【一部朗読あり】バレンタインを救え!大作戦
武藤勇城
序章 吊り橋効果で気になるあの娘を落とそうバレンタインデー大作戦♡【朗読あり】※朗読URLは小説情報に記載してあります
第1話 バレンタインデー大作戦♡ その1
僕の名前は
それほど頭が良いわけではなく、背が低く、ファッションや流行にも疎く、運動は苦手で何をやってもどんくさいと言われる。運動不足がたたった肥満体形で、若くして頭皮も薄くなりかけているという、世間一般的に冴えない方から数えて最上位に入るようなブ男だ。偏差値ギリギリ、一浪して入った大学でも、僕は友達を作れず寂しい日々を送っているンゴ。
そんな僕にとって、唯一といっても過言ではない自慢がある。それは、僕には勿体ないほどの美人で頭が良い彼女の存在。彼女の名前は
同じ年で隣の家同士だった僕と彼女は、幼い頃からしょっちゅう一緒に遊んでいた。小学校の時は一緒にお風呂に入ったし、川や海にも家族ぐるみで遊びに行った。物心ついてからは、素肌を見せるような場所に一緒に行く機会は減ってしまったが、僕の目と脳裏には彼女のボディラインがくっきりと焼き付いている。他の誰にも見せてはいないであろう、彼女の姿。僕だけがそれを知っているンゴ。
中学の3年間のうち、彼女と同じクラスになったのは中二の1年間だけ。机の並びは僕の方が前だったので、授業中、僕は背中に彼女の視線を感じていた。授業中などパッと振り向いた時、彼女と目が合って手を振ったり、ウィンクをして合図を送った。先生に見付かって拳骨を喰らったりもしたが、僕は懲りなかった。掃除の時に同じ班になれば、掃除そっちのけで彼女とじゃれ合い、ふざけ合った。そしてまた先生に怒られたンゴ。
高校受験は地獄だった。彼女の進む高校は、僕にとってはあまりにもレベルが高かった。先生に「無理はするなよ」と注意されたが、彼女と同じ高校に行きたくて、生まれてこのかた、こんなに努力した記憶はないというぐらい頑張った。寸暇を惜しんで。必死に勉強して。それでもギリギリだったと思う。受験の後、「これは落ちたンゴ」と思ったが、合格発表を見に行ったらどうにか受かっていた。彼女も同じ高校に入れた事をとても喜んでくれて、「また一緒に行けるね」と笑いかけてくれた。あの笑顔のために頑張ったんだと、報われたと思ったンゴ。
何とか入学したものの、高校で僕は浮いた存在になった。授業について行けず、何度も追試を受け、先生の個別の授業を受け、石にかじりついて彼女と同じ道を歩んだ。厳しい日々を、彼女と同じ高校に通っているのだという強い思いだけで乗り切った。彼女はそんな僕に勉強を教えてくれたり、分かり易くまとめてある彼女のノートを貸してくれたりした。彼女が部活動で汗を流す間も、僕は必死で勉強して、彼女の後を追いかけ続けた。高校時代の思い出は『勉強』以外にない。そう言えば一度、テストで予想より遥かに良い点を取れた時に、彼女にご褒美をおねだりして、秘密を一つだけ教えてもらえる事になった。調子に乗って「その大きな二つの膨らみのサイズは幾つンゴ?」と聞くと、「死ねよブタ」と真顔で拒絶された。「ありがとうございます!」お礼を述べた後で、本気で教えてくれるかと期待していたのを「冗談、じょうだンゴ」と誤魔化してから、当たり障りのない指輪のサイズを聞いたンゴ。
そんな僕にとって、彼女の選んだ大学は雲の上であった。化学系に強い大学で、将来薬剤師か製薬関係に進みたいという彼女が選んだのは当然。僕も同じ大学を目指して受験したが、敢えなく惨敗。自分でも笑えるぐらいの惨憺たる結果で、結果発表を見に行くだけ無駄だと思ったから、現地には行かず彼女から「番号はなかったよ。残念だったね」という報告を聞いたのみであった。それから1年。僕は必死で勉強し、受験対策を練った。彼女も時々勉強を見てくれた。「違う大学で良くない?」そんな彼女の言葉は僕を慮ったものだったが、逆にその言葉で火が付いた。大学のサークルで疲れ、机に突っ伏して居眠りする彼女の横顔を眺めながら、どうしても彼女と同じ大学へ行きたい、その一心で頑張り、一浪した末に合格。僕の努力を隣で眺めていた彼女も心から喜んでくれた。あの日、眠る彼女のまだ長かった髪を優しく撫でてキスした事を、彼女は知らない。可愛い寝顔を覗き込むと、何の夢を見ているのか眉根を寄せる。そんな表情もたまらなく愛しかったンゴ。
