メイド服に着替え中の先輩

 お昼休みが終わり、先輩と別れた。

 教室に戻ると割と上機嫌な篠原がいた。



「よ、篠原。なんだ、怒ってないんだな」

「怒ってないよ。だって、あのじゃんけんはあたしが提案した事だし、それに文句を言う筋合いはないし、次に勝てばいい話でしょ」


「なるほどな。篠原、お前ってポジティブなんだな」

「まあ、それが取り柄というか、トップアイドルの秘訣かな」



 納得。篠原は恐らく本当にアイドルの『ウィンターダフネ』だ。さっき、スマホで軽く調べたが、篠原らしき人物がトップに立っていたからな。マジでびっくりした。



「そうか、次はじゃんけん頑張れよ」

「うん。きっと紗幸くんを独り占めしてみせるよ」



 真っ白な歯を煌めかせ、にこにこ笑う篠原。さすがアイドルだけあって可愛いスマイルだ……思わず見惚れてしまうと同時に、落ちそうになった。……くっ、まずい。俺には先輩という心に決めた人がいるんだが、これは強すぎる。



 ◆



 午後の授業を終え――放課後。


 隣の席の篠原が俺をロックオン。俺の机に手を置き、星のように輝く大きな瞳で俺を見つめた。



「なんだ、篠原」

「一緒に帰ってくれたら『ウィンターダフネ』のCDを進呈しますっ!」


「えー、いらねー」


「あーっ、ひっどぉ~い……」



 がくっと項垂れる篠原。

 コイツ、揶揄からかうと面白いな。



「すまんな篠原。俺は部活に入っていてな。行かねばならんだよ」

「なんの部活なの?」


「ボードゲーム部。先輩……桜坂先輩が部長なんだよ」

「えー、マジ~!? うぅ……負けてられない。あたしも入る!」


「なぬっ!? 篠原も入るのか。まあいいか、部員が足りないと先輩も言っていたし、もう二人いないと廃部になるとも言っていたような気がするし……じゃあ、ついて来い」


「ありがとー!」



 足をパタパタさせ喜ぶ篠原。

 愛嬌たっぷりで、蜂蜜のような甘さを感じた俺。なんだろう、コイツといるの……楽しいなって感じ始めてきた。もしかして、俺を引っ張るタイプか!!



 廊下を出て『ボードゲーム部』を目指す。



「……ん? なんか視線が多き気が」



 教室内にいる時もまあまあ同じクラスの男子生徒から見られていたが、廊下に出て一緒に歩くともっと違った。そのほとんどが篠原に注目していた。……ま、まさか。みんな、篠原がアイドルだって認知している!?



 いや、そもそも篠原の容姿はマジのアイドルレベル。体だって恐ろしい程に引き締まっていて、何食っても太らなさそうな体型だ。



 そんな完璧超人と一緒に歩けている奇跡。俺って、今かなり幸せの絶頂にいるのでは……?



 なんて考えていると『ボードゲーム部』に到着。



「失礼します」



 ガラッと扉を開けて入ると、そこにはメイド服に着替え中の先輩が……って、ああッ! 俺は扉を瞬間で閉めた。……見えたぞ、いろいろと。


 しばらくして先輩が顔を出す。



「……び、びっくりしたよ、鐵くん!」

「ご、ごめんなさい、先輩。わざとじゃないんです……。まさかメイド服に着替えているだなんて思わなかったから……」


「わたしもごめんね。それより……あれ、篠原さん?」


 背後に立つ篠原に気づく先輩。



「お、お邪魔します……桜坂先輩」

「あっ……もしかして、もしかしなくとも入部希望!?」

「ええ、はい……そのつもりで――すぅ!?」



 先輩がテンションで爆上げで篠原の両手を掴む。だろうね。俺と先輩の二人きりだったし、部員候補なんてこれが初めてだ。


「ようこそ、ボードゲーム部へ! 篠原さん……いえ、これからはまゆちゃんって呼ぶね」

「嬉しいです、せんぱ――いぃ!?」



 先輩に強制連行されていく篠原。パイプ椅子に座らされた。なんだか、これから尋問でも始まるような空気感だぞ、これ。



「あのー、先輩。何をする気です?」



 俺が訊くと先輩は意地悪そうに笑う。

 ……あ、これは嫌な予感だ。



「これで闘うの!」



 先輩の取り出したのは、今超流行りの『ジャケットモンスター』のカードだった。子供から大人まで人気のヤツ! 俺も好きなんだよね、それ。どっちかというと、ゲーム本編の方だけど。

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