《Imaginaire Candrillon》【イマジネイフ・サンドリヨン】〜ゲーム世界で本気の闘いを〜
六海刻羽
第1話《Imaginaire Candrillon》
Side
かつては空想の産物、漫画やアニメの設定の上でしか存在することのなかったゲームジャンル・VRMMO。
SFの世界でしか叶わなかったそのジャンルはしかし、人間の意地と誇りによって築き上げた電気文明のおかげで実現することとなりました。
ヘッドギア型の専用ハードに五感を預け電脳世界に旅立つ完全ダイブ型VRの発売は多くのゲームファンの心に期待の種火を落とすこととなります。
しかし、その小さな炎が燃え上がることがありませんでした。
世に出たいくつかのVRMMOは、簡単に言うとクオリティが低かったのです。
リアリティに乏しく、行動パターンは制限され、冒険する世界は現実の劣化でしかない不自由な盤上。
おまけに意識を電脳世界に持っていくという未知の行動は、プレイヤーの脳に多大な影響を与えました。
『VRパニック』と呼ばれた名前に何の捻りもない社会現象。
プレイヤーによる集団脳痛傷をきっかけとし、ダイブ型VRMMOというジャンルは夢の文化として終わりを告げるものだと、当時は誰もが思いました。
《Imaginaire Candrillon》【イマジネイフ・サンドリヨン】
直訳すれば【空想上のシンデレラ】
気付けば発売されていた完全ダイブ型VRMMOのタイトルです。
もはや風前の灯火であったダイブ型VRゲームの発売に、店頭でその存在を知った多くの者が『まーだこんなの売ってんのかよ』と、知りもしない製作会社を鼻で笑ったことでしょう。
ですが、『そのバカに付き合おうじゃねぇか』と。
恐れを知らない廃ゲーマー……こほん、勇者たちによって購入されたそのゲームは――まさに空想を実現させたと言い切るに相応しいクオリティを誇っていました。
五感の再現、プレイヤーの安全保障、全世界共通単一サーバー、まるで心があるかのようなNPC。
電脳世界を現実へと昇華させた無数の技術。
その上で、現実とは決して非なるゲーム要素。
かつて多くの者たちが夢見た機能の全てを【イマジネイフ・サンドリヨン】は有してました。
発売から一週間。
恐れ知らずのゲーマーたちによってプレイされたそのソフトは口コミによって全世界へと知れ渡り、話題の匂いを嗅ぎつけたメディアがメーカーへの独占インタビューを勝ち取ります。
そこで製作リーダーであるエルミア・アリーク氏は語りました。
「私は星へと手を伸ばし続けただけです」
「人類の歴史はいつだって不可能だと言われた空想に挑むことから始まりました」
「不治と言われた病を不治でなくしようと努力する誰かがいた」
「土くれの大地に街を作ろうと言った誰かがいた」
「いつだって、ありえないと笑われた妄想にそんなことはないと言い続ける誰かが世界を回してきました」
「そんな存在に私はなりたかった」
「そして作ったのが《Imaginaire Candrillon》です」
私もそのインタビューをネットで見ていました。
世界の常識をひっくり返す覇業を為したというのに、彼の表情はそれこそ新しいおもちゃを自慢する子どものように輝いていて――そのことが純粋にすごいと思いました。
魂の熱さ、とでも言いましょうか。
オカルトや非現実な現象にドライな私でも、彼の言葉で心の奥底で何かがじわりと広がった感触がありました。
そう感じたのは私だけではなかったのでしょう。
インタビュー放送の翌日、多くの人たちが《Imaginaire Candrillon》を求めてゲームショップへと足を運びました。
発売から半年が経ち、いまの総プレイ人口は四千万人。
その数はいまも指数関数的に伸びています。
***
《Imaginaire Candrillon》の発売が決まったのは私が高校三年生。
部活を引退して大学受験への勉強に意気込んでいたときです。
元々ゲーム好きだった私はそりゃもちろん絶望しましたよ。
MMORPGという分野ははやく始めればそれだけ他プレイヤーに差をつけることができます。
いくらプレイングに自信があってもレベルの差というものは覆し難いものがありますからね。
そこそこの廃ゲーマーを自称する流石の私でも受験期にMMORPGを始めるわけにはいきません。
でも、エルミア氏のインタビューを見て火のついてしまった私の心も止まりません。
よって私は受験にもゲームにもある程度の線引きをすることにしました。
学校の成績はそこそこだったので指定校推薦でまあまあの私立大学に合格――これは10月のこと。
そこからはバイト尽くしの毎日です。
理由は一人暮らしと《Imaginaire Candrillon》のハードとソフトの購入資金の調達。
大学入学を機に一人暮らしを始めて、誰にも邪魔されずにゲームに没頭する環境を作ったわけです。
さて、その準備が終わったのは昨日のこと。
既に都内のアパートに引っ越しは完了、机の上にはヘルメット型のハードと昔馴染みのプラスチック容器に収められたゲームディスク。
我ながらゲーム一つに熱を入れ過ぎだとは思いますが、今更言っても仕方ありません。
「はじめましょうか」
誰に言うわけでもなく宣言してヘッドギアを装着します。
手探りで耳元にあるスタートボタンを押して――。
視界が。
白く。
染まりました。
『魔法の時間へようこそ。《Imaginaire Candrillon》は貴方の来望を歓迎します』
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