第20話 王城最終日 近衛兵とおしゃべり 異世界10日目 5月中旬
すすす~~~ずず・・・あ、いい香り・・・・
俺は、今、後宮の裏庭にある
プチハーレム状態、楽しい。
先ほどの対決は途中でぐだぐだになった。障壁実験にも飽きたので、終了。
「あ~笑った! 久々にこんなに笑ったわ。楽しかったのじゃ!」
「お姉さま可愛かった。新境地を発見しましたわ」
「あ、あのなぁマシュリー」
「おっぱいが痛い・・・」
マシュリーとフランがお茶のセットを持ってきて、紅茶を入れてくれた。お湯はフランの水魔術製。
「ふう、え~つと、改めまして、多比良城です」
「フランシスカ・バルバロです」 ←くせっ毛ブロンド、お手つきOKって言われたやつ
「マシュリー・ランカスターですわ」 ←ゆるふわ巨乳 最初の裏切り者
「オルティナ・ブレブナーだ」 ←ストレートブロンドの長身麗人 お尻を叩くとかわいい声を出す
「ガイアナーテ・タマクローじゃ」 ←のじゃ系ちびっ子シングルドリル 少し偉そうなやつ
改めて自己紹介した。
「名字があるって、ひょっとして皆さん貴族?」
「我が国の場合、平民でも名字はあるぞ? まあ、我々は全員貴族家だ。私のブレブナー家とマシュリーのランカスター家が伯爵、フランシスカのバルバロ家が辺境伯になる。ガイアナーテ様のタマクロー家は公爵だ」
俺、この国の貴族制度なんて全然理解していない。どれだけ偉いとか、権力があるとか。
「貴方は一体何者なのだ? 日本人なのは分かっているが、Eランクと聞いていた。我々は一応、近衛兵の試験をクリアし、軍事訓練を受けているのだ。それをあんな簡単に」
「オルティナよ。まずは謝罪するのが先じゃ。おぬし、最初から侮辱しておっただろう? 本来は、訓練に協力してもらうだけ、だったはずじゃ。いささか一方的すぎた。もちろん、わしも加害者じゃ」
「くっ。ですが、貴族が謝る、ということは家に迷惑がかかる場合も・・・」
俺も叩いたし別にいいよ、と言いたいけど。けじめとして謝罪が必要な場合もある。
「今日のは個人同士の出来事。仲直り出来たら水に流すけど。家がどうとかまで広げるつもりは無い」
俺がそう言うと、ちびっ子シングルドリルのガイアは、子供らしからぬやさしそうな笑顔を向けてくる。
「私、ガイアナーテは、タマクロー家の名のもとに、タビラ・ジョウに謝罪する。申し訳なかった」
「はい。分かりました」
ほっこりした。なんとなくお辞儀する。
その後、全員の謝罪を受た。リンチの件は、これで終了。
・・・・
「お昼までには時間がある。せっかく日本人と知り合えたのじゃ。話を聞きたい」
「話か。何がいい?」
運動して打ち解けたからか、コミュ障気味の俺も普通にしゃべれる。
「日本国のことにしよう。勇者として呼ばれたのじゃ。さぞ戦闘に強い種族なんだろ?」
「あはは。日本は戦闘民族って揶揄されることはある。個人的には、至って平和を愛する穏やかな人々じゃないかな」
「現在、独立国家であるなら、必ず戦いはあったはずじゃが?」
「そうだなぁ。前の戦争が70年と少し前。その戦争は世界と戦ってぼろぼろになった。その前は勝った。というか、その頃100年くらいずっと戦争してるわ。世界のいろんな強国と。で、その前は内戦、その前は平和だったけど、武士の国だったんだよなぁ。鎖国できるだけの軍事力があった・・・」
俺は、ガイア、という名のちびっ子に『俺史観』の日本史を語った。多分、間違いは言ってないはず。
・・・・
「ふむ。日本は、2000年以上続く独立国家。数百年前はずっと鎖国、すなわちほぼ単独国として自己完結しており、その後外圧で開国。それ以降の100年間はたびたび国家存亡レベルの戦争を続け、最終的には世界全体に喧嘩を売り、盛大に負けたと? やっぱり戦闘民族じゃ。何処が平和を愛しておるのじゃ。武器を持たせたらいけない気がするぞ?」
「まあ、そう言うなよ。必死だったんだと思う。戦わなかったら奴隷まっしぐらの世界だし。うちは戦うことを選択したわけ。奴隷になって心が死ぬくらいなら」
「悪い悪い。そうじゃな。しかしどうやったら世界と戦おうなんて思うのじゃ」
「向こうじゃ油といってな。ここでは魔石? 日本は魔石が殆ど取れない土地だった。外国からの輸入に頼ってた」
「う~む。それで?」
「ここで言ったら、マ国、リン国、ホゲェ、それからエンパイアのみんなに魔石の輸入を止められた感じ?」
「は? それはひどい。何故そんなことを要求したのじゃ?」
ガイア、マシュリー、オルティナも、『は?』という顔をしている。フランはぼーっとしている。
「富を差し出せ? まあ、文明国としては死ねってことかな。戦って死ぬか、戦わずに死ぬか、どちらか選べってね」
「は~。それで戦ったと。よく何年も戦えたものじゃ」
「最初の半年で世界の十分の一は支配下に置いたらしいからな。俺たちのおじいさん達は強かった。もちろん戦死者を出して、餓えるくらいに戦線を伸ばして、最後は特別な攻撃。自爆攻撃までして徹底的に抵抗したんだ」
「特別な攻撃か。我がご先祖様にも、死んでも祖国を守ろうとした英雄はおるのじゃ。『その攻撃』を行った武人達は、英雄、そして神じゃ。この感情、日本人に通じるかは分からぬが」
簡単に、『分かるよ!』とは言いたくなかった。言葉が出てこない。
「まあ、しみったれたの。今度は我らの話しをしよう。我らはなみんなCランクの魔術士。スタンピード討伐隊や近衛兵の中では最低ランク。今回はな、ガス抜きも兼ねて、さらに低ランクのお主をいじめてやろうと思ってやったのじゃ」
「ひどい。はっきり言うな」
「ごまかしても仕方がない。しかし、我らは対人戦でも駄目か・・・やっぱり、実家に帰るしかないのかのぅ」
ガイアがそう言うと、残りの3人は悲痛な顔をする。
「お姉様」
マシュリーは泣きながらオルティナの鎖骨に顔を埋める。オルティナはそれに答えるように、頭を撫でてあげている。
「実家が嫌なのか?」
「色々とな。まず、この国の貴族や軍隊では、魔術の実力が全てじゃ。魔術の実力や才能があるものがとても優遇される。Cランクだと、実家にいてもまともな婿はおらん」
「そ、そうなんだ」
「実家にいても、魔力の弱い貴族と結婚するか、高位の魔術士か富豪の妾になるかしかないわ」
「そうだ。ただ、私達は伯爵家以上の貴族家だから、それが足を引っ張っている所もある。下位貴族が我々を娶る場合、第一夫人に据える必要があるからね」
「だけど、私達にもプライドがあった。近衛兵になるくらいの実力はあったからの。そこで、近衛の魔術士として生きて行く道にかけたのじゃ!」
「私は、ここでいい殿方を見つけてやる!って頑張ったんですの。ぜんぜんお手付きのお誘い、来ませんでしたけど。頑張ったんですけどね」
マシュリーが自分の胸を寄せて上げる。何を頑張ったんだ? こいつ。
「こほん。ま、まあのぅ。わしも近衛兵ではあるが、恋愛ウェルカムじゃ。それはそれでロマンじゃ。だがの、我らには、いい人が現われる気配が無い」
4人全員が落ち込む。
「いや、みんな美人だと思うぞ?」
「・・・冗談はよせ。それよりもな。タビラよ。我が国は、先の戦いで大きな損害を出しておる」
「ガ、ガイアさま? その情報は・・・」
「オルティナよ。どうせばれることじゃ。まあ、タビラ。このことは、しばらく秘密にしておいて欲しい。その損害の補充のために、軍の大規模再編が行われる。我々は、おそらく近衛からスタンピード討伐隊に行くことになる」
4人とも悲痛な顔をする。
「Cランクの私達なんて、軍でどんな扱いを受けるかわかりませんわ」
「私たちは、”落ちこぼれ”であり、”行き遅れ”なんじゃ」
ちびっ子ガイアが、ちんちくりんな少年のような顔でそんなこと言う。ガイアと目が合う。
「わ、私は今年で25歳になったのじゃ。何か文句があるか?」
「ありません」
このなりで25歳? 嘘だろう。でも嘘をつく意味が分らない。まさか本当に25歳?
