第2章 サイレン始動編 おっさんvsイセ
第28話 プロローグ
<<600人失踪事件10日後 日本 多比良宅>>
がらがらがら~~~~~~
私は家に帰り、全部の窓や扉を開けて回る。
この後は掃除機。
これが、今の私の日課。
私、多比良桜子は、4人家族からたった1日でおじいちゃんっ子になってしまった。
今は、元々住んでいた家を出て、おじいちゃんの家で寝泊まりしている。
ただ、家って人が住まないと老朽化が進むらしく、こうして毎日家に帰って換気と掃除をしている。
今から10日前、私の通う学校の中等部で、謎の失踪事件が起きた。
中学生全生徒と先生達、その保護者約600名が忽然と消えちゃった・・・
当時は県営の競技場で体育祭が行われており、保護者はその時の見学者だった。
私の弟と両親もこの中にいた。
同級生にも失踪者が出ている。中学校の体育祭に行っていた生徒会長と副会長の2名だ。
私はテレビを付ける。
この家を建てた時、お父さんが買ってきた自慢のテレビ。70インチもある。
お母さんに『大きすぎる』って言われてたっけ。あの頃の両親はまだ会話してたんだ。
お父さんとお母さんは、仲がよいとは言えなかった。ここ3年くらいは、会話しているのを見かけたことがない。でも、不思議と困ったことは起きていない。2人の間には私の知らない何かがあるのだろう。
『続いてのニュースです。○○市で起きた失踪事件ですが、失踪者に新たな人が加えられました。それから、残存家族に対し、政府は生活援助を行うため、臨時予算を・・・』
特に新しい情報はないみたい。
ここの家の電気・ガス・水道は、今のところ止めていない。携帯電話やネット回線、クレジットカードも。
いつ家族が帰ってきてもいいように。いつ、家族が助けを求めるため、スマホを使ってもいいように。
「みんな何処行ったのよ」
声に出してみるが、当然返事は帰ってこない。
夢想してみる。
どこかに飛ばされたお父さんとお母さん弟の3人が、家族で助け合いながら生き抜いている様子。
・・・案外楽しそうで、少しムカついた。
◇◇◇
<<日本国 政府官邸>>
「デモがうるさかったなぁ。マスコミもすごい数だ」
「仕方がありませんよ、総理。行方不明が一度に600人なんて前代未聞です」
「国全体の失踪者と比べると大した数ではあるまいに。ただでさえ感染症でだな。国が大変な時に」
「そうですがね。何の変哲も無い街で、しかも”失踪しそうにない”人達が、なんの前触れもなくまさに消えたのです。財産や家族を置いて。世界的大事件です」
「そんなことは解っているよ、長官。愚痴っただけだ。ところで、テロや誘拐の線はどうなったんだ?」
「今までのテロや誘拐ではありえません。現場の大人達はほぼ全員、携帯電話を持っていたにもかかわらず、誰もそういった電話をしておりません。争った跡もなければ大量のバスが集合してどこかに行った、という情報も掴めておりません」
「電子パルスやその手の兵器も考えにくいのだろ? 競技場のすぐ近くは普通だったんだからな」
「はい。すなわち、子供236名、大人約360名が誰にも悟られずに、”自ずから”どこかに移動したとしか思えません」
「集団催眠説か。でもな、競技場の周りの監視カメラにも全く情報がなかったんだろ? みんなで隠れながら、用意周到に移動できるか? 600人近い人間が。ほとんどオカルトの世界だ」
「総理のおっしゃられるとおりです。ですが、国民はこのことの責任を国に求めます」
「だろうな。国民が拉致されたかもしれないのに、黙って無視するわけにはいかん。このことが長引くと選挙に響く」
「左様ですな。ひとまず、残留家族達の生活保護に関しては臨時予算を組みます。野党も協力するでしょう。後は、政府としても何らかの見解かメッセージを出すべきかと思いますが」
「作文はお前に任せる。言質を与えず、嘘ではなく、国民が安心するような美文を頼むぞ?」
「はい。捜査の方は、引き続き進めます。それからアメリカとイスラエルから協力の打診が来ておりますが」
「使えるもものは全て使え。警察、自衛隊、外交、諜報、アングラの連中にも話を付けろ。一応、困った隣国には注意しろよ。この事件に犯人がいるとすれば、これは日本国に対する挑戦だ。負ける訳にはいかん。何の成果もないと政権が吹き飛ぶぞ」
「わかりました」
◇◇◇
<<ネットの声>>
スレ;日本人600人が異世界転移(仮)した件について
・はぁ~。俺も異世界いきてぇ~。
・例の競技場の周り、異世界行き狙ってるやつがわんさかいるらしいぞ。ほい写真。
・うわぁ~。半分くらい外人か? これ。
・みんな巨大なリュック背負ってるし。何が入ってんだよ。
・変な宗教家っぽい人もいるな。
・今日、テレビでその人らにインタビューしてたよ。
・エルフは? ねえ、エルフはいるの?
・出たなエルフ厨。
・もうネタが尽きてきた感が。誰か早く燃料を投下してくれ。せっかくのネタなのに、何の追加情報もないとは。
・原因はテロとか、某国とか、ガセばっか。
・その辺は別スレで検証してるとこあったよ。仮説を立てて、科学的に立証試みてたな。どれも反論を論破出来ていないらしいけど。
・政府は集団催眠説を持ち出してきてるね。
・確かに、自発的でないとこんなことは出来ない。
・おい、異世界転移だろ? 魔法に決まってるだろ?
・はい、魔法魔法。なんでも魔法。
・苦しんでいる人がいるのに異世界とかふざけたこと言わないで。
・いや、ここ、異世界転移前提で話を進めるスレ。わかる? 別スレにいきな。
早くもネタが尽きかけていた。
◇◇◇
<<サイレン>>
着いたー。
今日はこれからトカゲを返して宿屋に行って。どこかで外食だ。
明日は朝から一日掛けて住居探し。
その次からは、子供は学校、親は仕事。
日本人600名の異世界生活第2ステージが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます