転生世界で雷属性が自分だけ?〜唯一無二の属性で最強を!〜

重光大海

プロローグ

 爽やかな秋晴れの日だ。


 空気は程良く冷え、柔らかい陽光が窓から差し込んでいた。

 もう授業が終わる時間に差し迫っている。

 その時少年は教室から窓を眺め、眼下の海岸線に広がる港町に目を落としていた。少年が暮らす町は地方に位置し、海に面している。


 瞳の先には陽光に照らされて海面がキラキラと光っていた。


 少年がいる校舎を囲む木々には紅葉が立ち込め、遠くの海と調和して美しい景色に彩っていた。


 少年が通う高等学校は小高い丘の上に立地しており、教室からは海に面する街を眺めることができるのだ。


いい天気。

もう授業も終わるし、帰りに寄り道でもしていこう。


 そんな事を耽ながら姿勢を崩していると、様子を見ていた教師が少年に「西宮!授業中だ。外を見たって鳥にはなれんぞ」と注意をする。

 そして複数の生徒による笑い声が教室に響いた。


 少年の名前は西宮仁。

 高校2年生である。

 この日最後の授業チャイムが鳴り、クラスメイトは教科書を片づけ、それぞれ部活、もしくは帰りの支度を始めた。

 

 だが、一部の生徒は違う。

 部活をしていない生徒はさっさと帰る用意を済ませ、帰路に着こうとする。


 仁もその内の1人だ。

 彼は部活はしておらず、授業が終わるとすぐに家に帰る。友達はおらず、家でゲームをすることがほとんどだ。


 だが、魔が差した。

 今日のような雲一つない爽やかな秋晴れの日にそのまま家に帰るのは勿体無いと考え、いつもの帰り道とは違う方向を選んだ。


 この違う方向というのはいつもの帰り道とは反対方向に道が続いており、多くの学生が住む港町への帰り道とは遠回りで深い森の中を通ることになる。

 利用する者は滅多にいない。

 だがそれは、仁にとっても好都合だった。

 人付き合いが苦手だった彼は、人との交流を望まないのだ。


「さようなら」

「気を付けて帰れよ」

「はい、先生」


 校舎の門をくぐると、足をいつもとは反対方向の道へと向け、歩みを進める。人がいない道を、仁は優越感を感じながら歩みを進める。


 なぜなら紅葉が生み出す、灼熱のように赤く照らされた世界を一人で独占できるからだ。

 紅い葉一枚一枚がパラパラと風に乗って道に積もっていく。


 仁はこんな美しい道を通らない人に哀れみすら感じ始めた。


 空に雲は存在せず、太陽は金色の光で大空、遠くに見える水平線を美しく照らしている。


 しばらく歩いた後、左右には紅葉を彩る木々がいよいよ勢いを増してきた。


 だが、そんな中、道の脇に小道があるのを見つけた。人の手が届いていないのだろうその道は雑草が生い茂、木々の枝が行手を拒まんと交差している。


「よく見つけたなぁ。俺」


 仁は好奇心から近寄ってみると、苔が生えた石畳が点々と斜面を降っており、なんとか人1人が通れる様子だった。


 どこまで続いてるんだ?

 時間もあるし少しだけ行こう。


 少年を傷つけんとする木々の枝を払いのけ、前身する。途中で石畳の道に生えた苔で滑りそうになるがなんとか枝に掴まり体勢を維持した。次第に傾斜はきつくなっており、一歩踏み出すのに神経を要求してくるようになった。


 この濃密な木々の中、作られた道からは空の様子がよくわからない。葉の間から木漏れ日が差し込む程度だ。


 