「もちろん、我々は、今すぐにでも実家に帰ることはできる。しかし待っているのは望まぬ結婚。だけど、今回、日本人がたくさん来て、少しチャンスと思ったところはあったんだ」
「結果は全滅。妻子のいる男性は無理に誘ってはだめとのお達しはありましたわ。それでも、誰もなびいてくれないなんて、女としての自信が。もう、わたくしにはオルティナお姉様しかいませんわ」
「要約すると、お前達は、魔力の実力と才能が微妙。家に居たらダサ男かじじいと結婚だからNG。それから逃げて近衛に入ったけどモテず。降格処分されそうで危機を感じ、日本人が大量に来たけどそれにもモテず。イラっときたから、俺を呼び出してストレス解消したと? そういうこと?」
「そうじゃ」
「まあ、モテない気持ちは解るよ。辛いよね。モテないの」
「何を勝ち誇った顔をしておるのじゃ」
俺は結婚できたからね。奇跡と思っているけど。
ただ、話を聞いて不可解な点がある。この子たちって貴族なんだよね。
「実家の力で、出陣はするけど安全なポストとかに付けて貰うとか?」
「軍隊内部に関しては、あまり貴族家の強権は通用せん。モンスターを倒すことが最優先される。それに、貴族家から兵士を出すのは、当然のことなのだ」
ああ、こいつらは、自分の立場を理解している。俺に話しをすることで、気持ちの整理を付けているのではないか。これもある種のストレス解消。おじさんの役目?
「戦って死ぬか戦わずに死ぬか選べ、か。よし。私は、戦って死ぬことにする。実家には戻らん。例え討伐隊に呼ばれたとしても、私は兵士の役割を果たす」
「わたくしも、望まぬ結婚を迫られるなら。お姉様と」「マシュリー」二人が百合百合しく抱き合う。
スタンピートは毎年必ず訪れる。これは、確実に訪れる戦争に行く話。公爵家が持つ情報の上での真面目な話。
この国は、結構まずい状態にある気がする。高級貴族の女性近衛兵を前線送りにするくらい。
目の前の少女(?)達は、覚悟を決めて見せた。
フランさんは一人ポカンとしている。この子は何でここにいるのだろうか。
「フランは約束通り、タビラ殿のお手付きになればいい。この方の魔術はなかなかのもの。フランはまだ若い。私たちと、茨の道をゆく必要は無い」
「はい!」
「いや。俺、嫁も子供もいるんだけど?」
お手つきの約束なんかしたっけ? 俺の価値観は、日本に居た頃と変わらない。愛人を囲うわけには行かないのだ。
「・・・ちっ」
フランさんが、舌打ちぃ? ご、ごめんね?
「わはは。日本人は一夫一婦制なのじゃろ? そんなの分かっておったじゃろ。いくら目で犯しておったとしても、お手つきは奥方が許さんだろう」
そう言って、ガイアが上着の袖についているボタン、いや、カフスリンクスの一つを外す。
オルティナ、マシュリー、フランもそれに続く。
「タビラよ。今日は楽しかった。そして、話を聞いてくれて感謝する。この強き異邦人に祝福あれ。タマクロー家が10女ガイアナーテ! 困った時には私を頼れ」
ちびっ子ガイアが、テーブルの上に外したカフスリンクスを持った方の手を置いた。というか、10女?
「ブレブナー伯が4女オルティナ! 貴方の魔道に敬服する。求められれば、貴方の力になろう」
ガイアの手の上にオルティナが手を重ねる。
「はい。ランカスター伯が3女マシュリー。私も貴方の力になるわ」
マシュリーがオルティナに続く。
「バルバロ辺境伯家の6女フランシスカ。私の力も、貴方とともに」
最後にフランが続く。みんな子沢山だなぁ。
「タビラよ。ここで、我らと手を重ねるのじゃ。そして、一言頼む」
それは無茶ぶり・・・
「・・・多比良家世帯主、城。俺も力を貸そう。困った時は、相談してくれ」
「いや、おぬしが貸してどうするのじゃ? まあよい。この
それは4つのカフスリンクス。よく見るとそれぞれ異なる紋章が入っている。かっこいい。
これは、断れない。俺は、ありがたく受け取った。
・・・・
「日本人は買い物じゃろ? フラン、タビラ殿を送ってやれ」
「はい!」
フランが立ち上がって、紅茶の片付けを始める。
皆が離れた隙に、マシュリーが俺の背中に回って耳打ちする。
「タビラさん? 魔力を絡めて魔術障壁を脱がせるやつ。アレね。恋人同士でするヤツだから余所でやってはダメよ?」
なに!? カルチャーショックだ。
俺は、この子らに対し、変態行為を繰り返していたというのか?
全員の表情をチラ見する。
フランは「?」という顔をしている。こいつは何も分かっていない。
オルティナは「ふっ」と微笑んだ。コミュ障の俺には理解できなかった。
ガイアは顔を真っ赤にして目をそらした。こいつは絶対気付いてた。
・・・忘れよう。俺は記憶を封印することにした。
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