クラウディオ・ケラヴノス 一

 二年前、エリィは旧友マシューの妹と政略結婚した。


 気心の知れたマシューと親戚になるのは喜ばしい事だが、彼の妹はいささか問題がある人物だった。何しろ十代前半から男性との噂が絶えない。いや噂ではなく、顔の良い男性に誘われるとすぐ肉体関係を持ってしまう事で、知らぬものはないというほど有名だったのだ。

 堕胎だたいも何度か行っていて、健康面に悪影響が出ないかマシューから相談を受けたものだ。僕は身体操作魔法を得意とするため一般の人よりは医学知識がある方だけど、医師ではないのでちょっと答え難いと返事をしておいた。


 そんなパトリツァ嬢は、コンタビリタ家と家格が合うような高位貴族からはまともに相手にされず、コンタビリタ家との繋がりが欲しいだけの下位貴族や裕福な平民との縁談は本人が鼻で笑って相手にしないと言う状況で、マシューもご両親も途方に暮れていた。


 そこで婚約者のいなかったエリィに頼んで家格に合った結婚という体裁ていさいを整えて、コンタビリタ家の面目を何とか保ったのだ。

 今は教会派と王室派の派閥争いが厳しくて、うかつに家名をけがすような縁談を結べば、王室派そのものが勢いを失いかねない。

 東西文化の十字路と言えば聞こえは良いが、地政学的に微妙な地域に存在する弱小国の一つである我がシュチパリアは、一歩間違って内乱に陥れば、諸大国の介入を招いて独立を失いかねない。それどころか、どこかに領土ごと飲み込まれ地図の上から永遠に消えてしまいかねないのだ。


 そんな事態を防ぐためだけに、エリィとパトリツァ夫人の婚姻は結ばれた。二人とも、互いに愛情など欠片かけらもない結婚だった。

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