第166話
「陰陽連? ――ってことは、地域保全公務課ってことか?」
「まぁ、今は、その名で呼ばれておるな」
「今は?」
「まぁ、時間は限られているが――」
厚木は、視線を寝かしている妹へと向ける。
「妹は、当分は起きない。それよりも、どういうことだ? どうして、陰陽連が、こんな所にいる? この襲撃にも関係があるのか?」
「それは分かんが、少なくとも、現在は異常事態と見た方がいい。おそらく私を狙った攻撃だと思うが――」
「爺さんを狙った攻撃?」
頷く厚木。
「私も陰陽師として数多の魑魅魍魎を封印し滅してきた。だから、その可能性は否定できない」
「つまり、俺と妹は巻き込まれたということか」
俺は溜息をつきながら座り込む。
まったく、他人の問題事に巻き込まれるなんて呪われているのかと思うレベルだ。
俺には借金返済の為の仕事があるというのに、本当にろくでもない。
「すまんの」
「まぁ、仕方ないと諦めるしかないな。それに爺さんの話だと、そこまで大規模な結界じゃないんだろう?」
「うむ。これだけの危険な瘴気を内包した結界を作り出して攻撃してくる手前、せいぜい、この牧場を中心に数百メートルが限界じゃな。幸い、この付近には、この牧場以外には民家もないし、孫娘も遠野市に買い物に行っておるからの」
「――なら、何の問題もないな」
それなら、純也や都が巻き込まれるような事はないだろう。
「それよりも、桂木君」
「何だ?」
「君は、神から力を得たと言っているそうだが……、それでも霊を見る事が出来ないのか?」
「そうだな。まぁ、敵愾心のある奴か、こっちに害を及ぼす為に姿を見せる奴か、忠告の為に姿を見せる程強い力を持つ奴なら見ることができるが――」
「それは一般人と大差がないのではないのか?」
「そうとも言う」
そもそも、俺には才能というモノは一切ない。
それは異世界に召喚された時に、俺に武術を教えてようとした騎士団長や、魔法を指導した宮廷魔術師にも言われたことだ。
だからこそ、俺は聖女としての力に覚醒した都が殺されたあとは、勇者を召喚する為に召喚の邪魔となっていた俺を国は殺そうとしたわけだが……。
「それなら、君の神域というのは……」
「ん? ああ……」
俺は、波動結界を周囲に展開する。
その半径は100メートルほど。
「これは……、神域ではない……」
「分かるのか?」
「うむ。だが――、これは……、一体何なのだ? ――いや、これは……」
俺の方を見てくる厚木。
「これは神域なんかではない。レーダーに近いような……」
「言い得て妙だな」
俺の能力を正確に言い当てるとは中々だな。
陰陽師と言うのもホラではないか。
「だが……、君は、この瘴気の結界内で全く影響を受けていない……。どういうことだ?」
「そこまで答えるつもりはない」
「つまり、能力を全て明かすつもりは無いと言う事か……」
「まあな」
厚木が項垂れる。
何か変なことを言ったか?
「つまり、君は救世主では無かったということか」
「何の話だ?」
「こっちの話だ。それよりも――、いや――、だから、君は、霊能者ではないのだろう?」
「まぁ、霊能者ではないな」
「そして、君は神域を展開することも出来ない。つまり、神の力を持っている訳でもない……」
「まぁ……な」
「……桂木君」
「何だ?」
「君は一体、何者なのだ?」
「何者と言われても、普通の男子高校生としか言えないが?」
「そういう話をしている訳ではない。人間が、電波を放射し、生体エネルギーを操作し、瘴気の中でも平然としているなぞ、ありえない――、そんなことは絶対にあってはいけない。だが、実際、目の前で見せられて私は混乱している」
「そうか」
「答えるつもりは――」
「ないな。冒険者が、自身の能力をひけらかすなど愚の骨頂だ」
俺は、波動結界を展開しつつ、周囲を確認しつつ答える。
「そうか……」
厚木は、納得したのか短く返答してくる。
俺は、その様子を確認しつつ、波動結界の展開範囲を広げていくが――。
「おいおい……」
「どうかしたのかの?」
「さっき爺さん。この結界、半径数百メートルが限界だって言っていたよな?」
「うむ」
「――なら、その考えは改めた方が良さそうだ」
「どういうことかの?」
俺は立ち上がる。
「この結界、半径10キロは最低でも存在しているぞ?」
「馬鹿な!? そんな事が有り得る訳がない! これだけ強力な瘴気の結界を、それだけの広範囲で展開できるなんて普通では無理だ!」
「無理も何も、この世界が現実世界と隔絶されているのなら、調べることが出来ないはずだ。つまり、調べられるが範囲が極端に広い場合は、それが今起きているってことだ」
俺は、答えながら高清水旅館まで、波動結界で確認するが――。
「反応が純也と都しかない? どういうことだ?」
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