第17話 えぇえええええええええ!?

「直隆! フェスタに出るわよ」


 エイルと直隆がギルドホームへ帰ってしばらくすると、エイルが自室からリビングに飛びこんできてまくしたてる。


「見てこれ直隆、久しぶりのフェスタ開幕よ! あ、フェスタって言うのはようするにオーディン様主催の大規模ヴァルバト大会ね。何百何千ていうギルドが参加していろんな競技で競い合って一番のギルドを決めるの! いやぁ、正直あんたをコロッセオに出してもあたし実績ゼロじゃない? 同期の連中に追い付くのに何カ月かかるかなぁって思ってたんだけど、これに勝てば一気にあたしも兵長から軍曹になれちゃうわ♪」


「ふーん、そうなのか」


 着物姿で玄関に向かう直隆。

 エイルはきょとんとする。


「あれ? あんたどっか行くの?」

「どこって、家に帰るんだよ。俺の役目はもう終わりだろ? じゃ、新しいベルセルク探し頑張れよぶるがぁ!」


 エイルの華麗な飛びヒザ蹴りが直隆の後頭部に直撃した。


「あんたこの流れでよくそんな事が言えるわね! ここはあたしと一緒に優勝目指すシーンでしょが!」

「そんなシーン知らねぇよ……」


 頭を押さえる直隆に、エイルは柳眉を逆立て喚き散らす。


「だいいちあんたはあたしの奴隷でペットでしょ! あんたはもうあたしのベルセルクなの! 決定なの! だから帰るなんて許さないんだから!」


 腕にしがみついてくるエイルを、直隆は腕ごと振り回す。


「勝手なことばっか言ってんじゃねぇよ!」

「あたしの裸見たでしょ! 見物料として一〇〇億万年ベルセルクするのが当然の義務よ! それが宇宙の法則よ!」

「どんなぼったくりだ! ていうか昨日のはお前が勝手に言ってるだけで俺は了承してない! 俺が手を貸すのは今日の決闘だけ! あとは知らん! はい決定はい終わり! じゃあなエイル!」

「きゃん!」


 無理矢理腕をふりほどいて、直隆はギルドホームから出て行ってしまう。


「ま、待ちなさいよ直隆!」


   ◆


「ねぇちょっと待ってよ直隆、フェスタよフェスタ。あたしが兵長から抜け出す最大のチャンスなのよ」


 ヴァルハラ城下町の商店街を歩きながら、なおもエイルは直隆の横を並び食い下がる。


「知らねぇよ、ていうか兵長ってなんだよ、今の階級だっけか?」


「あれ? あんた知らなかったの? えっとね、世界中には日本神話やインド神話、ギリシャ神話やローマ神話、ケルト神話、北欧神話なんかがあって、これはそれぞれが国だと持ってくれればいいわ。っで、あたし達北欧神話は軍事国家で神話界の警備隊。世界に危機が訪れた時の為に英霊をヴァルハラに集めているのがその証拠よ。それで軍事国家だからアジアの天女、中東や西洋の天使に当たるあたし達ヴァルキリーは戦乙女の名前の通り、全員軍属で階級があるの」


「それがさっき言ってた兵長とか軍曹なのか?」


 直隆は立ち止り、エイルと向き合って話に耳を傾ける。


「そうよ直隆」


 エイルも立ち止まって、ちょっと年上のお姉さんみたいな口調で説明してくる。


「ヴァルキリーはアカデミー時代は二等兵や一等兵、上等兵なの。卒業したら自動的に兵長になれるんだけど、そこからは各業種別の功績で出世するわ。神様達はみんな少将以上でヴァルキリー長のブリュンヒルデ様は例外的に少将よ。それであたしの同期達はみんな伍長か軍曹に出世したのにあたしだけまだ兵長なの」


「実績ゼロだもんなぁ」

「ベベ、ベルセルクがいなかったんだからしょうがないじゃない! ギルドマスター職のあたしはベルセルクがコロッセオやイベントで勝たないと出世できないんだから! なのにあんたは」


「ん、待てよ、おいエイル」


 直隆はある事に気づいてエイルを見下ろす。


「フェスタって色々な競技で争うんだよな?」

「? ええそうよ」


「百歩譲って俺がお前のギルドに正式加盟したとしてどうにかなるものなのか? 団体戦とかあるんじゃないのか?」


「だからフェスタまでに集めるのよ! フェスタは二週間後だけど、フェスタ期間中もメンバーは探すわ。ようは団体戦の種目までに間に合えばいいんだし」


 えっへん、と何故か自慢げに語るエイル。


「ふーん、そっか、って、あいつフリーじゃね?」


 直隆が指差した方向をエイルが向いて、


「え? だれ?」


 直隆は脱兎の如く逃げ出した。


 幸い今の住処は割れていない、このヴァルハラに来て割り当てられた自宅に戻れば直隆の勝ちである。


 もうエイルと会う事もないだろう。


 背後からはエイルの声が聞こえるが知らぬ存ぜぬ、直隆は走り続けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る