第13話 戦国最強の大刀使い


 なのに、


「しかし貴様も大変だな、あんな女のベルセルクにされた挙句にいきなりこのドイツの英雄鉄腕ゲッツ様と戦うハメになったのだから」


 ――んーっと、まず盾を両断してそれから……


「それにしても、ヴァルキリーのくせに体はおろか唇も許さなければ手を握ることも躊躇う高飛車女のベルセルクなんかにお前もよくなったな」


「? ずいぶん詳しいなお前?」


 ゲッツの口ぶりが、まるでエイルを知っているように聞こえた。

 ゲッツは剣を振り続けながら、


「当たり前だ。オレは前にあの女に勧誘されている」


 直隆の視界の隅で、エイルがびくりと体を震わせた。


「当時、オレはちょうど前のヴァルキリーに飽きてフリーだったが、エイルはイイ胸をしていたからな。ちょうどいいと承諾して体を要求したらいきなり槍を振り回しおったわ」


 直隆の奥歯に力が入る。


「そもそもヴァルキリーは時代が時代ならば英雄の慰み者として存在する娼婦同然の存在。誓約の口付けも本来は誓約の床入りで一夜の契りを結んでいた。時代が下るにつれて口付けに変わったが、それでも結局は多くのヴァルキリーは英霊と体を重ねるというのに……」


 ゲッツの顔が、嗜虐の色を含み始めた。


「知っているか? 人間を見下しお高くとまった高慢女は足蹴にして犯すと具合がいいんだ。おいエイル!」


 戦いの最中に、ゲッツは叫ぶ。


「貴様が股を広げて懇願するならオレ様がお前のギルドに電撃加入してやってもいいぞ! なんてなぁ! ハーッハッハッハッ!」


 エイルが身震いして青ざめる。

 いつもの勝気さがなく、目に恐怖を映すエイル。

 直隆の両目が重く、静かにゲッツを見据える。


「おいてめぇ」

「む?」


 芝生に半円状のものが二つ落ちた。

 それはゲッツの盾であり、すぐ近くには血を噴き出すガントレットが落ちていた。


「あ……え?」


 ゲッツは本能的に自身の左肩へ目を廻す。


 肩から先を失い、甲冑からはおびただしい量の血が噴き出している。


 ゲッツの悲鳴が芝生を吞みこむ。


 野次馬も、エイルも、相手のヴァルキリー達も状況が理解できず呆然としている。


 一瞬の閃きがゲッツの肉体を通り抜ける。


 剣ごと右腕が、鎧ごと胴が、首が骨ごとぼろりと落ちて、ゲッツは糸の切れた人形のようにして芝生に倒れ込んだ。


 上半身を失った下半身が、みじめに痙攣している。


 血まみれの大刀を豪快に一振りして汚れを飛ばす。


 白銀の輝きを取り戻した自身の得物を右手一本でヴァルキリー達に突きつけた。


「っで?」


 悪鬼の眼光が、五人のヴァルキリー達を射ぬいた。


「これで終わりか?」


『ひぃっ!』


 スイレー以外の四人がスイレーに抱きついて腰を震わせた。

 仲間であるエイルも声を震わせながら、


「あ、あんた……いったい、ゲッツは確かBランクの強豪で……」

「あん? 昨日ちゃんと言っただろが」


 ギルドマスターであるエイルへ振り返り、ぶっきらぼうに答える。


「戦国最強真柄(まがら)十郎(じゅうろう)左衛門(ざえもん)直隆(なおたか)。一対一(タイマン)勝負じゃ生涯無敗の男だ」


 今現在、この広場にいる八七人のヴァルキリー全員が戦慄した瞬間だった。

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