12時発、1時着。/3つの心の旅【第1話】ストリートビュー

秋色

第1話 ストリートビュー①春の迷い

 春はまだ浅い三月の満月の夜。やっともらった採用通知を手に亮は、ため息をついていた。この新しい就職先を付き合っている亜矢にまだ打ち明けていない。喜ばれないからじゃない。逆に喜ばれるだろう。

 でも亮にとっては素直に喜べない就職先だった。地方の田舎町の印象しかない。

 高校を出て、三年間大きな自動車会社の工場に勤めていたものの、人間関係で辞めて半年、実家に帰って家業の店を手伝っていた。

 就活で書類審査を通過した二社のうち、断然、駅に近いビジネス街のビルにオフィスを構えた企業が亮にとっての本命だった。でも面接で採用通知が届いたのは、もう一方のひなびた地域にある工務店だったのだ。

 亜矢はそちらの方がいいんじゃないかと前から言っていた。自分が看護師として一年前から勤めている総合病院が近いからという理由だ。亜矢はその病院の寮にいる。



 入社が来週に迫っている土曜の夜、引っ越しを済ませたばかりのアパートで眠れないでいた。


――いい加減、亜矢には知らせないといけないな――


 亜矢がキライになったわけじゃない。亜矢とは高校時代から付き合っていて、しかも幼稚園の頃も顔見知りだったからある意味、幼馴染のような存在だ。でもあの町の工務店に勤め、亜矢と将来を共にするのは何か自分が変われないまま、大人になって人生が過ぎていく感じがした。敷かれた田舎のレールをそのまま走る電車のようだ。途中下車して行ったことのない目的地へ向かう、特急とまではいかなくても快速電車に乗り換えたかった。

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