第737話 身嗜み(2)
千葉県警察本部に到着したあとは、庁内の内閣府直轄特殊遊撃隊の部屋に向かう。
入室すれば、「おはようございます。桂木警視監」と、神谷が挨拶をしてきた。
「おはよう」
「おはようございます。神谷警視長」
「今日は、二人とも少し遅れたとはいえ、きちんと登庁したみたいで安心しました」
まるで、俺がきちんと登庁していないみたいな言い方は止めてほしいものだ。
「申し訳ありません。最近は、色々とありまして――」
「竜道寺君は、別にいいのよ? それよりも……、何だか雰囲気というか……、どうして、そんなに髪が伸びているのかしら?」
神谷が、竜道寺に疑問を投げかけながらも、その視線は俺に向かってくる。
「――まぁ、それは……」
「神谷警視長。それは、『私』の方から説明させていただきます」
「うん? ええ、わかったわ」
竜道寺が、事情を説明していく中で、神谷は呆れたような表情をしたあと、深く溜息をつく。
そして、竜道寺からの事情説明が終わったところで――、
「桂木警視監」
「お、おう」
「いくら何でも無責任すぎます。なんですか? 本当の女になったって……。そんなトンデモ設定は、以前にも桂木警視監の女体化を知っているからこそ、私でも理解できましたが、一般人が女体化するなんて、そんなことは普通はありえませんよ」
「目の前で実際に――」
「だから無責任で問題だと言っているのです。しかも、竜道寺君の両親には仕事のためにタイに滞在していたら気が付いたら女になっていたとか、そんな適当でいい加減な話がまかり通るのは、物語の中だけです」
「これがロジハラか……。今、話題の――」
「桂木警視監っ!」
「あ、はい……」
「どうやって責任を取るつもりですか?」
「まぁ、竜道寺を男に戻すことは出来るんだが、それをすると魂のオーラというか質が……、まあ本人が納得しているのなら問題ないよな? 竜道寺」
「それは、師匠から提案していい言葉ではないと思いますけど……。――ですが、神谷警視長」
「何?」
「私は、これで問題ありませんので」
「そういう訳にはいかないわ。だいたい、アナタの両親にはどうやって説明をするつもりなの?」
「寝て起きたら女になっていたとか……」
「そんなこと! 未知のウイルスが原因とかになって国中上げてパニックになるわよ!」
「……たしかに」
これが異世界なら、何の問題もないんだがな……。
まったく現実世界はメンドクサイな。
「桂木警視監も、納得されるなら、最初からキチンとしておいてください」
「お、おう」
「――で、本当に、これからどうするつもりなの? 竜道寺君」
「私は、このままでいいです。それに、師匠から色々と装飾品を貰っていますし、それは女の遺伝子で調整されていますから」
「桂木警視監……」
「ま、まて! 1000年くらいあれば再調整は可能だから」
俺の言葉に眉間に指先をあてる神谷は、難しい表情をしたあと、
「分かりました。とりあえず、竜道寺君のご両親には説明できる範囲内で説明をします」
「いいのか? 超常現象とか一般人に説明して」
「元凶が、どの口で、その言葉を口にしますか」
神谷が、すかさずツッコミを入れてくる。
「そ、そうだな……。反省はしている」
「反省はしているが、後悔はしてない! とか、ふざけたことは言わないでくださいね?」
念を押すかのように神谷が追撃してくる。
「まぁ、後悔はしてない」
「だから! あなたはもう! ――とりあえず、戸籍も含めて内閣府と掛け合いますので、竜道寺君は、しばらく余計なことはしないでください」
「はい」
「あと、とくに桂木警視監は!」
「どうして、俺にだけ当たりが強いのか……」
「小一時間説明した方がいいですか?」
「大丈夫だ」
笑顔で神谷が提案してきたので、速攻で却下しておいた。
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