第275話

 問いかけに無言になり俯くアディール。


「別に言いたくないのなら言わなくていい」

「言う。私は、殺したい相手がいる。そのためには力がいる」

「ほう……、殺したい相手か――」

「動機が不純だと思う?」

「内容によるな」


 アディールは話し始める。

 自身の出身地が、大国からの一方的な侵略により蹂躙されて、両親が殺されたということを。

 そのために復讐がしたいと。


「ふむ……」

「ユートは、否定する?」

「――いや、別に否定はしないし、俺が止めることもないな」


 俺だって、人間性について誰かを諭せるようなまともな人間ではないからな。


「それで、どう?」

「どうと言われても、俺の内弟子になっても意味はないぞ?」

「どうして?」

「マネできるモノじゃないからな。まして目で盗み見ることも出来ない。だが――」


 俺は違い意味で提案を出した。




 翌朝――、妹の容態を確認していたところで、ようやく妹が瞼を開けると俺の方向へ視線を向けてきた。


「……お、お兄ちゃん?」

「おはよう」

「おはよう、お兄ちゃん」

「調子はどうだ?」

「えっと、体の調子はいいみたい。昨日よりも、ずっと軽いけど……」

「そうか! 胡桃が無事でよかったな。ご主人様」

「そうだな」


 俺の横で座っている白亜。


「お兄ちゃん。今日は、帰れるの?」

「そうだな」

「あと、お兄ちゃん」

「何だ?」

「本当のことを話してくれるんだよね?」

「……仕方ないな」


 軽く異世界について説明をするくらいなら問題はないか。

 これ以上は、隠すことも出来ないからな。


「都さんにもいい?」

「都にか?」

「うん。白さんも知りたいと思うし、そうすると都さんも知りたいと思うの」

「……都とは喧嘩中なんだが……」

「それって、お兄ちゃんのせいだよね?」

「どうして俺が悪者になっているのか」

「だって、ずっとお兄ちゃん、隠し事していたよね? それって、良くないと思うの。都さんはともかく私に隠し事はよくないの!」

「話す必要が無かっただけだが……」

「それでも、同じ家族!」

「はぁー。分かった」


 まぁ核心的部分に触れないのなら問題ないか。


「そしたら、都さんの方には私から電話しておくね」


 携帯電話を弄り始める妹。

 それを見つめている俺と、俺の方を見てきている白亜。


「ご主人様も、妹君には強く出られないということですか」

「黙っておけ」


 白亜の頭に軽く手刀を落して俺は黙らせた。




 数時間後、公団住宅に久しぶりに戻る。

 

「桂木殿。何かありましたら、連絡ください」


 住良木が運転していた車から降りたあと、階段を上がり自宅のドア前に到着したところで鍵を開ける。

 

「何だか、すごく久しぶりなの」

「そうだな。一週間以上、自宅を留守にしていたからな。連休中だったから、学校を休んだのは数日だったが、明日からは大変だよな」

「うん」


 家に入り――、


「ここがご主人様の家……。そして妾とご主人様の愛の巣……」

「好きに言っていろ」

「あ――、お兄ちゃん」

「どうした?」

「シャワー浴びてくるの。あと都さんだけど1時間くらいしたら来るって」

「そ、そうか……」


 さすがに異世界に召喚されたということを伝えたときに都がどういう反応するのか、まったく想像がつかない。

 妹が浴室に向かったあと、俺は冷蔵庫の中身を片付けていく。

 さすがに一週間、家を留守にしていると痛んでいる食材とかは出てくる。

 俺は、それらを袋から出しては食べていく。


「ご主人様……」

「何も言うな。もったいないお化けがでるからな」

「何を言っているのか妾には分かりかねますが、きちんと料理した方がいいと思うのですが……」

「分かっているが、妹に食べさせる訳にはいかないからな」


 量としては5キロほど食べ冷蔵庫の中身が掃除し終わり――、ゴミを分けて片付けが終わったところで――、『ピンポーン』と、チャイムが家内に鳴り響く。


「誰かきたようだぞ。ご主人様」

「そのようだな」


 妹は1時間後に都が来訪すると言っていたが、思ったより早いな。

 まだ40分以上、時間があるが……。


「あいよー」


 俺はドアの開錠を行う。

 そしてドアを開けたところで、視線を下へと降ろしていく。


「どうして、アディールが居るんだ?」

「約束を守ってもらった。だから、師匠の手伝いにきた」





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