クラウディオ・ケラヴノス 二十二
ぐらぐらと揺れる視界の中、まだぎゃあぎゃあ喚きながらのたうちまわるエスピーアと、僕の苦しむ姿を見て狂喜乱舞するパトリツァ夫人の醜い姿が見える。実に
美貌と、遊び好きの男性からの人気しか誇れるものがなく、努力を
だからエリィが自分にベタ惚れして求婚してきたと思い込むことができたんだろうけど。
君が彼に
かわいそうな人だと思って色々なところを見ないようにしてきたけれども、本当は心の奥底で嫌悪し軽蔑してしまっていた。人を憎んだり蔑んだりしてはいけないのに。
この女は、僕を最初に
そのくせ空っぽの中身を努力で埋めようなんて考えない。だから安易に他者を
このままでは僕はまもなく死んでしまう。
治癒魔法を使うための代償がもう自分の生命しかない。これでは傷をふさいだり毒を分解できたとしても、生命そのものを失って死ぬしかない。
僕が死ぬこと自体はどうでもいいけど、僕が死んだらエリィが悲しむ。それだけは絶対に嫌だ。
なんだか急速に、今まで感じた事もない激しく熱い感情が込み上げてきた。たぶん、これは怒りと憎悪だ。
いつもいつもこいつらの欲しがるものは取るに足らないどうでも良いものばかりで、だから僕はいちいち意に介することなく適当に与えてきた。
一歳児よりも聞き分けなく、自分の思い通りになるまでぎゃあぎゃあ泣きわめく連中に付き合うのは
でも、こいつらはその取るに足らないどうでも良いものを手に入れるために、僕の大切な、たったひとつの、自分の生命よりも大切なものを、その価値もわからず壊そうとしている。絶対に赦さない。
どんな手を使ってでも報復し、己の罪を思い知らせてやる。
とにかくあらゆる手段を用いて生き延びる可能性を探らなければ。
そうだ、僕の身体だけでは治癒に使う代償が足りないならば、代償にこの女やそこの間男の臓器を使うのはどうだろう。
腎臓なら片方なくてもどうという事はないだろう。そうそう、あの女なら子宮と卵巣もいらないだろうね。
なにしろ無類の男好きで、侯爵夫人だというのに、そこの間男をはじめ、方々で引っかけた男どもと三日とあけずに連れ込み宿に入り浸っているくらいだ。
それだけでは飽き足らず、毎日のように孤児院で特別に「躾」を受けた子供たちに性的な奉仕をさせていた。
妊娠の心配がなくなれば、今まで以上に
なんだか思考がまとまらなくて、どんどん訳の分からない方向に暴走している。
奴らの臓器を代償にまた血液を作って毒を排出する。
毒物の危険性というのは、定性的すなわちその物質固有の性質によるものと、定量的すなわち血中濃度によるもの、両方の要因から起きるもの。充分に血中濃度が下がればあるいは今起きている身体の異常もなんとかおさまるかもしれない。
ダメだ、体内に入った毒の量が多すぎていくら出血しても充分に濃度が下がらない。
酸素が足りなくて脳がちゃんと動いてくれない。いったいどれだけの毒を塗ったんだか。僕は象じゃないんだぞ。
どうしよう。まだ生命が零れ落ちていくのが止められない。
肝臓もいっぱいいっぱいになりながら毒を分解している。新しく作った血液はまた毒を排出するために出血してしまった。
いったん身体から出してしまった血液は代償にしても能率があまり良くない。またあいつらの血液か臓器を代償にすべきか、もう思考に
意識を失うことだけは避けないと……心臓も肺もまともに動かないから脳に届く酸素が足りない。
ああダメだまだ死ねないせめてエリィに一目会ってからじゃないとまだ生命が零れていくのが止まらない
「ディディ!!」
ああエリィの声が聞こえる。
冷え切った僕の身体を抱きしめてくれて、ぬくもりがつたわってくる。
重いまぶたをなんとかして開くと大好きな澄んだ蒼い瞳に涙がいっぱいにたまっている。なんてことだ、君を泣かせてしまった。
いつも笑っていてほしいのに
「……えりぃ……ごめん……」
いつも一緒にいてくれてありがとう。
君がぼくのとなりで笑っていてくれれば他はなにもいらなかった。ぼく自身の命だって。
こんなに泣かせたいわけじゃない
おねがいだからなかないで
ああだめだ……もうぼくがぼくであることができない
しこうがほどけてきえていく
さんそがたりない
どんどんいのちがこぼれおちていく どうしてもとめられない
ごめんねエリィ
きみだけをあいしてる
いつまでもずっと
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