第28話 五日目 帰り道

警察の取り調べは長く

同じような質問の繰り返しで

後半はなんだが自分が犯人のような気すらしてきた。

だが

そんなことはひとつも言ってないし

そんな扱いもあったわけではない。

刷り込みというのはなかなか恐ろしい。

警察官というフィルター一枚で印象がこんなにも変わってしまうのだ。

それにきっと

「警察の人・・・あの人もわからなかっただろうな・・・きっと・・・」

同じ質問に同じ答え。

窓の向こうで一人おばさんが頭を

いや顔面を全力でぶつける・・・・

血が出ていようがお構いなしに「ドン!!」

という鈍く響く音で

しまいには「ドチャ!!」と

血だまりの血をまき散らしながらそれでもやめないで

ずっとそれを繰り返す・・・

正常な人間ならやめる

やめないにしても痛みで続けることができないだろう

それに最後は・・・・

笑っていた・・・

なにが可笑しいのか?

なにについて笑いがでたのか?

なに一つ理解がおよばない。

話している人間がこの調子だ

聞いている人間はもっとわからないだろ。

そんなこんなで帰れたのは夕暮れだった。

その時

「また状況を聞くと思いますので、よろしくお願いします」

と言われた

しかし

これ以上話すことはないし

日にちを置いたところででてくる言葉が変わるわけではない。

たぶん今日の話をまたするぐらい。

変わるとしたら日がたった分細かいところがあやふやになるくらいだろう。

でも

「変わらないかも・・・な・・・」

日によるのだろうが

きっと変わらない

目に焼き付き

頭に流れているこの映像は

もうすでに何度も短期記憶を往復して

長期記憶に移行している。

それは俺にとってひとつも

「うれしくないな・・・」

今回のことだけではない

ここ最近

“あの”部屋を訪れた時からおきたさまざまなこと・・・

テレビに・・・

夢に・・・

藤井さんに・・・

あの男性・・・

それにあのおばさん・・・

いまほんのすこし考えただけで

記憶の中からあっさりと取り出せる

「ああー」

言葉尻をさげて嘆くように言葉をはいた

こんな時に不謹慎かもしれないが・・・

「この記憶力をもっと違うことに使いたかった・・・」

つい言葉にでてしまった

だってこんなのは

ただの

「トラウマだ・・・」

この先もこの記憶をぶら下げて生きるのかとおもうと

なんか心が重い・・・

「仕事考えないといけないかな・・・・」

また同じ思いをするかもしれない。

またなにかわからないそんなことが起きるかもしれない。

理解がおよばないそんなことがまた・・・

「ダメだな・・・もう・・・」

今日のことでかなり心理的にダメージを受けた。

きっとこんな理由で仕事を辞めるなんていったら

笑われるだろうな・・・

なんというか自信がなくなっていた

俺の人生でこんなことがあるなんて予想すらしてなかった

だって生きてきてここまで心霊やオカルト

その類のものがこの身に起きたことはない。

もちろん興味がなかったわけではない。

それなりに地元の友達と肝試しをしたり

そういって怪談話をきいたり

ホラー映画をみたり

好奇心を程よく満たし

遠く離れた安全地帯でのスリリングを楽しめていた。

それに噂では子供のころにそういった経験がないと

大人になってもないって

そんな話も聞いたことがあった。

だから仕事でもその場にあるリアルだけをみて仕事ができたし

自分には関係のない世界の話だと思っていた・・・

でもどうだろう?

今の現状は??

関係のないと高をくくり

自分には関係のない世界だと信じてやまなかったことが

今目の前で起きた。

いや、起きてるように感じている・・・

確信的な言葉を使わないのは

そのことをまだ信じたくない自分の本当に最後の抵抗にも感じる。

自分はまだ安全地帯にいると信じたいそんな自分の表れだ。

むなしいくらいにはかない抵抗。

自分は正常でありたいと願う心。

これは決して幽霊がみえるという人が異常だといいたいわけではない。

そのひとにとってそれが日常で現実ならそれはまったく問題がないし

人の思想や概念を捻じ曲げるほど俺はえらくもないし

自信のある人生を送ってはない。

ここでいう正常とは自分にとって普通だったことが・・・

自分が常日頃おこなっていた日常が・・・

突然変わりそれをどうしていいかわからずに悩み

おきている事象をとらえることができない

そんな自分自身のふがいなさ・・・

そんな自分の異常を言っているのである。

「・・・って俺は何にこんな弁明じみたことを思っているのだろうか?」

自分の頭の中のもう一人の自分に問いかけた

「本当に・・・おれ・・・」

こんなことを帰り道にあれこれ考えている時点できっともう・・・

「やばいやつなんだろうな・・・おれ・・・」

自分を弁護するような考えが浮かばない

どこまでもマイナス。

そしてさらに言うと

「なんか長いな・・・帰り道・・・」

これについては完全な気のせい

だっていつもと同じ帰り道なんだから

距離が縮んだり伸びたりするわけがない。

地球だって動いてるから可能性はゼロではない

しかし

この短時間にそんなことがあったらそれこそ

世界規模の異常として

もっとたくさんの人が騒ぐだろう。

つまりはだ。

今俺は考え込んでいる

それがまるで永遠に頭をめぐるから

こんなに長く感じてるのだ・・・

「もう・・・なんというか・・・」

独り言が止まらない。

完全に一連の出来事にとらわれている。

きりがないほど考えて

きりがないほど思い

きりがないほどぼやいた。

帰り道・・・

遠いのは自分の家までの距離ではなく

現実とこの感覚の差だと感じた。

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