第80話

 身体強化をし――、車の運転手を確認する。

 

「山崎で間違いないな」


 周囲を見渡し、気配を探る。

 そして何の問題もないことを確認後に近くの人の通らない裏路地へとビルの屋上から飛び降り、東千葉駅のロータリーへと歩いて向かう。

 車まで、あと十数歩のところまで近づいたところで、車のドアロックが外れる音が聞こえてくる。

 車両のドアを開け中に入る。


「山崎、済まなかったな」

「いえ、桂木さんにはお世話というか厄介ごとしか持ち込まれていませんけど、それでも何かあった時に対応してくれると思っているので」

「素直かよ」

「――で、桂木さん。これが資料になります」


 渡された紙の資料を手にとり目を通していく。

 殆どが、ネットの記事をプリントアウトした内容だが……。


「病の神か……」

「はい。あくまでもネットの噂に過ぎないようですけど、どうやら神様の名前は『豊雲野神(トヨクモノノカミ)』と言うみたいですね」

「聞いたことが無い神だが、資料から見るに大物みたいだな」

「根源神の一柱で、一説によると天地開闢の際に出現した最初の神ともされているみたいですからね」

「なるほど……」


 そりゃ神社庁も全ての情報を開示したくないはずだ。

 今回の騒動を起こしている神様とやらが、資料の通り宇宙の根源神であるのなら、神社庁としても手が出しにくいだろう。

 

「桂木さん、今回の山王高等学校の敷地で起きている怪異ですけど、相当ヤバイ山なんじゃないですか?」

「まぁ、資料を見る限り、相手はかなりの大物だな。本物であるならな」

「そうですね。あくまでもネットの情報ですから信憑性があるのかどうかと問われれば……」

「だろう?」「

「ですが、桂木さん。神社庁も、今回の騒動で動いているって同業者の間では有名ですよ」

「そうなのか?」

「はい。警視庁のトップと繋がりがある『紅探偵事務所』も噛んでいるとか」

「紅探偵事務所?」

「紅幸子という赤い髪の女が室長をしている事務所ですね」

「赤い髪か……」


 たしか、何度か学校で見かけたことがあったな……。

 そういえば、理事長室でも――。


「そいつは警視庁と繋がっているということか?」

「ですね。ただ――、千葉は警察庁の管轄のはずなので……」

「つまり、警視庁は――」

「ただ、警視庁と神社庁は、仲が良いと言う話は聞かないので」

「ふむ……」


 これは、俺が思っていたよりも裏があるということか?


「警察庁の方に動きはないのか?」

「そこまでは……、ただ地域保全公務課が独自に動いているから注意するようにと、編集長が言っていましたね」

「地域保全公務課ってことは、公務員だよな?」

「そうですね。ただ神社庁も公務員ですけど……」


 そういえば、自分達も公務員だということを神社庁の連中も言っていたな。


「山崎、どうして地域保全公務課が動く必要があるんだ?」


 そこで山崎は、何かを思い出したかのように口を開く。


「地域保全公務課は、表の表記なんですよ。実際の政府内の正式名称は、内閣府直轄陰陽連ですから」

「陰陽って……安倍晴明とか出てくるアレだよな?」

「それですね」


 俺は思わず額に手を当てる。

 神社庁とか神様とか陰陽師とか、普段から俺が住んでいた日常の世界は何だったのかと。


「どうかしましたか?」

「――いや、非常識なことばかりというか非現実的というか非科学的な事ばかりを目にして少しばかり頭が痛くなった。もっと、一般常識の範囲に収まるような話しはないのかと思ってな」

「桂木さんも、そうとうヤバイ部類だと思いますけど?」

「それを言われると何の反論も出来ないな」

「――で、桂木さんは内閣府と神社庁と警視庁が絡む問題に手を出していると言う事でいいんですか?」

「俺が自分から首を突っ込んでいると思われるのは心外だな。俺は、一般人として平和に暮らしたいんだが……」


 俺は深く溜息をつく。


「ですが桂木さん」

「ん?」

「今回の山は、ネットに書かれていた情報が本当だとすると、危険を通り越して絶対に関わってはいけない山だと思いますよ?」

「まぁ、それは分かるがな」

「少なくとも伊邪那美さんよりは遥かに危険かと思いますし」

「伊邪那美さんか……。そういえば、伊邪那美を出雲大社に連れていったんだっけか?」

「まぁ……」

「――で、いまはどうしているんだ?」

「うちにいます」

「――ん?」

「ですから、自分の家で伊邪那美様は暮らしていますよ」

「そうか」

「そうかじゃないですよ、なんで家に来るのか……、しかも伊邪那岐様と別居中だとか」

「神も色々とあるんだな」

「ほんと大変なんですよ」


 深く――、本当に深く溜息をつく山崎。

 

「まぁ頑張ってくれ。とりあえず資料については感謝する。それとコレ」

「お金ですか?」


 俺が差し出した封筒を受け取った山崎は目を丸くして俺を見てきた。


「まぁな、短期間で調べものをしてもらったからな。情報屋には、金をきちんと払うのは俺のポリシーだからな」


 冒険者にとって情報は命と同じ重みがある。

 それは異世界で学んだことだ。

 魔王軍の同行を調べるために、他の有力な冒険者から情報を得る時にも金がモノを言う。

 つまり、労働に対する対価というのは重要であり、それは誠意の証でもある。

 口だけではな人は動かない。


「50万円もいいんですか? うちは伊邪那美様が逗留しているので助かりますけど……」

「気にするな。とりあえず、また何かあったら連絡をくれ」

「分かりました」


 話しが一段落したあとは、俺は自宅に戻る。

 窓から入り一息ついたあとは、風呂に入り寝間着に着替えると――、


「むにゃむにゃ……、お兄ちゃん、今頃、お風呂に入っていたの?」


 寝ぼけた様子の妹が欠伸をしながら部屋のドアを開けて此方を見てきていた。


「少し疲れたから仮眠をとっていたからな」


 部屋の時計をみると時刻はすでに0時過ぎ。

 妹は早く寝る習性があるので、この時間だと何時もなら完全に寝ている時間だ。




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