第85話
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
後ろから声が聞こえてくるが、無視。
周囲の状況や地形や罠などを感知する為に波動結界を展開し階段を降りていくと女が付いてくる。
「きゃあああああ」
そう感じた瞬間、女の悲鳴が聞こえてくる。
「――ちっ! 素人が!」
俺は、壁を走って避けた落とし穴に引っかかったであろう女に声を聞くと同時に後方へと跳躍し数十メートルの距離を一瞬で詰めたあと、女が落ちた穴へと落下し女の手を掴むと共に壁に手刀を突き立てる。
「素人が、何をしている? 自身の力量すら見極められないのに、危険な場所についてくるな!」
「――あ……、ああ……」
「――ったく」
思わず溜息が出る。
どうして、この女は此処にいるんだ? という気持ちも湧き上がってくるが、さすがに目の前で死なれるのは目覚めが悪い。
「あ、ありがとう……」
「礼は下を見てから言うんだな」
「え?」
女は用意周到なのか懐中電灯を持っていたようで――。
「きゃああああああ、あれって何!? あれって!」
「知らん。まぁ、俺が知っている中ではスライムに近いが……」
半透明な液体が5メートルほどの下方で蠢いたかと思うと、徐々に壁に沿って上がってくる。
「ど、どうするの? ねえ!」
「どうするも何も――」
俺は壁に突き刺した手刀に体内で増幅させた生体電流を放つ。
膨大な生体電流は、絶縁物質である石壁すら経由し――、液体のような生物を消し飛ばす。
さらに膨張した液体は気体となり、俺達を上方へと浮かび上がらせる。
「ジッとしてろよ?」
俺は、身長が180センチ近い女の体を両手で抱えると同時に、『大気』を蹴り跳躍する。
一瞬で落ちてきた場所まで戻ってきたところで天井を蹴り方向を変えたあと、階段に着地する。
「まったく……」
「……い、いま……何をしたの?」
「答える必要性は感じないし、さっさと帰れ」
「――で、でも!」
「いいか? 自分の身すら満足に守れない分際で――、危険を危険すら理解できず察知できない者が頭を突っ込むと死ぬことになるぞ?」
「でも君は……」
「俺のことはどうでもいい。それよりも、今のトラップで分かったろう? ここの通路を無事に通り抜けることが出来るのは、相手に望まれている奴だけだ。侵入者には手酷い歓迎が待っているぞ?」
「君が居れば大丈夫なんでしょう?」
「お前は、人の話を聞いていたのか?」
「助けるのは、今回だけだ」
俺の言葉に女はゴクリと唾を呑み込むと口を開く。
「はい。そうですか! で、私は引く訳にはいかないの!」
「警察関係者だからか?」
「――なっ!」
「図星と言ったところか」
「ち、違うわ! 私は――」
「はぁー。お前と口論をしている時間すら勿体ないというのに、お前の言い分を聞いてる時間は無いんだよ」
「それなら! 私を一緒に連れていけばいいじゃないの!」
「どうして足手纏いを連れて行く必要がある?」
「貴方が何者かは知らないけど、普通の学生では無い事は分かったわ! 私が、貴方のことを神社庁の人間に――ひっ!」
俺はダガーを取り出すと同時に、女の首筋に刃先を当てる。
「俺の秘密を話したら殺す。いいな? これは、命令だ」
「……わ、わかったわ……」
「分かったならいい。だから――」
「それでも、一緒に付いていきたいの」
「はぁー。お前は人の話を――」
「聞いていたわ。でも! 私にも目的があるの! ここに本当に神様が居るのなら聞きたいことがあるの!」
「何をだ?」
「それは……」
口を閉ざす紅という女。
「何かあるのか? それは、山城綾子に関する問題か?」
「いいえ。違うわ」
「仕方ないな」
「それじゃ?」
「ここで話していても時間の浪費にしかならない。ここからは俺の指示に従うというのなら連れて行ってやる。それに同意できないなら気絶させ、お前をここに放置していくがどうだ?」
唇を噛みしめる紅幸子。
「わかったわ」
「――なら、移動するぞ」
俺は女を抱き上げると身体強化し、下へと伸びる階段の壁を走りながら移動を始める。
「ちょっ! 階段を降りないの?」
「降りているだろ?」
「壁! 壁、走っているから!」
「罠があるから壁を走っているんだ。静かにしろ! 舌を噛むぞ」
俺の言葉に静かになる女。
そして壁を走り、1キロ近く降りたところで小さな空洞に出る。
空洞の先には、逆さの黒い鳥居が鎮座している。
「これが逆社?」
「何の話だ?」
罠が無いことを確認したところで女を下す。
「ここの山は、元々は霊山として信仰の対象だったの。それで上社と逆社が作られて、それぞれ異なる意味で信仰されていたと文献には書かれていたのだけれど……って!」
紅幸子は、途中で口を閉じる。
理由は簡単で、逆さになっている黒い鳥居の向こう側――、山城綾子が通って行ったであろう通路から直系が3メートルを超える巨大な黒い塊が姿を現したからだ。
「どうやら、ここからは俺達を進ませたくないみたいだな。もしくは、此処の番兵と言ったところか?」
「――ど、どどど、どうするの? あんな化け物なんて――、あんなに姿がハッキリと見える霊体? なんかが存在しているなんて……、もしかしたら神使の中でも高位の存在……」
目を見開き震えている女を横目に、俺はデザートイーグルを取り出し銃口を向けると同時にトリガーを引く。
生体電流により磁界が発生していた銃口を通りぬけ加速された銃弾は、レールガンとなり黒い塊を貫き爆散させる。
「――さて、いくか」
「え? えええ!?」
「何をしている? 時間がないと説明しただろ? あんな小物を相手にしている時間すら惜しいからな」
「小物って……」
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