 もう1時間が経過しただろうか。


 転倒しないようにただ意識を足下に向けながら降りるだけなのでそれほど体力は消耗しなかった。


 しかし、仁は次第に空が暗くなってきていることだけは認識した。光の柱となって差し込む木漏れ日が細々としていくからだ。


もう夕方だ。

太陽が沈むな。


 そう考えていると、次第に葉の隙間から射す、わずかな光の柱まで、視界から消えた。と同時に冷たい水滴が手のひらへ落ちてきた。

 雨だ。


「えっ!?あんなに晴れてたのに!?」


 山は天候が変わりやすい。

 そんな事は熟知していたが、この状況で天候が悪化するのは望ましくない。


 仁は慌てて、もときた道を辿って帰ろうとするが雨で水分を含んだ苔が邪魔をする。

 滑りやすくなり、これを避けようとするためになかなか足が進まないのだ。そこに遠くから空気を震わせる轟音が轟く。


「…雷?」


 最悪だ。


 爽やかな秋晴れだから遠回りをしてまで、紅葉を拝もうとしたのにこんな目に遭う自分を酷く忸怩した。

 いつも通り、すぐに家に帰るべきだったのだ。


 いや、せめて、こんな脇道を進もうとしなければ…。


 そう思い耽っていると、また轟音が聞こえた。


 咆哮のような轟音だ。

 アニメやゲームなどで出てくる巨大な龍を連想する。


 だが、雷音は先ほどよりも大きく、少年を驚かすには十分だった。意識が足元から離れ、仁は濡れた苔によって足を踏み外し、体が後ろに引っ張られるように宙を浮いた。


 すぐに枝に掴まろうと手を伸ばすが、少年の全体重を支えるには不十分だったらしく、湿った枝の折れる音が雨音の中に消えていく。そのまま、身を任せ、出来るだけ怪我をしないように手と足を丸めながら、滑り落ちていく。



――――暗い闇の中から激しい雨音が意識の中に流れ込んでくる。

 視界を取り戻そうと意識が覚醒した。

 うつ伏せの状態のまま、重い瞼を上げる。


 気づくとそこは森の中にできたわずかに広い空間だった。

地面は石畳みでできており、昔に何か行われていた自然の空間だろうか思案を巡らす。


 ここの空間だけ空を隠す枝葉は無く、先程よりも無慈悲に激しい雨が自分を叩きつける。仁は自分に何が起きたのかを思い出そうと記憶を辿る。


「あっ、滑落したのか」


 鮮明に記憶が蘇ってくる。

 激しい雨と雷が降り始め、足を滑らしたのだ。

 そして今に至る。


 どれくらい気絶していたのだろうか。

 無地の制服は地肌が透けるほど濡れており、

 カバンの中の教科書はもう使い物にならないだろう。

 見ずともわかる。


体を起こしみると、全身が痛んだ。

当然だ。


 そう自分を納得させる。


 が、痛みに堪えつつ気持ちを落ち着かせたところで周りに目をやる余裕ができた。

 しかし、不思議なことにどこから落ちてきたのかが分からない。

 間違いなく落ちるときの記憶は脳裏に焼き付いている。

 だとしたら何らかの痕跡があるはずだ。


「…なんだあれ」


 目で周囲を追うと、祭壇のようなものが鎮座していた。


 それは四段の階段のようなものになっており、左右には明かりを灯していたであろう篝火台がある。さらに最上段へと目で追うと、一本の棒らしき物体が刺さっているのを見つけた。


――――剣?


「そんなはずはない」と近付く。しかし、よく見れば見るほどそれは剣の形に近い。


 いや、剣だ。


 そう確信した。


 もはやその剣の原型を留めないほど、正体を隠すようにサビが覆っていたが、かつては鋭利であったであろう剣身が正体を隠しきれていない。刀とは違い、両刃の剣だ。


 頭上には闇夜のような空が広がっており、時折雷の閃光が煌めく。少年、西宮仁は深く考えることをやめ、かつて剣であっただろう物に手を伸ばし、握りと思われる部位を握った。


 突如、天空から空気を震わせる轟音と共に目の前に一本の閃光が爆ぜ、仁の視界を奪う。


再び暗い闇に意識が引き込まれた――。

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