大学生になって1年。ようやく学校にも慣れてきた。といっても、いっぱいいっぱいである。授業にはついて行くのがやっと。彼女も自分の勉強やサークルがあると、勉強を見てくれる時間もなくなってきて、一緒にいる時間が減っていたンゴ。
僕も彼女も二十歳になり、成人した。立派な大人である。僕は二十歳になったら、彼女に伝えたいと思っていた。『婚約』の話である。しかし、ただ普通に告白しても面白くはない。可能な限りロマンチックに、ドラマチックに。彼女も喜んでくれるような、一生の思い出になるような、そんな何かはないだろうかと考えた。そして僕が出した答えは……『海外旅行』である。それも、ただの海外旅行ではないンゴ。
「栞奈。ちょっと話があるんだけど、いいンゴ?」
「うん? なに?」
突然の電話だったが、彼女は弾んだ声で応じたンゴ。
「今、大学休みじゃンゴ?」
「うん」
2月の第一週目には、もう大学の講義は残っていない。僕の場合は単位が足りないので、補講や先生の私的な研究の手伝いなどをやって何とかしてもらっているが、彼女は完全にフリーンゴ。
「バイトやるって言ってたンゴ? もう始めたンゴ?」
「それがね、まだ見付からないの。探してるんだけどねー……」
「僕さ、実は中学、高校の時のお小遣いを貯めてあるンゴ」
「えっ、なに、自慢?」
電話の向こうで、少し怒ったような声を出しつつ、彼女は笑ったンゴ。
「それが、結構な金額貯まってるンゴ。何も欲しいものとか無くてさ」
ウソである。欲しいものはあったが、我慢してきた。何かの時に使えるように。高校時代、学校の許可を貰って、深夜に少しバイトもした。浪人時代も。その貯金が、総額で五十万弱、四十数万円ゴ。
「えっ、やっぱり自慢ですかー。そうですかー」
「いや、そうじゃないンゴ。あの、ちょっと言いにくいンゴけど」
「ん? 何よ」
「ンゴ~、その。旅行ンゴ、行く気はないンゴ……?」
「旅行?」
「ンゴ。もう僕ら二十歳じゃンゴ? 立派な大人っていうンゴか」
「耕作が立派なもんかよ」
「ンゴォー!」
電話の向こうで笑い声が聞こえるンゴ。
「まあ立派かどうかはともかくンゴ。僕の貯金ゴで、パーっと旅行ンゴに」
「うん……?」
「ダメンゴ?」
「別に……ダメじゃないけど……」
「嫌ンゴ?」
「別に…………イヤじゃないけど……」
彼女にしては歯切れが悪い。もっと普段はサバサバしている彼女である。僕は少し訝しんだが、初旅行と言われて彼女も困っているのだろうか、それとも僕のお金で遊びに行くのが嫌なンゴか。
「お金の心配、してるンゴ?」
「……うん……」
「心配しないで。使う予定のないお金だから。それに、そんなに長旅じゃないンゴ。2泊3日か、3泊4日ぐらいで。どうンゴ?」
「……うん……行くとしたらどこに?」
「いつだったンゴか? ガラスの吊り橋って、テレビでやってたの覚えてるンゴ?」
「覚えてる! 怖そうだよねって話したよね~!」
「そうンゴ、それンゴ」
「中国だったっけ?」
「中国……?」
「あれ? 違った?」
数少ない、彼女より僕が勝っている知識。それは歴史である。彼女は学校の授業に出るような歴史は強い。鳴くよウグイス平安京みたいな。そうした授業やテストに出るような歴史では、僕は絶対彼女に勝てないンゴ。
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