第10話 収納

ギルマスに収納のことを教えてもらったので、生活スキルの3点セットを習得しに教会へと向かう。


教会に入るとシスターさんがいたので、僕は祝福を頼むことにする。


「すみません。生活スキルの祝福をしてもらいたいんですけど……」


「はい。……お子さんはどちらでしょうか?」

シスターさんが子供を探すように周りを見渡す。


ギルマスが言っていた通り、僕が祝福されるという選択肢がシスターさんには浮かばないくらいに、僕くらいの年齢の人が祝福を受けに来るのは異例のようだ。


「いえ、祝福して欲しいのは僕です。辺境の村で生まれ育って、最近この街にやってきたので、まだ祝福を受けていないんです」


「それはそれは、ご苦労なされたのですね。それではこちらへどうぞ」

僕はシスターさんに連れられて個室に入る。


「こちらを持ってしばらくの間、神に祈りを捧げてください。神のお言葉が聞こえましたら終了です」

シスターさんに小さな銀色の金属の板を渡される。


「わかりました。ありがとうございます」

僕は渡された物を握って目を瞑る。

祈りとかは分からないけど、スキルを下さいと願うことにする。


『収納・給水・着火のスキルが使えるようになりました』

『収納が許容量を超えています』

盗みのスキルを使ったときと同じ声が聞こえてきた。

これで終わりらしい。


無事使えるようになったのはいいけど、収納が既に許容量を超えているようだ。


収納を使う前からパンパンに何か入っている?

そういうものなのかな……?

神様からの贈り物とか?


「ステータスオープン」


マオ

レベル:1

天職:盗賊

スキル:盗む★★★・給水・着火・収納

称号:異世界人


今回はちゃんと表示も増えてる。

この3つのスキルにはレベルはないようだ。


「ありがとうございました。無事に生活スキルが使えるようになりました」

僕は部屋を出てシスターさんに金属の板を返してから教会を出る。


教会を出ると日も暮れてきていたので、僕は街から出ることにする。

路地裏では寝てはいけないと前に言われてしまったからだ。


僕は街から少し離れたところで野営する。


周りに人がおらずちょうどいいので、使えるようになったスキルを試してみることにする。


木の枝を集めて使えるようになったばかりの着火のスキルで火をつける。

着火のスキルは指先から小さい火が出るスキルだった。


指がライターになるスキルだ。

熱くないのが不思議だ。


給水のスキルでコップに水を注ぐ。

給水のスキルは指先から水がちょろちょろと出る。


飲んでみると、普通においしい水だった。


火を付けて水を出しただけなのに、体がだるくなった。

体の中の魔力とかスタミナとか、何かそういう類のものが消費されたようだ。


後は収納だけか……。


とりあえず目の前にある焚き火用の枝を収納に入れてみようとする。


……入らない。

枝が入る隙間がないことが感覚としてわかる。


許容量を超えていると言っていたし、まずは今入っている物を出して空きを作らないといけないようだ。


入っている物を出そうとすると、頭の中に倉庫のような家のイメージが浮かぶ。

そしてその家からゴミ屋敷のように物が溢れているイメージも浮かんでくる。


溢れている物のほとんどはいろんな色をした球で、家の周りは黒い霧で覆われている。


部屋の中に収まるようにしないと新たに物は入れられないということだろうか……。


他の人もこのスキルを使う為に掃除から始めているのかなぁ?


僕は頭の中で、確認しながら外に出すことにする。


ん……?


沢山の球の中に見たことのある木の棒を見つけた。

これは森で見つけたゴブリンが持っていた物だと思う。


僕は木の棒を取り出そうとする。


思っただけで僕の手の中に木の棒が現れた。

実際に見て、やっぱりあの時の木の棒に似ている気がする。


「シンク、この木の棒って前に森でゴブリンが持ってたやつかな?」

あの時一緒にいたシンクに聞いてみる。


「覚えてないワン。でもゴブリンの臭いはするワン」

ゴブリンの臭いがするということは、多分あの時の木の棒で合っていると思う。


他にも探すと覚えのある物が色々と出てきた。


もしかしたら盗んだ物は自動的に収納に入っていたってことかな……?


外に出した物は収納の中に戻せなくなってしまったので、一旦外に出すのは中止して、沢山ある色のついた球を取り出すことにする。


まずは一番多い黄色の球を一つ取り出す。

ピンポン球くらいの大きさのガラス玉のように見える。


なんだこれ?


