第13話 学ぶ
図書室で魔術の勉強を始めて3か月が過ぎた。
本棚から飛び出た本をすべて読み終えたら、新しい本棚が近づいてくる。
日々学ぶことは増えていき、
今、目の前にある本棚から飛び出ている本は20冊を超えていた。
魔術にふれるのが楽しくて、毎日長時間図書室にこもって読み進めていたら初級はあっという間に覚え、もうすでに中級へと進んでいた。
最終的な目標は上級薬物鑑定と転移魔術だ。
公爵とお父様に叔母様のことを話した直後、リンデ伯爵は亡くなった。
病死として埋葬されるところだったが、公爵がそれに気が付いて止めた。
お父様が死亡届を受理せずに鑑定にまわし、死亡原因を探っているところだ。
だが、簡単に出てくる薬物だとは思えなかった。
あの時もお母様の死因は毒殺じゃないかと疑い、出来る限りの検査をしたはずだ。
おそらく複数の薬物が組み合わさった時に起こる反応を利用しているのだと思う。
そのため初級の薬物鑑定では意味がない。
少なくとも中級以上の鑑定を身につけなければ毒を特定できないだろう。
王宮に務めている魔術師でも上級の薬物鑑定を持つ者はいない。
上級魔術は修行で身に付くのではなく、本人の魔力量に左右される技術だからだ。
知識があっても使いこなせないものでは意味がない。
そのために上級魔術書を読む人も少なかった。
上級魔術まで使いこなせるような優秀な魔術師は王宮ではなく、
魔術師協会に所属するのが普通だ。
と言っても、魔術師協会は国に属していない自由な存在だった。
貴族の死因を調べてもらうようなことは頼めなかった。
私とレイニードの魔力量は人と比べてはいけないほど多いらしい。
やり直しをするために、そのくらい必要だと神が判断したのだろうと思う。
上級魔術も使いこなせるほどの魔力量であることに間違いない。
ただ最初から難しい魔術書を手に取ろうとしても逃げられてしまう。
初級から中級、そうやって本と本棚に認めてもらわなければ、
魔術書を開いて読むことすらできない。
時間はないけれど、焦らずに一冊ずつ覚えていくより仕方なかった。
薬物鑑定だけじゃなく転移を覚えようとしているのはレイニードの希望だ。
あの時、走っても間に合わなかったのが心の傷になっているようだ。
次に何かあった時にはすぐに駆け付けられるようにと。
それほどまでに思ってくれているのに私の心の傷はかなり癒えていて、
レイニードだけに罪の意識を持たせているのは申し訳なく思う。
だけど、こんなにも私に執着するのはそのせいだと思うと、
レイニードの心の傷が癒えてほしいとも思えない。
本当に嫌な女だと自分でも思うけど、
レイニードがそばにいてくれるならそれでもかまわなかった。
「13歳で魔術師科に?」
「そう。魔術師科だけ13歳から入学できるそうなんだ。」
15歳から通った学園に13歳で入学しようと言われ、初めは意味が分からなかった。
どうやら貴族科や騎士科とは違い、魔術師科だけは13歳から入学できるそうだ。
そのうえ、貴族科と騎士科とはほとんど授業が一緒にならないらしい。
このまま15歳で貴族科に入学してしまえば、第二王子とまた一緒になってしまう。
そしたら王女とも接点が出来てしまう。
13歳で魔術師科に入学すると通う年数は1年長くなるが、17歳で卒業できる。
第二王子たちとは3年、王女とは2年の間は重なるが、
授業が違うためにほとんど会うことも無くなるだろう。
「だけど、そのためには入学試験を合格しないといけないけどね。」
「魔術師科は試験があるの?
お母様の無事を確認したら、本格的に勉強頑張らないと。」
「多分、普通の勉強は大丈夫だと思うよ?
17歳まで貴族科の授業を受けているんだし。」
「ああ、そうね。じゃあ、問題なのは魔術の知識だけ?」
「あとは魔力検査だけど…普通に検査したらまずいよな。
受けに行く前に神父様に相談してみよう。」
その時、図書室の外で話し声が聞こえた。
女性の声で、争っているようにも聞こえる。
「ですから、図書室には入ることができません!」
「いいから開けなさいよ。ここにいるんでしょう?」
一人はカミラの声…もう一人はもしかして。
「エリザベス?」
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