異世界少女、放浪記。

げっと

プロローグ - 或る少女の独白

 私はあのとき、家族と一緒に伊蘭湖へ向かうフェリーに乗ってたんやんな。


 せっかくのお盆休みを贅沢に使っての家族旅行。とても楽しみにしとったんやけど…フェリーが突然大嵐に巻き込まれて、波が逆巻き海は大荒れ、フェリーもひどく揺られてまともに立ってられんくなって。


 天気予報も外れることあるとは思ってたけど、こんな外れ方は普通、せんやろな。しかもなんでこの日に、しかも台風とかと変わらんくらいの大きな嵐がやってくるんやろ。


 そんで、一際大きな波に船が跳ねて、私、その拍子に船から投げ出されてまったんや。そんときに窓を突き破ってったんか、たまたまひらけたとこやったんか、あるいはドアが壊れてもうてたんかはもう覚えとらんけど、とにかく気づいた時には五体が宙を舞ってて、右も左もよう分からんなって、ただただ先の真っ黒くなった海が、私を飲み込まんとだんだんと近づいて来てることだけを、きちんと認識出来てたんやんな。


 そん時、思ったよりも冷静に、ああ、私、死ぬんか。パパやママ、さくらちゃんとは会えくんなるな。おばあちゃんと会えるんかな。とか、考えてたっけ。


 海面を叩きつけたような音が、ごうごうと鳴り響く風の音や、耳に流れ込んでくる海の音にかき消されてったのと同じように、そっからの記憶が全くない。


 なんてことを今考えられてる、私は、助かったんやろか。それとも、ここはあの世なんやろか。そうと考えたんやけど、なんかけだるくなってまって、そのまままた、私は意識を沈めてった。

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