第104話 一触即発

 ニールスは考えた。


 今この場でできる最善は何か。

 わからない。

 では、こちら側の人間が誰も傷つかないようにするにはどうすればいい?


 ここは従魔であるフェンリルプラウドを前面に押し出すしかないか?

 恐らくフェンリルであれば、この場をこちら側の怪我無く乗り切る事は、そう難しくはないだろう。


 だがもう少し待てばクーン達がやってくる。

 それまで何とか・・・・自分だけであれば何とでもなるが、受付嬢を護りながらとなると、一気に難易度が上がる。


 考えている間にも状況は刻一刻と変化。

 それも悪い方に。


【どうするのだ?いつでも飛び出す事は出来るぞ。】

 現在フェンリルは地中に居る。つまりは隠伏状態。

 しかしこの場に現れるとどうなるか?

 物理的には床が破損してしまう。

 出来れば避けたい。

 しかし待ったなしである。

 それも今度は味方が。

【シロが来たがこのまま出るとまずいぞ!】

「止めろ!」


 思わずニールスは声を出してしまった。

「何だてめえは!おい、かまわねえからやっちまおうぜ!」

 声に思わず反応する【一騎当千】のクランメンバー。

 ニールスは内心失敗した!と思いながら、いつでも抜刀できるように身構える。


 そしてシロとクーンだが・・・・


【何処に出るんだ?】

 地脈にのって移動中なので、シロとは念話での意思疎通。

【あの建物であれば問題なかろう。確か魔物を解体する場所は板張りではなかったはずだ。】


 あ、そうだ。俺は薬草採取しかしないが、確か奥にある解体場は地面がむき出しだったはず。


【よしシロ、解体場に出ろ!】


【一騎当千】のメンバーが、ニールスに手を出そうとしたその時、


「うわ!」

「ま、魔物が出たぞ!」

「こ、殺される!」


 奥が騒がしくなり、受付の奥にある解体場から職員が飛び出してきた。


 そしてシロと、シロの背に抱きついたままのクーンがニールスの所に向かってきた。


「ふぇ、フェンリルだと!」

 流石はS級クランの代表。

 シロを一目見てフェンリルと看破した。


 ギルドの職員が止める間もなく、

「奴は一頭だ!仕留めろ!」


 あろう事かクラン【一騎当千】の代表がそんな一言を言い放ってしまった。


 しかしそれもほんの一瞬の事で、その後に出現した複数のフェンリルに、この場に元々居合わせていた全員が固まってしまった。


 何せシロとクーンが飛び出した後から次々とフェンリルがやってきたからだ。


 フェンリル同士で既に状況を共有していたようで、ニールスの従魔もこの間に解体場から飛び出したので、都合6体のフェンリルがこの場を支配した。


「か、囲まれた・・・・」


 6体のフェンリルに囲まれては分が悪い。

 そう察した一騎当千の代表は、

「けっ!帰るぞ。」


 そう言われ一騎当千のメンバーは代表の後に従い、出て行った。


 若干歩き方がぎこちなかったようだが、誰も気にしていなかった。


 この場に残された受付嬢だが、全員失禁してしまい、数人は気絶してしまったようだ。

 いち早く気が付いたのがフロリーナ。

 彼女は【浄化】を使える。何せフロリーナは聖魔法の使い手。

 聖属性には回復の他、こうした浄化などの魔法も使えるのだ。


 本来はアンデット相手に使う魔法なのだが、何故か浄化を唱えた対象は綺麗になる。


 そこで、

「【浄化】します!」


 フロリーナは建物全体に浄化を唱えた。


 こうして未然に危機を防ぐ事に成功、受付嬢の危機もばれずに済んだ・・・・はず。


 こうして何とか解決したのだが、何とも後味の悪い結末だった。



 そして【一騎当千】代表と言えば、


 これはどうした事だ?俺は粗相をしてしまったはずだが、なんともないぞ?ばれては・・・・ないな。


 そう、彼はフェンリルにビビって漏らしてしまったのだ。

 そしてそれを悟られぬよう、あの場を後にしたのだ。

 だが、こんな事であれば留まるべきだったか?

 いやまて、あの人数では6体ものフェンリルを相手に分が悪すぎる。

 これでよかったのだ・・・・だが覚えておけよ!我が【一騎当千】に恥をかかせると言うのがどういう事なのか!!!


 こうして一方的に【一騎当千】から恨まれた【以一当千】。

 完全にとばっちりである。









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