しております。物作りに感銘を受けたものもいるらしく、弟子入り希望が殺到しているとの情報もあります。また、城壁工事に『クレン』という凄腕の魔術士を送り込んだらしく、噂になっております」


「冒険者ギルドの方は、今では80人以上のメンバーに膨れ上がっています。前線の城壁工事への派遣や、モンスターの間引き、討伐依頼の補助、商隊の護衛など、これまで独自に準備していた人員を必要な時のみに利用できるとあって、かなりの人気になっています。また、エリート集団のハンターズギルドには入れなかった平民や下級貴族の優秀な魔道士や、先日のスタンピードで親を失った孤児なども入り、未だに人数は増え続けております」


「それから『診療所』を始めた一行がおりまして、彼らは、治療の傍ら、美容魔術なるものを駆使して肌を若返らせる術を編み出しています。先日、夜会に再デビューした未亡人のプロデュースを請け負ったと噂されております。老け込んでいた中年貴族がいきなりピチピチになったとか。今、サロンや社交界はこの噂で持ちきりです」


「ああ、その話なら私の妻からも言われましたぞ。自分もその美容魔術を受けたいと。どうやったら頼めるのやら」


「それから、『ツバメプロデュース』という公開オーディションを行って、男性アイドルグループが次々と結成されています。彼らは貴族だけでなく、商人や普通の町娘たちからもファンを獲得しています。このプロデュースにも、日本人が1枚噛んでいます」


「・・・日本人がサイレンに着いて1ヶ月半。とんでもないやつらだ。美容魔術とツバメの方は私も気になるので、引き続き情報収集を頼むわね。それから、学園の方はどうなっているの?」


「はい、学園の方は、まず教師陣ですが、彼らは準貴族になり、日本人だけでなく、この国の生徒にも教鞭を振るっております。教師らの半数は、独身。その残りも全員伴侶は日本に残してきております。彼らは、ここに来て殆ど恋人を作りました。恋人の半分は、生徒です」


「・・・なんだ、さっきまでとの落差は」


「日本人学生の方は、ほぼ全てのものが何らかの貴族と関係を持ちました。まあ、一緒の部活に入る、家に呼ばれて遊んで帰る、くらいが殆どですが、中には男女交際に発展するものも出たようです。我がキャタピラー家からも寄子含めて、日本人と知り合いになるよう指示を出しております。何人かは取り込んでおりますのでご安心ください」


「そうか。折を見てヘレナ家でも取り込みを図りたい。交友関係を続けなさい」


「はは! それから、多数の男子生徒と関係を持っていた日本人女生徒が、多数の男子生徒を女子寮に招いて、他の女子生徒に性的暴行を加えたようです。彼らは現行犯逮捕されましたが、その際、近くに居合わせたタマクロー家の姫にも暴行を行おうとしたらしく、護衛に反撃されて逮捕されました。この件は、学園で大問題に発展しております。この時、暴行を受けた女子生徒は、タマクロー家の紹介でバルバロ家に匿われております」


「・・・学校の方はひどいわね。まあ、これからも情報収集を指示します。それから、新しい投資の件はどうなっているの?」


「は! 抜かりなく。我がキャタピラー家が担当しております、『神聖グィネヴィア帝国にある古代遺跡に眠る財宝を我がラメヒー王国に運ぶ事業』の件ですが、すでに10億スト-ンを払い込みました。これに成功すると、30億ストーンの儲けになります。資金調達のために、ヘレナ伯爵家の貴族通貨10億ストーン分の発行も済んでおります」


「それから、同じく神聖グィネヴィア帝国から極楽蛇の皮と肉を輸入する事業ですが、極楽蛇の養殖場に10億ストーン投資すれば、毎月1億ストーンのリターンが見込めます。わずか10ヶ月で元が取れる有望な投資です。これもすでに10億ストーンを振り込んでおり、今月から入金が始まる予定です」


「うふふふふ。極楽蛇の肉はおいしいからねぇ。皮言葉は友情、愛情、そして肉欲! 皮は一部の愛好家にはたまらない一品よ。濡れ手に粟とはこのことね。額に汗を掻いて働くなんて、もう古いわ。馬鹿のすることよ」


「伝統貴族は投資という物に対して慎重ですからね。それでは国が発展しませんよ。ははは」


「これだから、我が国はいつまで経っても3流国なのよ。これからは経済よ!」


新興貴族の暗躍が始まる。



◇◇◇

<<日本総理官邸>>


「総理、○×県の知事選は我が党推薦の現職候補が敗れました。野党連合にダブルスコアでした」


「くそ。そこは長らくうちの牙城だったところだ。失言があったとはいえ、信じられん」


「まあ、600人近くの集団失踪があった街で『これは異世界転移だ』ですからね。野党やマスコミから大バッシングですよ。一部のオカルト関係者やネット民からは歓迎されていますが」


「くっ。私も異世界転移を信じたいよ。未だに何の情報も、犯人からの要求とかも無いんだろう?」


「はい。ですが、野党は政府が情報を隠していると訴えて、支持を集めています」


「野党が指揮を執ったところで変わらないだろうになぁ」


「失踪事件担当特任大臣の対応もまずかったのでしょう」


「ああ、非公式とはいえ、マスコミと残留家族の前で、『600人なんて大したことない、アメリカなんて年間70万人だ』なんて発言はありえないでしょう」


「あの時は頭が痛かったなぁ。優秀な男ではあるんだが」


「その後の記者会見で鼻を真っ赤に腫らして『しょうがない』を連発し、国民感情を逆なでしていましたしね」


「その後、あいつ議員辞めたしなぁ。そういえばあそこの補選もあるんだよなぁ。対抗馬すら出せないよなぁ、これじゃ」


「ええ、しかも、我が党出身の市議が党命を無視して『被害者を異世界から助ける会』を結成しましたから、マスコミの格好の餌食です。さらに県議と一部の国会議員が『アマビエの党』を結成して反旗を翻しました」


「このままでは次の衆議院選挙がまずいな。何か手を打たねばな」

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