第3話
ハルナタウンという町に着いた。この町は他の町と決定的に違う事がある。それは、モンスターと人間が共存しているという事である。モンスターは基本的に気性が荒い者が多く、人間を襲う種族が多いため、討伐の対象となる事が多い。中には奴隷として人間にこき使われている者達もいる。そんな中、この町では人間とモンスターが平等に扱われており、モンスターにも人権が認められている。しかし、やはり人間とモンスターの共存というのは難しく、トラブルが絶えないという。
町に着いて早々、サラは用を足したがっていた。
「ちょっとトイレ行ってくるからここで待ってて、アロル」
「ゆっくりしてきなよ」
サラは急いでトイレに向かった。少しして、サラが戻って来たが何やら様子が変だった。
「好き好きアロル!私を抱きしめてー」
「何を言い出すんだ!?いきなり」
「いいから抱きしめて…」
「わ、わかったよ、こうか?」
俺はサラの背中に両手を回し、ギュッと抱きしめた。サラも同じように俺を抱きしめた。
「愛してるわよ、アロル」
サラが色っぽい目つきで俺を見つめた。
「一体どうしたんだ?なんかお前変だぞ、サラ」
「ずっと、ずーっと好きだったんだよ、アロル」
「そ、そんな事急に言われても…」
サラは鼻をクンクンさせると、俺の体から手を離した。
「あっ、私もう行かなきゃ!じゃあね」
サラは逃げるように去って行った。3分ぐらい経ち、またサラが戻ってきた。
「ふー、さっぱりした。さぁ町を見て回ろうか、アロル」
「あ、あのさサラ、さっきのは本気なのか?」
俺はたじたじしながら、問いかけた。
「え?さっきのって?」
サラはきょとんとしている。
「さっき俺の事を好きだとか愛してるとか言ってただろ?」
「何言ってるの?夢でも見てたんじゃないの?」
おかしいな、確かにさっきサラが言った言葉なんだが…俺は一瞬頭が混乱したがすぐに答えを見出した。
「もしかして、サラに化けたモンスターだったのかな?」
「きっとそうよ。外見だけだと見分けがつかないのいるから」
俺はちょっと残念な気持ちになった。
俺達は町の散策を再開した。色々と見て回ってみてやはり2人共同じ感想を抱いていた。
「ホントこの町って人間とモンスター仲いいよね?」
「ああ、こんな町珍しいよな」
俺は頷きながら答えた。
「あっ、でもやっぱりそうじゃないのもいるみたい。あそこ見て」
サラは2匹の人型のモンスターが1人の14才くらいの男の子をいじめている現場を指さした。
どこの社会にもはみ出し者というのは存在するものだが、やはりこの町にもそういう輩はいるようだ。どれだけ手を尽くして、人間とモンスターが共存できる社会を築こうとしても、クズは生まれてしまうものなのだなぁとしみじみ思った。
「おい兄ちゃん、今俺にわざとぶつかったんだよな?」
1匹のモンスターがすごんでいる。
「誤解ですって!さっきから何度も言ってるじゃないですかー」
少年は怯えながら弁解した。
するともう1匹のモンスターが笑いながら言った。
「こんな奴さっさとボコボコにして、遊びに行こうぜ」
「そうだな、おりゃ」
そこで、俺は威勢よく飛び出した。
「待て!少年を離してやれ。嫌がってるだろ」
「なんだお前、殴られてぇのか!」
モンスターが脅してきたが、俺には全くこたえていない。この程度のモンスターであれば魔法を使うまでもなく、楽々勝利する事ができるからだ。俺は自身満々で言った。
「痛い思いをする前に立ち去った方がいい」
「この野郎なめやがって!」
モンスターが殴りかかってきたが、ひらりと身をかわし、回し蹴りを相手の側頭部にくらわせた。相手は1発でダウンした。
「ひ、ひぇー」
もう1匹のモンスターは震えながら一目散に逃げ出した。
「ありがとうございました」
少年はお礼を言うと、頭を下げた。
「いいって事よ、これからは気を付けるんだよ」
「あの、お礼をさせてもえませんか?」
「別に気にしなくていいけど、まぁ何かくれるならもらっておこうかな」
