第174話
純也や都に妹が乗るパトカーと、俺と警察官が乗車するパトカーの2台に分かれて岩手県警本部に向けて、国道396号線を北上する。
「桂木警視監、少し伺ってもよろしいでしょうか?」
「別に構わないが?」
「随分と、お若く見えますが――」
「ああ。若作りだからな」
俺は、スマートフォンを操作しながら曖昧に答える。
そして数コール鳴ったところで相手側が電話に出た。
「俺だ。桂木だ」
「神谷です。いきなり電話が繋がらなくなりビックリしました。ただ、神社庁から情報が警視庁経由で回ってきた事で確認が取れましたが……。先ほど、岩手県警本部から身分照会の連絡が来ましたので、すでに結界の外に出られたという事ですね?」
「そちらには、遠野で起きた異常事態についての情報は既に出回っているということか?」
「はい。現在、遠野市全域で避難措置が取られています」
「俺と連絡が付かなくなってから、そんなに時間が経ってないと思うが、その割には、ずいぶんと迅速に対応が出来ているな? もしかして、この事態を想定していたとか……そういうのは無いよな?」
「桂木警視監に、以前に日本国政府が依頼した案件を覚えていますか?」
「ああ。たしかパンドラの箱の複製品が盗まれた件だったか?」
「はい。その盗んだ犯人を、無事だった防犯カメラを調べたところ容疑者らしき人物が判明したことで、すぐに対策を取る事ができました」
「つまり、今回の結界に関して、大規模な結界には、パンドラの箱の複製が関与しているという事か?」
「はい。そして首謀者は、安倍珠江です」
「安倍珠江……、どうして安倍が?」
「住良木鏡花、彼女の証言だと桂木優斗警視監に並々ならぬ執着があったとか――」
「ふむ……」
つまり、高清水旅館という高級旅館に無料で招待したのは、最初から俺に接触する意図があったからと言う事か?
だが――、俺に接触して何のメリットがある?
「桂木警視監? どうかしましたか?」
「――いや。今一、俺に執着する理由が分からなくてな。そもそも、俺に用事があるのなら日本国政府か警察経由で依頼をかければいいだけの話だろう? それなのに、窃盗をする必要性を感じないんだが?」
「理由については、私も分かりませんんが、ただ一つ分かることは、桂木警視監のために、バチカンへ渡す呪物を盗んだばかりか使用したという事だけです。そして――、現在、呪物を使った不可視の結界が、遠野市周辺の土地を呑み込み通信が遮断され、行方不明者が200人近く出ているという点です」
「かなりの被害者が出ているな」
「はい。しかも結界は時速4キロの速度で広がっていて、3時間ほどで花巻市まで到達すると予測されています」
「益々わからないな。そこまで危険な呪物を使って何をしたいんだ?」
「それは、首謀者を捕まえない限りは――」
「だよな……」
「桂木警視監」
「何だ?」
「桂木警視監なら、何とか出来ますか?」
「何とか出来るかどうかは別として、厚木って爺さんから、結界を作った人間を殺せば結界は消えるとアドバイスは貰ったな」
「そう致しますと、安倍珠江を殺すという事になりますね」
「おいおい。そんな事を言っていいのか?」
「桂木警視監。盗まれたパンドラの箱の複製品ですが、先ほどバチカンから情報が降りてきました。能力は、パンドラの箱と同じ世界の改変です。ただ、パンドラの箱とは違って歪に作られた複製品であるため、マイナス感情を吸収し、それを糧にして改変する世界を拡大していくそうです。そして負の感情を糧にしている為、内部は地獄だと推測されるとのことです。世界の改変が大前提にある以上、手に負えないと判断した場合、核ミサイルで使用する可能性が高いです」
「核ミサイルなんて意味がないだろ。呪物相手だぞ?」
「それでも、他国は自国に被害が及ぶ前に、日本の一都市程度なら焦土に変えてもいいと考え使うと日本国政府は予測しています。その前に、解決したいというのが日本国政府の考えです」
「つまり、仕事の依頼が入ったということか?」
「はい。結界の破壊――、それが日本国政府からの依頼です」
「また、無理難題だな」
「日本国政府は、首謀者を殺せば結界が解除できるとは知らないようです」
「つまり、吹っ掛けて解決して金を貰えってことだな!」
「ですが、そのためには――」
「依頼で殺しをするのなら、冒険者なら誰でもすることだ。値段の交渉をしてくれ。価格は最低でも100億円な!」
「――え? それは!?」
「国の存亡危機なんだろう? だったら20億円程度じゃ安いだろ」
俺は笑みを浮かべ電話口の神谷へ提案した。
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