第818話 黄金に魅入られた者たち(15)
竜道寺達が神堕ち島の集落まであと少しまで近づいたところで、金鉱山で地質調査していた岩本警視正は、周囲の地層を観察しつつも、地質考古学チームの田辺教授の報告を舞っていた。
「岩本さん」
「何か分かりましたかな? 田辺教授」
「はい。ここは、金の宝庫と言って間違いないですな」
「ほう」
「まだ詳しく調査は必要ですが、金の含有量は、佐渡島の10倍です」
「それは多いのか?」
「多いなんてものではありません! 世界の金鉱山の1トンあたりの金含有量が3グラム~5グラムで言ったところを、ここの島の金の含有量は1トンあたり30グラムから100グラムに達します」
「ほう」
田辺教授の興奮した面持ちと対照的に、岩本警視正は近くで岩本達の様子を伺っていた菊池村長へと冷静に視線を向ける。
「(いやな空気だ。まるで、こちらを推しはかっているように見える。ここは何もせずに一度撤退し、山本組に任せた方がいいかも知れんな)」
そう心の中で結論づけたところで、
「菊池村長」
「何でしょう?」
「一度、村に戻りたいと思うのですが」
「分かりました」
「田辺教授、付き添いの方も一度、大学へと戻って詳しいデーターを取るための手続きをした方がいいと思います」
「――そ、それは……」
「いいですね?」
「分かりました」
目の前の玩具を取り上げられたような苛立ちを募らせた田辺は、それでも警察官僚に逆らう事が出来ずに頷くことしか出来ずにいた。
金鉱山を出た一行。
そして金鉱山を出たところで、「ザザッ」と、機械音が鳴り響く。
それは、田辺教授を始めとした大阪市立大学の学生や助教授にも聞こえるほどに大きいものであった。
「無線ですか?」
そう問いかけた田辺に、「まぁ、そうですね。桟橋で待機している県警から連絡が来たようです」と、答えた。
「なるほど。それでは、私たちは一度、桟橋の方へと戻ります」
田辺は、世界的な金鉱山の発見というニュースと、その功績、さらには今後の事を踏まえてすぐにでも行政と連絡を取りたいという思いから歩く足も軽やかであった。
そんな田辺教授と菊池村長。
さらには護衛のSAT隊員達の後ろ姿を見送った後、集落が一望できるほどに開けた崖上まで移動した岩本警視正は懐からトランシーバーを取り出す。
「俺だ。定時連絡時間までトランシーバーでの連絡は厳禁だと伝えたはずだ」
「も、申し訳ありません」
「謝罪はいい。それよりも、何かあったのか? 何もないようなら――」
「それが、若頭たちが戻って来ないんです」
「若頭が?」
「はい。――自分は若頭補佐をしている工藤と言いますが、本日――、明朝に何人か島民を攫ってきて尋問しようとしたところ、確保に向かった若頭を筆頭とした組員が10人ほど戻ってきてないんです」
「どういうことだ? 拳銃は携帯していたんだろうな?」
「それは間違いありません」
「ふむ……」
一瞬、思考したあと岩本は口を開く。
「そこから桟橋までは、どのくらい時間がかかる?」
「桟橋と言いますと、高松海上保安部の船が停泊している場所ですか?」
「ああ。そこに向かっている連中を皆殺しにしろ」
「え? 若頭は?」
「それは後で探せばいい。それよりも我々の計画の邪魔になる連中の排除が最優先だ」
そこでトランシーバーでの通話を切る岩本。
「世界一の含有量を誇る金は、俺にこそふさわしい。まずは秘密を知っている連中の処分が最優先だ」
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