ご近所アイドル現る

 帰宅して、先輩と一緒に家に上がった。


「先輩、一緒に住むなら部屋が欲しいでしょ? 空いている部屋があるから、そこを使って」


「えっ、でも……」

「いいの。これは主人としての命令ね」

「分かりました。ご主人様がそうおっしゃるのなら、お言葉に甘えます」


 学生服のままで言われるとドキドキするな。部室の時はメイド服だったけど、帰宅前に着替えていた。またあの可愛らしいメイドになってくれるんだよな。


「さあこっちへ」


 階段を上がっていき、二回へ。

 ちょうど空き室があった。

 本当は物置部屋だったが、偶然整理中で空いていた。そこを使って貰う。しかも、俺の部屋の隣。直ぐに会える。



「お、お邪魔します」

「どうぞ」

「わぁ、綺麗ですね。ご主人様の家ってちょっと大きいですし、広いですよね」

「まあ、親父が投資家だからね」

「凄いです。成功していらっしゃるんですね」

「いや、そこそこらしい。でも、海外旅行とかするくらい余裕はあるみたい」



 親父は投資を上手くやっているようで、俺にお小遣いを数万~数十万くれるほどだった。誕生日プレゼントやクリスマスプレゼント、お年玉もしっかりくれる良い親父だ。母親も近所から良妻賢母と称賛されている程に優しい人だ。



「本当に良いですか……わたしが使っても」

「先輩に使って欲しい。両親が帰ってくるまで一緒にいて欲しいから……だから、その」


「ご主人様……」



 先輩は嬉しそうに俺に抱きついてきた。良い匂いが鼻腔を突いて俺はどうかなりそうだった。いろいろ当たってるし、先輩……柔らけぇ。


 あ~…どうしよう、心臓のドキドキが止まらない。



「せ、先輩……」

「……すっごく嬉しい」


「は、はい……俺も嬉しいです」



 思わず敬語になってしまう俺。

 やっばい、まだ動悸が収まらない。

 かつてこんな緊張した日はないだろう。

 俺は今、猛烈に震えまくっている。


 手汗やべぇ~…。



「じゃ、じゃあ……着替えるね。それとも見る?」

「先輩の生着替え見たら鼻血を噴きだす自信があるよ……俺」


「では、少しお待ちを」

「うん、分かった。リビングで待ってる」



 手を振って別れ、俺は着替えてリビングへ向かった。ソファに座り、先輩を待つ。落ち着かない。非常に落ち着かない。少し前に一日を過ごしたじゃないか。なのに、どうして急にこんな心臓がバクバクするんだ!?



 そんな時、チャイムが鳴った。



「ん、来客か」



 通販で何かを頼んだ覚えもないし、ご近所さんかな。どうせ回覧板とか何かだろうと思って、俺は向かった。


 玄関を開けると――



「あのー…、鐵さんの家ですよね……って、紗幸くん!?」

「お、お前……篠原、篠原じゃないか!」



 びっくりした。玄関の向こうには、篠原しのはら まゆがいたんだから。しかも、とんでもなく可愛らしい私服姿。ガチのアイドルじゃん。


 身に着けている物もハイブランドばかり。おいおい、あのショルダーバッグはイル・ヴィトンじゃないか。時計もルレックスのデイトゥナ! 渋すぎ! 靴はバレンテノのショートブーツ(←母さんが同じものを持っていたので知っていた)。



 これを見るとガチのアイドルと思い知らされた。儲かってんな。というか、門限で帰ったのではなかったのか?



「あ、あのね……わたし、近所だから、その様子を見に来たんだけどね」

「えっ、篠原……お前本当にご近所さんだったの?」

「うん。最近まではマンションで暮らしていたけど、アイドルは休止中で今は帰ってきているから」



 あー…もしかして、幼馴染ってマジかもしれない。俺が馬鹿なだけか!? しかも、油断していると背後から先輩の気配が――マズい!!

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