クロス・リアリティ -仮想世界生存戦争(Survival War on Overlay World)-
メグリくくる
序章
・頼慈 令恵(よりちか れい)SIDE
SWOWへログインした瞬間、私のいる現実に、もう一つの現実が重ねられた。ともすれば虚構とも言えなくもないその仮想世界へと、私はやって来たのだ。
もちろん、現実世界にいる私が、仮想世界に手出しできるはずもない。私はもう一人の私、プレイヤーキャラクターを操作し、この仮想世界を揺蕩っている。このプレイヤーキャラクターが、SWOWでの私の、そしてプレイヤーたちの分身だ。
私はプレイヤーキャラクターを駆り、SWOW上に作られた東京の街を歩いていく。
《こんばんは、リーダー》
《今晩は!》
私がログインした事を知った私のチーム、ルドウィッグのメンバーが、オープンチャネルで声をかけてくれる。そんな愛すべきメンバーたちに、私も声を返した。
《皆、お疲れ様!》
ルドウィッグは、私が中学一年生の時にSWOWで作ったチームだ。強豪プレイヤーの集まりというわけではないが、私が高校一年、来月には二年生になるのだけれど、今の今まで少しずつメンバーも増えながら、楽しく、そして切磋琢磨してプレーしてきた、大切な仲間だ。
活動場所は、東京都区部の一つである、江戸川区。決してルドウィッグは強いチームとは言えないが、私が初めて自分で仲間を集め、初めて自分で作ったチームだ。時に現実で辛い事があっても、ルドウィッグのメンバーと会話しながら、私はそれを乗り越えてきた。
現実世界での繋がりはないが、SWOWで出会った仲間たちは私にとって第二の家族であり、ルドウィッグというチームは第二の家の様な存在なのだ。
《今日は待ちに待った、新イベントね!》
《そうだね! 本当に楽しみ!》
仲間の声に私が頷きを返していると、こちらを嘲るような笑い声が聞こえてくる。
《おいおい、遊び半分でプレーしてる奴らが、なんか言ってるぞ》
《通常プレイじゃ勝てないから、ここぞとばかりにイベントでポイントを稼ごうって魂胆か?》
《発想が既に負け犬だろ》
《ヌルい気持ちでやってるなら、邪魔だから消えてくれよ! 目障りなんだよっ!》
《弱小チームは、頼むから俺たちの邪魔だけはしないでくれよな。ボスを倒すのは、俺たちなんだからよっ!》
江戸川区を根城にする、強豪チームのプレイヤーたちが、ビルの上から下卑た声を吐き捨てる。その言葉に、私たちだけでなく、他のプレイヤーたち、正確にはプレイヤーが操作するプレイヤーキャラクターの表情が、居心地悪そうに暗くなった。
《……何だよ。少し強いぐらいで、偉そうに》
仲間の一人が、ルドウィッグのメンバーにだけ聞こえる様に、チームチャネルでそうつぶやいた。他のメンバーからも、似たり寄ったりの意見がチャネルに流れる。ただそこには憤りだけでなく、強豪チームに対する若干の嫉妬も混じっていた。どうせゲームをするのなら、負けるよりも勝ちたいと思うのは、当然のことだろう。
自分のチームを強く出来ないリーダーとしての責任を感じながらも、私はこの陰鬱な気配を吹き飛ばすために、あえて大げさに口を開いた。
《誰になんと言われようと、イベントに参加するのは、SWOWの全プレイヤーが持っている権利よ。だから気兼ねなく、今日初めて実装されるイベント、陣地取り領域(フラッグファイトエリア)を楽しみましょう》
《……そうだよね》
《せっかくやってるんだから、楽しまないと損だよ!》
《こういうお祭りには、参加しない手はないよねっ!》
ルドウィッグのメンバーだけでなく、他のプレイヤーたちの表情も少しだけ明るくなる。まるで王座から奴隷を見下ろすように私たちを睥睨している様な態度だった強豪チームの面々は、逆に面白くなさそうにツバを吐き捨てた。そしてその後すぐ、彼らは自分の装備品(アイテム)を構え直す。
もうすぐ新イベント、陣地取り領域が開始されるのだ。私も少し、緊張してきた。
弱小チームと言われても、例えそれが事実であったとしても、今回のイベントはルドウィッグとして様子見のつもりであったとしても、イベントが始まる瞬間は、胸が躍る。
そして、待ちに待ったイベントが、スタートした。
刹那、イベントは終了した。
いや、正確には、陣地取り領域というイベントは継続して発生している。しかし、私は強制的にイベントから退場させられてしまったのだ。
つまり、私の操作していたプレイヤーキャラクターが、死亡したのだ。私は慌てて、ルドウィッグのメンバーへ連絡を取る。そして、衝撃的な事実を知った。
全滅だ。
完膚無きまでの、全滅だった。
陣地取り領域が始まった瞬間、ルドウィッグだけでなく、強豪チームも含めて、陣地取り領域に参加していたプレイヤー全員が、一瞬にしてボス、特別区管理者(エリア・アドミニストレータ)によって鏖殺されたのだ。
その晩、ネット上のSWOW関連のニュースやチャット、掲示板、SNSは、大荒れだった。東京都区部の全二十三区にそれぞれ配置された特別区管理者に対して、絶望の怨嗟と攻略の糸口を探す激論が交わされている。
もちろん、私たちルドウィッグも、メンバー間での夜通し意見をぶつけ合った。しかし、私たちの意見は日が昇る頃になっても、まとまる気配がない。
あるメンバーは、ただひたすらに凶悪な特別区管理者に恐怖し。
あるメンバーは、特別区管理者を倒すために今までのチーム方針を罵り。
あるメンバーは、誰かに強制されてプレイするためにSWOWはしていないと哀情の言葉を作った。
そして、完全に日が昇る頃には。
私は、第二の家族と家を失っていた。
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