第15話 姉川の戦いの頂上決戦
「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼」
一五七〇年姉川の戦い。
織田徳川連合VS朝倉浅井連合が衝突。
そんな中、朝倉家最強の猛将、真柄直隆は戦場を一気に駆け抜ける。
敵は屈強で知られる戦国時代有数のぶへんもの集団三河武士団。
あまたの軍を破って来た豪軍は、直隆の太郎太刀で一気に斬り崩される。
歩兵など敵うべくもなく、一振り一振りで三、四人の首や銅が飛ぶ。
太郎太刀の一振りで弾丸弓矢を弾き飛ばし、姉川を血川に変え、草木を両断し岩を割り、大地を抉り、人体を鎧ごと空気のように断ち斬り直隆の猛進は止まらない。
強過ぎて誰も止められない。
最強過ぎて誰も止められない。
天下無双過ぎて誰も止められない。
身の丈ほどもある大刀を小刀のように振り回し、戦のたびごとに敵地へ斬り込み血の海と死体の山を築き上げ悠々と帰る闘神。それが真柄直隆だ。
銃兵も弓兵も槍兵も騎馬兵も武将も関係無い。
全てを無視して真っ直ぐ徳川本陣、徳川家康を目指し直進する直隆の前に忠勝が立ちはだかる。
「我こそは本多平八郎忠勝! お相手頂く!」
音に聞こえた鹿角脇立兜を見て、直隆のあとを追って来た朝倉兵が全員悲鳴をあげて逃げる。
長身かつ目立つ兜をかぶる忠勝の姿は遠くからでも見える。
忠勝出陣に朝倉兵達は皆逃げ腰だ。
朝倉家に限ったことではない、今までも、そしてこれからも、忠勝は遠目にその兜を見ただけで誰もが逃げる事で名を馳せる英傑だ。
忠勝のただならぬ闘気の重圧に、直隆は絶句する。
こんな奴がいたのか。
忠勝の全身に充溢する熱に直隆は言葉を失い何も言えない…………嬉し過ぎてだ。
直隆の全身の毛が歓喜で逆立つ。
顔をから笑みが吹きこぼれる。
昔からずっと退屈だった。
誰も自分に敵わない、てこずらせてもくれない。
いつだって強者を求めて、危機を求めて敵軍へ斬り込み、そして欠伸とともに戦が終わる。
欠伸を噛み殺してきた人生。
他者の追随を許さぬ絶対強者故の悩み。
だが解る。
でも解る。
しかし解る。
目の前の敵、あの全国に名を轟かせる本多忠勝。
こいつは俺側の人間だ。
「やろうぜ本多忠勝‼ 俺は朝倉家最強真柄直隆‼ 生涯無敗の男だ‼」
姉側の戦いにおける伝説。
本多忠勝と真柄直隆の一騎打ち。
徳川家最強本多忠勝が名槍蜻蛉切を唸らせ直隆を滅ぼしにかかる。
朝倉家最強真柄直隆が大刀太郎太刀を猛らせ忠勝を殺しにかかる。
「「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼‼‼」」
何千何万、否、無限の剛撃俊撃超撃が織りなす一〇〇進一〇〇退の攻防はまさしく百花繚乱の狂い咲き。
人智を超えた古今無双の光景に、誰もが息も忘れて見守った。
一撃一撃が一〇〇の命を狩り取る必殺の一撃。
だが忠勝も直隆もまったくの無傷。
互角だった。完全に互角だった。
力も、速さも、技も、闘志も、経験も、そして天賦も、全てが互角。
誰もが悟った。
ここが世界の頂点。
これが最強を決める王座決定戦だと。
互いに消耗し尽くし、もう決着の刻限は近い。でもその時、唯一二人の戦いに割りこんだ影がいた。
「忠勝、至急戻られよ」
「半蔵か」
忠勝の背後に立つ一人の忍び、徳川忍者隊首領服部半蔵だ。
半蔵は感情を感じさせない、重たい声で語る。
「直隆、貴様も本陣に戻ったほうが良い」
「はぁ!? てめぇ勝負の邪魔してんじゃ」
「兄上!」
戦いを見守る兵達の中から直隆の弟、直澄が声を上げる。
「伝令の話では本陣に徳川軍接近、すぐ戻るようにとのことです!」
「っ、ちっ!」
忠勝も直隆も互いに本多家、真柄家の当主であり、主君を持つ立場にある。
「忠勝、勝負は預けた!」
「ああ、次、あいまみえる時は決着をつけようぞ!」
二人は互いに背を向け別れる。
だが二人の夢は敵わない。
直隆は消耗し過ぎていたのだ。
ようやく巡り合えた宿敵、ここから直隆の人生、伝説は始まるはずだったのだ。
なのに運命は残酷で、徳川方の向坂三兄弟が消耗しきった直隆を発見。
直隆は血を吐きながら呟く。
「……なんだよこれ」
三兄弟は三方向から槍で同時に直隆を突いた。
武勇に優れ、かつ連携が最大の武器だった三兄弟。
かたや戦国最強の男と満身の力で戦い消耗し尽くした直隆。
直隆は静かに自身の余命を悟り、事業気味に笑って叫ぶ。
「ははははははっ‼ 今世はこれまで! 先にあの世で待ってるぜ忠勝! てめぇとの決着はあの世でつける‼」
自身を刺し貫く三人を見回す。
「てめぇら‼ 俺の首を取って男子の本懐にしな‼」
一五七〇年、真柄直隆没。
これが、戦国最強の一人に数えられる英傑の最期だった。
忠勝と直隆に差があるとすれば、天運だったのかもしれない。
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