第63話 それぞれの行方
時間は少し遡る。
ウゥルカーヌスが自宅の窓からぼんやりと外を眺めているその姿を、ハーピィのレミィは横目に見ていた。
「嘘じゃねぇな。お前の里にいる人間をぶっ殺したら、お前をおらのモノにしていいんだな」
「ええ。わたしアナタたちと違って嘘はつかないわ。アナタたちの誰が本当のゴブゾウかは分からないけど、これだけいるんだもの。本物がいるわよね」
眼前にいるハーピィとの交配を想像し、浮かれて腰を振るゴブリンたちを冷めた目で見つめるレミィ。彼女はもう一度ウゥルカーヌスの方を認めると、後ろめたい気持ちからこの場をあとにする。
「じゃ、夜になったら手筈通りお願い」
「おらたちに任せろ! お前はさっき教えた場所で待ってんだぞ? いいな」
「ええ、荷馬車が置いてある南の倉庫前でしょ。待ってるわ」
浮かれてはしゃぐゴブリンたちに、レミィは懐疑的な目を向けていた。
「本当にあんなのが強いのかな?」
その夜、村が寝静まった時間帯を見計らったかのように、物陰からいくつもの小さな影が飛び出してくる。若いゴブリンたちだ。
彼らは何やらコソコソと村の中を移動し、やがて厩舎の前で足を止める。
「二頭だけで十分足りるぞ」
「大人しくしてくれよな」
ゴブリンたちは協力して
「おーい、待ったか」
「いえ、わたしも今来たところよ」
レミィはあえてその場に屈んでゴブリンたちと目線を合わせる。わざとらしくワンピースの胸元から谷間を見せつけ、ゴブリンたちが怖気付いて引き返さないように色仕掛けを行う。
「おお、すげぇぞ」
「こりゃたまんねぇな」
「スケベェなメスだな、おめぇ」
「ハーピィハーレムを作って、偉大な親父に褒めてもらうぞ」
自分たちを挑発するような態度を繰り返すスケベなハーピィに、ゴブリンたちも興奮を抑えきれない。
「さ、先に一回やらせてほしい」
「それはダメ」
切実なゴブリンのお願いには、ムッとして眉を逆立てて断る。
「わたしと子を作りたいなら、まずは里にいる人間たちを皆殺しにすること。それが絶対条件よ」
「わかったぞ」
ゴブリンたちははやる気持ちを抑え、倉庫から荷馬車を取り出し
「さあ、お前も乗れ」
「ええ、ありがとう」
こうしてゴブリンたちを引き連れ、レミィはアーサー村を飛び出した。
そこに本物のゴブゾウが居ないとも知らずに……。
彼らから遅れること一日半後。
村を立ったアーサーたちは、全速力でハーピィ村を目指していた。
「このままのペースで飛び続ければ、どの程度でハーピィの里には着くのだ?」
横並びで飛ぶジャンヌがゴブゾウに問いかける。
「おっぱいクッションが堪んないべな」
「あんた転落死したいわけッ!」
「じょ、冗談だべっ」
クレアの胸に後頭部を押しつけて悪戯を繰り返すゴブゾウの頭頂部が、嘘みたいに腫れ上がる。
「いっ、いてぇべなッ!?」
「次やったら叩き落とすわよ」
「絶対にしないべっ」
二人のやり取りに、苛ついたように声を張り上げるジャンヌ。
「おい、聞いているのか!」
「ハーピィの里はゴブリン村があった近くだべ。
言い終えると、ゴブゾウは尻が痛くなってきたといやらしい顔を作りながら、黒いセーラー服のスカートから伸びたクレアの太ももを撫でていた。
「いやぎゃああああああああああああああああああああ!?!?」
数分後には、グルグルに縄で巻かれて宙ぶらりんに吊るされるゴブリンの姿があった。
「たた、助けてほしいべっ」
「二度とあんたをあたしの前には乗せないから」
「ほんの出来心だったんだべ。赦してほしいべさ!」
「――無理ッ!」
一刀両断と切り捨てるクレアを見て、「あれなら神様も乗れたのでは」ジャンヌの乳房を背後から両手で掴むアーサーは考えていた。
「ア、アーサー、で、できれば手は腰の辺りで、頼む」
「――!?」
耳までさくらんぼのように真っ赤に染まるアーサーが、「はぃ」とても恥ずかしそうに返事をする。
一行は最低限の休息を取りながら、レミィたちの行方を追っていた。
神ウゥルカーヌスはというと、
ちーん……。
ってな具合に森の中で干からびていた。
「ま、まげぇでぇ、だま、るがぁっ……」
疲れ果てて気を失ったように眠ってしまった。
別の頃、一台の荷馬車が夜空を駆け抜ける。
ハーピィの里が見えてきたゴブリンたちは、浮かれたように声を上げている。
「もうすぐレミィと子が作れるんだぞ」
「バカ言え、レミィと子を作るのはおらだ」
「アホ、それはおらの女だ」
狭い荷台の中で取っ組み合いの喧嘩に発展するゴブリンたちを諌め、レミィは目を光らせ、決死の表情で里を見据えていた。
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