フィルの正体【フィル視点】
少し前の話。
私は家に帰ると、まだ日が高い内からカーテンを閉める。
女神ファジーに祈りを捧げると部屋が光に包まれ、女神の元へと転移した。
転移すると背中から白い羽が生え、頭には天使の輪が出現する。
深刻な女神力不足により地上にいると天使の姿を保つことが出来ないのだ。
女神ファジーはベッドに横になりながらシュークリームを異空間から取り出して口に運んでいる。
女神は基本だらしない。
「ファジー様、報告に戻りました」
「うん、お疲れ様~」
「勇者パーティーですが、全員戦闘力30に到達しました。ですが素行の悪さから全員の幸運値がマイナスです」
「う~ん。幸運値もだけど、レベルアップが遅いよ」
「それが、そこまでまじめに魔物狩りをする様子はなく、酒場でのんびりと過ごす時間が多いようです」
「おかしいな。皆からこの世界を救う力があるって感じたのに」
「どのように世界を救うかは分かりませんから。引き続き観察を続けます。続いてジュンですが、うさぎ族を救い、戦闘力が50を突破しました」
「わ~お。凄いね。ジュンには期待できそうだよ。滅びそうだったうさぎ族もなんとか滅びを免れそう」
「報告は以上です」
「ふふふふ、ジュンには戦闘力だけじゃなく、統治者としても頑張って欲しいな~」
「え?」
ジュンがリーダーに向くとは思えない。
内向的な性格で統治者というより軍師に向いている。
皆を統治するというより、個人プレーでコツコツ積み上げて成果を出すタイプに見える。
「フィルはジュンが統治者に向かないと思う?」
「……はい。ファジー様は向いていると思うのですか?」
「思うよ」
「確かに彼の戦闘力は高いですが、統治に向くとは思えません。どちらかというと裏方の方が似合う感じがします。主に性格が、です」
「統治者はねえ、チートスキルが無くても、強くなくてもいいんだよ。指導力は、あればあった方が良いけど、それが無くても統治者にはなれるわ」
「え?」
指導力は必要ない?
ファジー様の考えが分からない。
「指導者は、皆を引っ張っていく者だと思っていました」
「そういうリーダーも居るよ。でもねえ、頼りなくてもこの人を助けたいと思わせる力があればいいんだよ」
私ははっとした。
どんなに強引でも人がついてこなければ意味が無い。
この人は私が助けないと駄目だと思わせる統治者も居る。
強引じゃなくても、下に居る者が統治者を助け、補っていく統治者の形もあるのかもしれない。
一番大事な事は人を引き付ける力なのだ。
ファジー様が言っているのは恐らくそう言う事だ。
統治力の問題は出来る者に一任すれば解決できる。
「確かに、そうかもしれません」
私は地上に帰ると、ジュンの事が気になるようになった。
それから私はジュンを見つけると必ず目で追うようになった。
ジュンは簡単に話をするけど、その裏には深い信念のようなものを感じ取れるようになっていた。
ジュンは前に言っていた。
未来を見ていると。
ジュンは前に言っていた。
魚を与えるのではなく、釣り方を教えよと。
その時私はショックを受けた。
私は魚を与える事しかしていない。
ただパンを配ってお終い。
しかもその時のジュンの横顔を見て分かった。
ジュンの苦しそうな顔を見て、感情を殺して根本を解決する道を選んでいる事を察した。
ジュンは大事だと思った事はその場限りの簡単な対応で終わらせない。
面倒で時間がかかっても必ず根本を解決する方法を取る。
でもそれが一番の解決策だと知っている。
うさぎ族を助けた時もそうだ。
安易に食料をばら撒いて済ませる事はせず、どんなに手間がかかり、コストがかさんでも教育を優先した。
ラビイのレベルが10に上がり、ラビイに余裕が出来ると、何度もポーション作りを勧めた。
失敗しても、何度も何度も失敗しても財産を失うまでラビイにポーションの材料を渡し続けた。
そしてジュンは自身の財産を全て使い尽くした。
今ではラビイが街で一番のポーション作りの名人になった。
そのおかげでうさぎ族は変わろうとしている。
急速に豊かになりつつある。
ジュンは変わっている。
変わっているけど底が見えないような得体のしれない深みを感じていた。
そこにうさぎ族の女性が助けを求めてきた。
「フィル!助けて!ジュン様が私達を眷属にしてくれないの!」
「え?」
私はすぐにうさぎ族の元に向かった。
女性とジュンの仲裁を終える。
「や、やっと話は終わったか」
「ジュンは凄い人気ですね」
「なんで人気なのか分からない。いや、皆勘違いで俺の事をよく見てるんじゃないか?多分幸運値も影響している」
「きっとうさぎ族を助けたからですよ」
ジュンは分かっていない。
自分が凄い事をしている事に。
王も、女神であってもうさぎ族を救うことは出来なかった。
うさぎ族の女性がジュンを取り囲む。
うさぎ族の性欲は全種族中最強だ。
モテたらこうなる。
これからジュンは、夜大変な……。
「フィル、顔が赤い。大丈夫か?」
「ふぁ!だ、大丈夫です!それでは失礼しました」
私は赤くなった顔を隠すようにジュンの家を出て自分の家に帰る。
胸がどきどきと高鳴る。
「どうして、ドキドキしてるの?」
ジュンはモテる。
そうだろうなと思った。
心がもやもやする。
私はジュンの事が気になっている?
私も一緒にジュンの眷属になりたいと思っている?
私は恥ずかしくなり声を上げながらベッドにもぐりこんだ。
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