第17話 買い物

思いがけずコロネさんを雇うことになったけど、まだ買い物は途中なのでギルドを出て今度は家具屋に向かうことにする。


「何を買われるのですか?」

シトリーに聞かれる。


「あそこの屋敷にはこの子達が使うものを除くと1人分しか家具は買ってなかったからね。コロネさんも住み込むことになるし、余分にあった方がいいことがわかったから3部屋分は揃えようかなって思ってるよ。シトリーも自分が使うものだから遠慮せずに欲しいものを選んでいいからね」

コロネさんはいないから仕方ない。

後でこだわりがあれば買い直せばいいや。

買った物は他の部屋で使えばいいしね。


「マオ様、私の部屋にはもう家具が揃ってましたよ?」

シトリーが昨日使った部屋を思い出して言う。


「ああ、あの部屋は僕の部屋だからね。他の部屋にはまだ家具がないから、昨日はとりあえず僕の部屋で寝てもらったんだよ」


「……もしかしてマオ様のベッドを私が占領してしまったのでは?」

シトリーが恐る恐る聞いてくる。


「僕はみんなと寝たから何も問題なかったよ。だから気にしなくていいよ」

実際に僕は昨日の睡眠には満足している。


「ごめんなさい。私は屋根があるだけで十分なのでそこまでしてもらわなくても大丈夫です」


「そういうことを言うと思ったから昨日は何も言わずにあの部屋を貸したんだよ。昨日のことは忘れて選んでくれればいいから」

女の子を床で寝させて自分がベッドで寝るのはどうかと思ったし、一緒にベッドで寝るわけにもいかないから何も言わずにあの部屋を貸しただけだ。


「……わかりました」

わかってないみたいだけど、これから行くのは昨日色々と家具を揃えた所だからいいや。


しばらく歩いて目的の家具屋へと到着する。


「これはこれはマオ様。昨日はお買い上げありがとうございました。本日は何をお探しでしょうか?」

昨日も対応してくれた店主に声を掛けられる。


「昨日届けてもらった屋敷に人が2人住むことになったから、急な来客用も合わせて3部屋分家具を揃えて欲しい。1人はこの子だから、昨日と同じような部屋に合う家具で気にいるやつを一緒に探して欲しい」


「かしこまりました。ご予算は……?」


「昨日と同じでいいよ。そのかわり、この子が遠慮しているようだったら、本当に気にいるものを見つけてあげて」


「かしこまりました。残りの2部屋分はどうしましょうか?」


「来客用のは昨日と同じような感じで、ベッドだけ普通のサイズにしておいて。もう一部屋は20歳くらいの女性が使うから、店主がいいと思うものを選んでくれればいいよ」

僕には女性が好む家具がわからないので店主のセンスに任せることにする。

それから、僕の部屋のベッドはみんなで寝れるように、この家具屋にあった一番大きいものを選んだので、そこだけ普通にしてもらった同じ部屋を作ってもらうことにする。


「ありがとうございます。すぐに準備致します。――――皆さん、聞こえてましたね。休んでいる時間はありませんよ」

店主が店員に号令を掛けて家具を選び始める。


「私はこの辺りの家具がいいです」

シトリーが欲しいと言ったところは安い家具が並んでいるコーナーだ。


「お客様、あの屋敷にこれらの家具は合いません。こちらに置いてあるものはいかがですか?」

店主が勧めたのはこの家具屋にある最高級品というわけではなかった。

ちゃんとシトリーが使うということを考慮してくれているようなので任せておいて問題ないだろう。


「マオ様、昨日お買い上げ頂いた物と同様の物を準備致しました。ベッドはこちらがよろしいかと思います」

店主とは別の店員に呼ばれて確認する。


「大丈夫だよ。それからベッドはもう一つ買うよ」

来客が複数かもしれないし、とりあえずベッドがあれば寝ることは出来るだろう。


その後、コロネさん用に選んでもらったものも良さそうだったので購入して、シトリーも店主の圧におされて欲しいものを選んだ。


「ありがとうございました。商品は指定の時間に届けます」

収納には入りきらないので、後で届けてもらう。

昨日も届けてもらっているので、場所は伝わっている。


「マオ様、お高いものを買って頂きありがとうございます」

シトリーにお礼を言われる。


「住み込みで働いてもらうって契約だからね。僕はちゃんと寝れるようにしただけだから。次は雑貨を揃えるよ。厨房で使う物はシトリーが選んでね。僕は料理に何を使うのかあまりわかってないから」


