第29話 ふざけた集団
「人間風情が図に乗るなァッ――!」
俺たちを一網打尽と串刺しにすべく、得物を突きつけて刺突を繰り出すダークエルフたち。
「この場で処刑せよッ――――!」
「上等だッ、愚か者どもめがァッ!」
神に刃物を向けるとどうなるか教えてやる。
俺はすかさずコートの内側から
「なっ、なんだこれは!?」
揺れる大地にバランスを崩して倒れるダークエルフたち。その眼前には、真っ二つに割れた地面が巨人のごとく口を開けていく。
「た、たいひっ、退避ッ―――!!」
恐怖に震えあがるダークエルフたちが、へっぴり腰のまま慌てて逃げていく。
そんな中――
「放てぇええええッ――――!!」
勇ましい叫びが闘技場にこだまする。
刺突隊が役に立たないと分かるや否や、四方を取り囲むように客席に散らばった別動隊が、弦を引き絞り、頭上から鉄の雨を降らせたのだ。
ウギャアアアアアアアア――悲鳴を上げるゴブトリオが、アマンダの周囲を駆けまわる。
「ど、どうするだがやっ!?」
「小生が穴ぼこになってしまうじょ!?」
「オオオラがアマンダを守るだべさっ!」
何か無いかと四次元腹巻きを漁り、安物の鉄屑装備を地面に投げ捨てていくゴブゾウを尻目に、ジャンヌは落ち着き払った様子で腰の聖剣をすっぱ抜く。
「この程度で王の首が取れるなどと思うなよッ!」
紫電一閃。
天に向かって放たれた一振りは風を巻き起こし、頭上を覆いつくす鉄の雨を弾き飛ばしていく。
「や、やり過ぎだよ、ジャンヌッ!?」
「ア、アーサーッ!?」
危うく飛んでくる矢と一緒にアーサーまで吹き飛ばしてしまいそうになるも、寸前のところで腕を掴んでそれを阻止。
アーサーは突風に煽られる旗のようだった。
「い、いやぁあああああッ―――!?」
――アマンダ!?
一瞬、彼女の悲鳴に心の中を掻きむしられるような激しい焦燥を感じるが、すぐにそれとは別に、やきもきする気持ちが胸いっぱいに広がる。
「アマンダを守るんだべ!」
「飛ばされないようにしっかり支えるじょ!」
「む、胸はわてが押さえるだがや!」
「あっ、ゴブヘイ! おめぇズリぃだべさ!」
「小生もアマンダのおっぱいもみもみしたいんだじょ!」
「おお! この脚もスベスベしていて堪らんだがや!」
「アマンダのくびれも最高なんだべ!」
アマンダに飛びついたゴブトリオが、彼女の全身を隅から隅まで隈なく移動。その動きはまるでゴキブリのようである。
ドン! パチ! ゴン!
「いい加減にしろ!」
ゴキトリオに神の鉄槌をくれてやる。
「ウ、ウゥル!」
ゴキトリオから開放されたアマンダが、今にも泣き出しそうな顔で胸に飛び込んでくる。
「き、気持ち悪かったよぉー」
「おぉー、よしよし」
この尻の感触、もーたまらんッ!
「自分ばっかりズルいべさ」
「わてらにも少しくらい触らせてほしいだがや」
「神様は時々すごくケチになるんだじょ」
「――あァン?」
何か言ったかと睨みつけてやれば、ゴブトリオは助けを求めるようにジャンヌへと駆け出した。
「ジャンヌー! オラたちも守ってほしいべ!」
「スケベいな恰好をしたジャンヌもたまらんだがや!」
「やっぱり小生はおっぱ―――」
―――斬ッ!
命知らずのゴブトリオはあえなく撃沈。鞘で叩かれ地面にめり込んでいる。
「私に触れるなッ! この変態ゴブリンがァッ!」
「ジャンヌは僕のか、かかか彼女なんだから!」
「アーサー!」
「ジャンヌ!」
敵に狙われていることも忘れて抱き合う二人。
「どいつもこいつも何をやっとんのだ」
「――あんっ!」
「おっとこれはすまん」
抱きかかえながらつい胸を揉んでしまった。
「つい、癖でな」
ぐふふと笑って誤魔化す。
「な、なめやがって!」
「何なのよ、あのふざけた集団はッ!」
「誇り高き
気がつくと客席を埋め尽くしていた観客たちの姿が消えていた。
往生際が悪いロキは、未だにあちしは関係ないわよと叫んでいる。
「まだやるつもりか?」
俺は特別席からこちらを見下ろす
ガリッ――音が聞こえそうなほど奥歯を噛んだ
「うぅっ……」
「アーサー!?」
すると凄まじい重力場が発生し、たまらずアーサーが膝をつく。
「俺から離れるなよ、アマンダ」
「う、うん!」
アマンダを守るため瞬時に展開させた
「あれ、楽になったや」
「大丈夫なのか、アーサー!」
「うん、もう平気みたい」
「オ、オラだぢぃも、ぎにがげでぇ、ほしいべ」
「破廉恥ゴブリンなど知らん」
一刀両断と斬り捨てるジャンヌ。
当然の報いだな。
「バ、バカなッ!? なぜ余の力が効かないのです! こうなれば数で押しきれッ――!」
「なんだ、この数は!?」
観客席を埋め尽くすほどのダークエルフの軍勢に、ジャンヌの額にも玉のような汗がにじむ。
「まずいですよ、神様!」
「ぎょぇええ!?」
慌てふためくアーサー。
ガクガクブルブル震えるゴブトリオは、起き上がると同時に俺の脚にしがみついた。
「あちし、手ぇ貸さないわよ」
薄情なロキは他人事のように言う。
無駄な殺生は好まんのだが、仕方ないかと思ったその時――
「もうやめてよ、ママ――」
笛のように綺麗に澄んだ声音がコロッセオに響き渡った。
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