「では、僕について来てください」
言われるままに少年について行った。少年は大豪邸の前で止まった。
「ここが僕の家です」
「こんな広いおうちに住んでるの?すごい大金持ちの息子さんだったんだなぁ」
俺は驚きを隠す事ができなかった。田舎者なのでこんな豪邸は見た事がなかった。キョロキョロと豪邸を見回した。俺の10億ギンドでもここまでの豪邸を買う事はできないだろうなぁ。
「少し待っててください」
そう言うと少年は家の中へと入っていった。
「まさかこんなものすごい家に住んでるなんて思わなかったよな、サラ」
「そうね、私こんな大きなおうち見た事ない」
サラも田舎者なので、俺と同じ感想だった。
しばらくすると少年が家から出てきた。
「お待たせしました。どうぞお上がり下さい」
「それではお邪魔します」
家の中も高そうな豪華な家具が揃えられていた。家具に目を奪われていると奥から少年の父親らしき人が出てきた。
「この度は息子が大変お世話になりました。私町長のダラスと申します」
「町長さんだったんですか。立派なお屋敷に住めるわけだ」
「何かお礼をしなければなりませんね…そうだ、ウチでお食事をとって頂けませんか?シェフに腕によりをかけて作らせますので」
「それはありがたいですね、是非ごちそうになります」
2人は食堂に案内され、食事ができるまでしばらく待つように言われた。
「こんなに広い食堂だと緊張しちゃうね、アロル」
「ああ、でも食事楽しみだなぁ。あっ、食事の前にトイレ行かなきゃ」
俺は席を立つと食堂を出て、トイレを探した。トイレを探しているとダラスさんの部屋らしき場所から、ダラスさんと息子さんの声が聞こえた。少しドアが開いている。ダラスさんにトイレの場所を聞こうと思い近づき、ドアの隙間から中をのぞいた。するとそこにいたのは2匹のモンスターだった。なんとダラスさんとその息子さんはモンスターだったのだ。俺は驚いて少し扉に触れて音を出してしまった。
「誰だ!?」
「俺です」
「貴方ですか…私達の本当の姿を見てしまいましたね」
「見ましたが特に問題はないのでは?」
俺は首を傾げた。
「大問題ですよ。誰にも知られてはいけない秘密を貴方は知ってしまったのです。残念ですがここから生きて帰すわけにはいかなくなりましたね」
ダラスさんは伸びる腕で攻撃してきた。俺は間一髪でかわすと今度は伸びる足で攻撃してきた。ちょっとかすりはしたが、なんとか無事だ。
「やめてください。怒りますよ」
「申し訳ないが死んで頂きたい」
ダラスさんはパンチとキックをうまく組み合わせ、なんとか俺を殺そうとしてきた。俺は仕方なく、炎で反撃した。
「メサオ!」
炎がダラスさんの体を取り巻く。
「ぎゃあー、やめてくれー」
「もう、俺を殺そうとするのはやめてくれますか?」
「やめる、やめるから助けてくれー」
俺は炎を消した。
「なぜ、モンスターの姿を見られるのがそんなに嫌なのですか?この町では誰も気にしないんじゃないですか?」
「表向きこの町は人間とモンスターがうまく共存できているように見えます。しかし、まだまだモンスターに対する偏見は根強いのです。真の意味での平等はずっと先の話です。もし私がモンスターだという事が世に知られたら、たちまちのうちに町長の座を追われ、肩身を狭くして生きていかなければなりません。苦労して築き上げてきたものを壊したくはないのです」
「そうでしたか…でも安心して下さい、俺は絶対誰にも貴方がモンスターだという事はしゃべりませんから」
「本当ですか!?よろしくお願いします」
俺とサラは食事をごちそうしてもらう予定だったが、キャンセルして屋敷を出た。
「ちょっとー、せっかくごちそうしてくれるって言ってたのに帰っちゃうのー?」
「色々あってな。またの機会にしようよ、サラ」
「ちぇっ、楽しみにしてたのになぁ」
サラは愚痴をこぼしながら、歩き始めた。
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