第214話

 純也が頷くのを見て内心では溜息をつきながら次に話す事を考え――、


「純也」

「ん? 都に話す内容のことか?」

「――いや、そうじゃなくて、今回の高清水旅館から起きた事件について説明しておきたい」

「それはいいけどさ――」


 廊下へと続く扉の方へと視線を向ける純也は、唇に指を当てながら


「何か問題でも?」

「そうじゃないんだ。どうして、優斗が、そこまで色々な事情に詳しいのか疑問に思っていたんだけどさ……、もしかして……、さっき来た警察官と知り合いだったりするのか? 何と言うか優斗には敬語で会話してたよな?」


 何と言うか、純也は洞察力が高いな。


「そうだな。これを見てくれ」

「これって警察手帳か? ――って!? 優斗っ! お前っ! 何時から警察官になったんだ!?」

「つい最近だな。俺の力の特殊性に国が気がついてスカウトを受けたって感じだ」

「なるほど……。そりゃ、そうだよな……。人間離れした能力を持っていたら国が管理下に置くのは当然だよな」

「まぁ、そうだな。とりあえずは警視監って身分を用意してもらっている」

「警視監って――、警視総監の次に偉い身分じゃなかったか? たしか刑事ドラマで、そんな階級説明をしていた気がするぞ!?」

「たぶん……」

「たぶんって……、そのへんは興味がないんだな」

「言ったろう? 俺は、異世界で英雄をしていたって――、実際に英雄として呼ばれてはいたが、実態は冒険者だったからな。あまり、細かい言い回しはどうでもいいと言うか」

「たしかに……。優斗だと、Sランク冒険者っ! とかの方が中二病を擽られるもんな」

「やめろ、俺の黒歴史を掘り起こすのは――」

「悪い悪い。それにしても優斗が、公務員とは……、将来は都も安泰だな」

「どうして、そこで都の話が出てくる」


 意味不明だ。


「はぁー。お前は、異世界で何を学んできたんだ」

「何か馬鹿にされている気がするぞ」


 俺は、戦闘心理における駆け引きにおいては、かなり鍛えているし、それなりに戦闘における相手の心理分析は、高いと自負している。

 そんな俺から見た都は、妹とは百合な関係で、自宅に泊まりにきていると分析している。


「ふっ。純也は分かってないな」

「何がだ?」

「都が俺に気があると思っているようだが、それは間違いだということだ」

「ほう……」

「都は妹と仲がいい。つまり、そういうことだ」


 完璧なまでの俺の持論に、口を大きく開けて呆け固まる純也。

 自分で思っていても、非の打ち所がない推測すぎて鳥肌が立つくらいだ。

 しばらくして純也が眉間に手を当てながら俯く。


「とりあえず理解した」

「ふっ」

「お前が異世界で恋愛に関しては何も成長してきてないということくらいは――」

「失礼な言い方だな!」

「そうじゃないと、そんな斜め上な考えにはならないんだよ!」

「純也……」


 純也の肩に俺は手を置く。

 異世界で長い間暮らしてきた俺は、ハッキリ言えば人生で言うと純也の先輩にあたる。


「男女の仲というのは、結構、単純なモノだぞ」

「その単純を理解してない優斗は、相当ヤバイな!」


 どうやら、純也には恋愛における人生経験が足りてないらしい。

 まったく――。

 このままだと平行線のままだな。

 それよりも、話題を戻した方がいいな。

山崎達が待っているし。


「まぁ、互いの恋愛観は、ここまでにしておいて本題に入りたい」

「本題?」

「ああ。高清水旅館で起きた事件の内容と、現状のことだ」


 俺は、安倍珠江のことを含めて『福音の箱』についての情報を教える為に口を開いた。



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