「その球からエネルギーを感じるのじゃ」

僕が眺めていたらオボロが言った。


「オボロはこれが何かわかる?」


「妾にはわからないのじゃ」

エネルギーを秘めたよくわからない球か……。


どうしよう……。これを片付けないと収納が使えないな。

エネルギーを秘めていると言われるとその辺りに放置することも出来ないし……。


……明日ギルマスに相談しよう。

よく分からない魔物の素材もあるし、少なくても大物をどうにかしないと本来の許容量であろう家の中の物を確認することも出来ない。


翌日、冒険者ギルドに行く。

ギルマスは受付にはいないので、適当に並ぶことにする。

初日にギルマスが受付にいたのが異例だったのだろう。


「あ、マオさんは私のところに並んで下さい」

少し並んでいると、以前に対応してくれたお姉さんが僕に気づき、自分のところに並ぶように言われた。


何か用でもあるのかな……?と思い、言われた通り並ぶ列を変える。


しばらくして僕の番がやってきた。


「ギルマスよりマオさんの担当を私がするように言われました。まだ名乗っていませんでしたが、私はコロネです。ギルマスから辺境に住んでいたと言う話は聞いています。わからないことがあればなんでも聞いてください。それから私が不在の時は、ギルマスが対応することになっていますので、急ぎの用件の場合はギルマスを呼んで下さい」

コロネさんが僕の担当になったらしい。


ギルマスがこの世界の事を無知な僕に気を使ってくれたようだ。


「コロネさんですね。これからよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。今日はどういったご用件ですか?」


「ギルマスに相談したいことがありまして、ギルマスを呼んでもらえますか?」

なんでも聞いてくれていいと言われたばかりだけど、事情を知らない人に話さないほうがいいのではと思ったので、元々の予定通りギルマスを呼んでもらうことにする。


「ギルマスは只今他のお客様と会談中です。私でよろしければ相談に乗りますよ」


「……そうですね、お願いします。昨日教会で祝福をしてもらって収納のスキルが使えるようになったんです。ただ、収納のスキルに既に物が沢山入っていたんですけど、こういったことはよくある事なんですか?」

迷った結果、ひとまず収納の中身のことは伏せてコロネさんに相談することにする。


「珍しいですけど、ありえないことではないです。勘違いされている方もおられますが、スキルというのは元々ある才能が開花したものです。水魔法のスキルで例えると、水魔法の素質が高い方がレベルを上げたり、修行するとスキルとして使えるようになります。ただし、スキルとして使えるようになる前にも実は水魔法を使うことは出来ます。剣術のスキルがなくても剣を振ることが出来るのと同じで、正しい手順を踏めば誰でも魔法を発動することは可能です。ここまではいいですか?」

コロネさんが丁寧に説明してくれる。

それでも内容は難しいけど……


「なんとか……」


「そうですね……。ここに計算をしてくれる魔道具があります。これがスキルだと考えてください。この魔道具があっても使い方を知らなければ、実際に使うことは出来ませんよね?計算を頼まれたら紙に書いて地道に計算するしかありません。しかし、計算を繰り返して数字に対して理解が深まることで、この魔道具を使うことが出来るようになりました。これがスキルが使えるようになったということです」

コロネさんがさらにわかりやすく説明してくれる。


「なるほど。大体わかりました」


「それでは本題の収納について説明しますね。今度はこの箱が収納のスキルだとしましょう。この箱は元々マオさんのものでしたが、隠されていた為に認識することが出来ませんでした。昨日教会で祝福をしてもらい箱の在処を知り、箱を見つけたマオさんが箱を開けると、中には既に物が入っていました。マオさんの今の状況はこういう事だと思います」


「そうです」


「可能性としてはいくつか考えられますが、入っていたものに心当たりはありますか?」


「実は盗むというスキルが使えるんですが、魔物から盗んだ物が入ってました。よくわからないものも入ってましたが……」

僕は正直に話す。


「珍しいスキルが使えるんですね。そういうことであれば、盗んだ物が自動的に収納に仕舞われるようになっていたんでしょう。身に覚えのない物もあるということは、他の要因も考えられますが……。例えば、こうやって他の人がマオさんの収納を勝手に使ったりですね。他には洗脳されていた場合など可能性としてはいくらでも出てきますね」

コロネさんは箱の蓋を開け閉めしながら言った。

多分コロネさんの言う通り盗んだ物が入っていたのだろう。


「スッキリしました。ありがとうございます」

多分あの色のついた球も盗んだ物なのだろう。


「お力になれてよかったです」


「もう一つ教えて下さい。コロネさんはこれが何かわかりませんか?」

僕は黄色の球を見せる。


「スキル球ですね。マオさんは珍しい物を持ってるんですね」


スキル球……?

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