第6話 クズ令嬢、特待生留学の夢を叩き潰そうとする。(ざまぁ)

「ここまでの定期考査、マリア様はここまで全教科で1位ですわ!」

「なんてすごいのかしら!」

「さすがはマリア様、憧れずにはいられませんわ」


 先日行われた定期考査の結果を見せ合いっこしながら、私はクラスメイトたちと盛り上がっていた。


「あはは、みなさん買いかぶりすぎですよ。今回はちょっと試験のヤマが当たっただけですので、あまり大きな声では言わないでくださいな。恥ずかしいです」


 とかなんとか言いつつ、私は内心超気持ちよくなっていた。


 みんなから賞賛されているから?

 ここまで全教科1位だから?

 ううん、そんなことで喜ぶような器の小さい私じゃないわ!


 気持ちよくなっている理由、それは――


「でもこれだとここまで全教科2位のミーシャさんの特待生留学は……」

「特待生留学の条件は総合で5位以内。さらにどれかの科目で1位を取ることですものね」

「マリア様にグランドスラムを達成をしてもらいたい気もありますけれど、ミーシャさんにも留学はしていただきたいですし」


「それなら大丈夫ですよ。私が全教科1位のグランドスラムなんてそんな恐れ多いですもの。それに最後に一つ残った教科は、ミーシャさんの大得意な数学ですから。文系の私ではとてもとても――」


 なーんてね!

 なーんてね!!


 くっくっく。


 この定期考査のために毎日睡眠時間を削りに削り、超有名な家庭教師を教科ごとに雇って、それはもう死に物狂いで勉強したんだからね!


 そのせいでここ一週間くらいはお肌のコンディションがズタボロの最悪だったんだけど。

 でもおかげでここまで全教科1位アーンド、数学も全て完璧に解いたんだもんねー!


 つまり数学は100点以外ありえないわけなんだよねー!


 ミーシャ。

 あんた天才だか何だか知らないけど、先生とかクラスのみんなからちやほやされて調子にのってんじゃないわよ。


 貧乏人のために学園が用意した、費用が全額支給される特待生留学の夢は、この私が完膚なきまでに叩き潰してあげるんだから!


 あははははは、ざまぁ!(笑)



  ~~後日。


「ミーシャさん、特待生留学おめでとう!」

「あちらに行かれたら文通してくださいな」

「わたしもわたしも!」


「ありがとうみんな! ぜひ全員と文通させてもらいたいな!」


 盛り上がるクラスメイトを遠目に、


「くっ、なんでこんなことに……!」

 私は悔しさのあまり返ってきたばかりの数学の解答用紙を、ぐしゃりと握り潰していた。


 というのも。

 最後の数学の結果、私はまさかの0点だったからだ。


「まさか解答欄が全て1つずつずれていたなんて……!」


 毎日明け方まで及んだ過酷な試験勉強。

 そこからきた極度の睡眠不足による痛恨のミス発生!

 私としたことが最後の最後の教科で、なんという大失態を犯してしまったの!?


 そんな風に、屈辱と自分への怒りに打ち震えていた私のところへ、当のミーシャが嬉しそうにやってきた。


「マリア様」

「なによミーシャ、負け犬の私を笑いにきたの?」


 あんたってば最後の最後まで、本当にイケ好かない女ね。

 私が悔しがる顔をそんなに見たいわけ?

 覚えてなさいよ。


「? マリア様のおかげで特待生留学ができるから、そのお礼に来たんだよ。本当にありがとう」


「お礼を言われるようなことをした覚えはないけれど? それとも嫌味かしら?」


 くっそ、なんだこいつ!

 勝ったからってこの女、上から目線で調子にのりやがって!

 調子にのりやがって!


 この女っ!

 この女っ!!

 きぃ!

 悔しいわ!


「もう、マリア様は本当に素直じゃないんだから。わざと最後の数学で0点を取ることで、私が留学に行けるようにしてくれたんでしょ? この恩は絶対に忘れない。将来必ず返してみせるから――」


 ミーシャが何事か言っていたけれど、心底イライラしまくり&奥歯をギリギリ言わせていた私は、もはやそんなもん全然聞いちゃあいなかった。


「はいはいそうですね、なんとでも言えばいいわ」

 もはや友達ヅラするのも限界に近かった私は、だから投げやりに返事を返す。


 ばか、ばか、ばか!

 私のばか!!


 私の頭の中はそれだけでいっぱいだったから。



「さすがマリア様、人としての器が違いますわ」

「しかもそれを感謝されても、素知らぬ風を装うだなんて」

「マリア様と同じクラスで私、本当に幸せですの」

「私たちもマリア様みたいになれるようにがんばりませんと」

「まったくですわ」


 この件についてクラスメイト達がなにかあれこれ言っていたみたいだけれど。

 当然それも私の耳には届きはしなかった。

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