第123話

「えっと……、あまり興味がないみたいな?」

「いや、神社庁もあの手この手で仕事をしているんだなって思っただけだ」

「そうですか。それでは、これからはどうなされますか? ご帰宅されるのでしたら、お送り致しますが?」

「申し出には感謝するが、まだ昼前だからな。とりあえず歩いて帰ることにするから大丈夫だ」

「分かりました。――では、妹さんに仕事について説明されるときには、コールセンターに雇われているという形で説明された方がいいかと思います。桂木さんの身分も、そのように登録しておきますので。住良木さん、急いで登録をしてきて」

「大至急、登録をしてきます」


 東雲に命じられた住良木は、またブースから出ていく。

 

「そういえば」

「何でしょうか?」

「俺のことを変に勘繰るのは止めて欲しい。もし発覚した場合、互いの信頼関係を損なう可能性があることは、東雲も理解していると思うが、どうだろうか?」

「分かっています。その事に関しましては、住良木さんに厳重注意しておきます」

「了解だ。それじゃ、俺は帰るとしよう」

「それでは建物入口までお送ります」


 日本企業会館入口まで見送りにきた東雲に軽く俺は挨拶をしたあと、自宅まで歩いて帰る。

 思ったよりも遠かった。




「ただいま」

「お兄ちゃん、お帰りなさい!」


 自宅に戻ったあと、家に上がって見ればリビングのソファーで薄着の妹が寝転んでテレビを見ていた。

 もちろんスカートも短いことから中身が見えている。


「胡桃」

「どうしたの? お兄ちゃん。都さんなら、家に帰っているの」

「そうなのか? それと、お前、パンツ見えているからな」

「欲情したの?」

「しねーよ! どこの世界に妹のパンツ見て欲情する兄妹がいるんだ!」

「私はハアハアするよ!」

「変態か……」


 俺は思わず額に手を当てる。

 

「――と、とりあえず……だ。都は実家に戻ったということでいいのか?」

「何だか、その言い方! 胡桃的には、赤点だと思うの! まるで、都さんがうちに嫁いできたみたいなの!」

「そういう意味じゃないんだが……」

「いい? お兄ちゃん」


 ポテチの袋を開ける妹。


「勉強が赤点のお兄ちゃんは、話した時に、相手が自分の言葉をどう受け取るか、もっと考えないと駄目なの」

「まぁ、一理あるな」

「そうなの!」


 ポテチを食べ、コーラをラッパ飲みする妹。


「正直、太る未来しか見えない」

「胡桃は太らないから!」

「知っているか? 胡桃」

「な、何を!?」

「ポテチには、油がたくさん含まれているんだぞ?」

「し、知っているし!」

「そしてコーラには、砂糖がたくさん含まれている。つまり太りやすいってことだ」

「どこの情報なの?」

「テレビでやっていたな」

「……それでも、胡桃はお兄ちゃんの次に大好きなポテチとコーラを食べて飲むことは止めない! 私には覚悟があるの!」

「太る覚悟か?」

「違うから! きちんと運動するから!」

「そ、そうか……」

「ところで話は戻すが、都は何のために実家に戻っているんだ?」

「えっとね。私用だって言っていたけど……、胡桃も詳しくは聞いてないの」

「なるほど」


 まぁ、人間何かしら抱えているものだからな。

 私事に、一々首を突っ込んでいたら、キリがないか。


「ところでお兄ちゃん」

「ん?」

「派遣会社の証明書は?」

「ああ」


 胡桃に東雲から渡されたカードを見せる。


「何だかボランティア的な会社名だね」

「そうだな。結構、人材不足らしいからな」

「――で、でも! 時給! すっごい! 高いよ!」

「そ――」


 そうなのか? と、思わず言いかけたところで、俺は言葉を呑み込む。

 時給を、知らないとかありえないからな。


「コールセンターで時給2500円だって! すごいね!」

「そうだな」

「でも、16歳からかー。胡桃は、まだ無理なの」

「中三だからな」


 妹とは携帯を使って検索したのか、納得した様子で身分証を返してきた。




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