クラウディオ・ケラヴノス 二十一
あからさまな罠にあえてかかってやって、襲撃者を次々に気絶させると、残る襲撃者と……それからパトリツァ夫人があからさまな動揺を見せた。これでは自分が共犯者だと言っているようなものだが、それがわかるような人ならばこんな愚かな犯罪に加担などしないだろう。
さっさと終わらせたくて撤退を促したのだが、動揺を見せた二人とは対照的に一人が自棄になったように突っ込んできた。おそらくこいつが主犯だろう。
何の芸もないただ直線的に突っ込んでくるだけの攻撃。身構えるまでもなく避けようと思った瞬間、背後でギラギラとした悪意をまき散らしていたパトリツァ夫人が僕の腰にしがみつき、動きを封じてきた。
おかげで避け損ねたナイフが腹に刺さり、突っ込んできた男が醜く歪んだ愉悦の笑みを漏らす。
……ああ、こいつエスピーアか。
こいつは学生の頃から僕を目の敵にして何とかして貶めようと必死だった。エリィに騎士団で起きたことを暴露したのもこいつだったっけ。その後も何かと絡んで来ようとしたんだけど、エリィがその都度すぐに追い払ってくれた。
エリィの他の学友たちにもあることないこと告げ口していたみたいだけど……幸いなことに、そんな
僕をおとしめるどころか自分が呆れられて相手にされなくなって、学生時代はろくに人脈を築くことができなかったんだっけ。一体何がしたかったんだろう?
少なくともあちらから突っかかってくるまでは全く面識もなかったはずなんだけど。
わずか数秒の間に僕はこれらの回想とともに奴の脚を数か所
しがみつく夫人を振りほどいて脚を押さえてのたうちまわる賊を蹴り飛ばし、ナイフを抜いて傷口をふさぎ、手早く拘束しようとロープを取り出して……急に
呼吸も苦しいし、心臓の動きもおかしい。
……どうやら毒を塗られていたようだ。
焦りをおさえ、立てなくなる前に自分の身体の状態を把握するため微弱な魔力を全身に流す。どうやらナイフに
せっかく塞いだ傷口をもう一度開き、血流をコントロールしてできるだけ毒を体外に排出する。
……が毒の量が多く、かなり出血しても濃度が高いままだ。
がっくりと膝をつきながら、髪を
毒物による影響と言うのは、毒物の種類による定性的な問題も大きいが、何より血液の中の毒物の濃度、つまり定量的な問題が一番強く影響する。フグの毒のようにごく微量でも死に至るものもあるが、大抵のものは体外に排出すると同時に血液の量を増やして血中濃度を
とにかく汚染された血液を出せるだけ体外に出して、足りない分の血液を補ってやらなくては。
……まずい、出せるだけ汚染された血液を出したがまだ足りない。しかしこれ以上出血すると間違いなく失血死する。
誰かのけたたましい笑い声が聞こえてくる。目の前で
やかましい。頭に響くじゃないか。
ああもう、思考がまとまらない。このまま死ぬことだけは避けなければならないのに、どうすれば良いのか思い浮かばない。
とりあえず、
失われた臓器を、切断された四肢を、治してくれと請われて治癒魔法を使うたびに感じてきたあの独特の感覚。ごっそりと、僕の生命が僕から零れ落ちていく。
この生命が全て零れ落ちたら僕は死ぬ。このまま死ぬわけにはいかない。
僕が死んだらエリィが悲しむ。それだけは何とかして避けなければ。
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