「任せて下さい」


雑貨屋では紙やペンなどの小物から調理道具や掃除用品、風呂場で使う物等を購入する。


「マオ様、これで買い物は終わりですか?」


「そうだね。最後に食材だけ買いに行こうか。肉と魚多めで、後はシトリーが作れる料理に必要な物を揃えてもらえる?」


「はい」


僕達は食品を中心に売っている市場へと向かう。


「どうかした?」

市場に向かっているのだけれど、シトリーの足取りが重いので何か心配事でもあるのかと思い、聞くことにする。


「実は向かっている市場に前働いていたお店で魚を仕入れをしていたところがありまして……、私が魔族だとわかった瞬間から態度が変わったんです。だから行きたくないなと思ってしまったんです。でもあそこが1番質が高いので気にしないで下さい」

うーん、これからも買い物には行ってもらうのだから、そこの店を使うことにすると毎回シトリーが嫌な思いをして買うことになるのか。

でもユメには良いものを食べて欲しいからなぁ。


「とりあえず行ってみようか。どんな感じなのかわからないと僕にはなんとも言えないよ」


「私は大丈夫なので気にしないで下さい」


件の店に着いたので、シトリーに一人で買いに行ってもらう。

一人で買いに行ったらどうなるのかを確認するためだ。


「いらっしゃい……チっ、魔族のシトリーか。客が逃げるから買うなら早くしてくれ」

売りはするみたいだけど、最悪だな。


「これと、これを……「シトリー、買わなくていいよ」」

僕は俯きながら買おうとするシトリーを止める。


こんな思いをさせてまで買わせる必要はない。


「マオ様、でも……」


「ここまでとは思ってなかったよ。ごめん。他の店に行こう」


「でもユメちゃんのご飯が……」


「ユメはこのくらいで怒ったりしないよ。ユメ、良い質のお魚を食べるにはシトリーが嫌な思いをしないといけないんだって。それなら少し質が落ちてもいいよね?」

僕はユメに聞く。


「ご主人様がその娘が嫌な思いをするのを嫌うにゃら、ユメは我慢するにゃ。ご主人様を悲しませてもらったご飯は美味しくないにゃ」


「ありがとう、ユメは優しいね」

僕はユメを撫でてお礼をいう。


「ユメもこの店で買うのは反対みたいだよ」


「マオ様はユメちゃんの言葉がわかるんですか?」


「気持ちがなんとなくわかるんだよ」

今は誤魔化しておこう。


「何をごちゃごちゃ言ってやがる。買うなら早くしろ!買わないなら消えろ!」


「外見で対応を変えるこんな店では買いません!」

僕は店主に言い放ち、店から離れて違う魚を置いている店に行く。


「この店の質が悪いわけではありませんが、やっぱりさっきのところよりは質が落ちます」

シトリーが俯いて言う。


「質がっていうのは、鮮度が落ちてるってこと?」

僕はシトリーに聞く。


「お魚の場合はそうです。この街は海から離れてますので、どうしても運搬している間に鮮度が落ちてしまいます。鮮度を落とさないように運搬するには、お金と労力が掛かりますので、お店は値段と質どちらを優先するか、どこまでは下げれるかバランスを見ているんです。こちらの店の方が質が落ちると言いましたが、お客さんは見ての通りこちらの方が多いです。以前も、料理によってこちらのお店でも仕入れしていました」

確かにシトリーの言う通り、この店に客は入っている。

まあ、質が良ければどれだけ高くても売れると言うわけではないからなぁ。


「この店では邪険にされたりはしなかった?」


「されてないです。変わらず一人のお客さんとして対応してくれました」


「すみません。店主の方はいらっしゃいますか?」

僕は店頭に立っていた人に聞く。


「店主は俺だ。何の用だ?」


「魔族についてどう思いますか?」


「シトリーちゃんのことを聞いてるなら、贔屓にしてくれている店で働いていた人ってくらいの認識しかない。他の魔族のことは関わることがないから知らないな。それでそんなことを聞いてどうするんだ?」


「いえ、聞きたいことというか、相談がありまして、店主がシトリーのことをどう思っているのか先に聞きたかっただけです」

そうはいってもユメに良いものを食べて欲しい僕は店主に相談と交渉をすることにした。

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