第5話

   

「うん、その点は僕が保証する。僕の高校には、女子生徒どころか、女性教師もいなかった。全く女性と接する機会のない、寂しい高校三年間だったよ」

 僕が告げると、村山がポンと手を叩く。

「なるほど。それで『知り合ったばかりの頃に聞かされた』になるわけか」

 早とちりも多い村山だが、頭の回転は速いタイプだ。この会話のスタート地点を思い出して、きちんと理解できたらしい。

「ついでに補足しておくと、僕の高校に雪女の噂はなかったよ。だから牧田の『雪女』は、牧田だけに見える超常現象だったんじゃないかな?」

「だとしたら……」

 村山が少し難しい顔をする。

「それは雪女みたいな妖怪じゃなくて、むしろ幽霊のたぐいじゃないのか? 牧田は幽霊に取り憑かれたから、牧田にだけその幽霊が見えたのでは?」

「幽霊も妖怪も似たようなものだろう。どちらも引っくるめて、俺は『雪女』と呼ぶことにしている」

 言葉の定義はどうでもよい。そんな態度を見せてから、牧田は続けた。

「たとえ俺が幽霊に取り憑かれたのだとしても、少なくとも悪霊ではないから、何も問題はない。健康状態も良好だし、あの後、大学にも合格した。悪霊どころか、幸運の女神ではないか!」

 もしも自分が本当に取り憑かれたのであれば、今でも雪の日に彼女を見ることが出来るかもしれない。地元を離れた自分を、彼女は追ってきてくれたかもしれない。

 牧田はそう期待して、今後も雪の日は、ついつい彼女を探してしまうという。

「雪女に対する、牧田の強い執着心。それこそ『憑かれている』と言えるんじゃないのか?」

 という村山の冗談で、この話題は終わりになったのだが……。

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る