第13話 絶体絶命


 そして翌日。

 ようやく落ち着いた雛が部屋から出て来ていて、メイリンと一緒にさやえんどうによく似た豆の筋を取っていた。

 結衣もそこに交じると、メイリンがにやりと笑った。


 「流司さんとは仲直りどころか一歩前進なさったようで。少々急ですが」

 「は!?」

 「あれは裕貴君への対抗心ですよ。りゅーちゃん昔から結衣を取られる!ってライバル心メラメラで」

 「この地下もここまで逃げる準備も全て裕貴さんがなさってますしね」

 「嫉妬するのはいいけど、それをキスで誤魔化すっての微妙だなー」

 「浮いた話の一つも無い方でしたし、女性の扱い方なんて知らないのでは?」

 

 きゃあきゃあと騒ぎだし、さてはこの二人同族だなと結衣はぎりぎりと奥歯を強く噛んだ。


 「何騒いでんのお前ら」

 「きゃああ!」 

 「うわっ!何!?」

 「……何でもない」


 急に後ろから顔を出してきた流司に驚いて結衣は思わず叫んでしまった。隣ではメイリンと雛がにやにや笑っている。

 しかしそんな事に気付かない流司は、ならいいけど、と結衣の頭を撫でた。


 「ちょっといいか?そろそろ結衣にも説明しておきたいんだけど」


 そういえば初日に何か話していたけれど、結衣はさっぱり覚えていない。

 何だっけと首を傾げるとメイリンも真面目な顔をした。

 ではお茶を淹れますねとメイリンは席を立ち、流司は話ややこしいからあっちで、とゆったりとしたソファのあるエリアに移動した。


 「じゃあ説明するぞ。俺達が亡命する理由についてだ」

 「えっと、ルーヴェンハイトが攻めてくるのと今逃げてるのは別の出来事だっけ」

 「正確には亡命する隠れ蓑として裕貴さんがルーヴェンハイトで反乱を扇動したんです」

 「え、ゆうくん世界征服でもするつもりなの?」

 「うわ、やりそう」


 雛はうんうんと大きく頷いた。

 裕貴と雛は恋人同士だ。結衣がそれを知ったのは高校に入ったばかりの時で。いつからそうなっていたのかは知らないがとてもお似合いでそうなるべくしてなったと思うほどだった。

 というのも、裕貴もだが、雛も頭の良い人間だった。成績がずば抜けて良いわけではないけれど、頭の回転が速くフォローシップが高い。

 裕貴の突拍子もない発想や行動に付いていく雛とその意味すら分からず呆然とする結衣、その結衣にべったりの流司……というのが幼馴染四人の日常だった。


 「そういやゆうくんと雛って一緒にこっちに来たの?」

 「そうだよ。ルーヴェンハイトに落ちて来たんだけど、あそこは地球人がちらほらいて助けてもらったんだ」

 「やっぱりそうなんだ。てか、皇子の側近てなんでそんな事してるの?」

 「分かんない。ふらっと出かけたと思ったらノア皇子の側近やる事になったからって戻って来たの」

 「……そういう人よね、ゆうくんて」

 「ねー。どうせなら国乗っ取るくらいしたらいいのに」

 「おい。こっちの話聞け」


 流司がコンコン、と机をたたいた。

 ようやく結衣もこの状況に頭が付いて来て和んでしまったけれど、状況は何も変っていないのだ。


 「まずヴァーレンハイトの問題は大きく三つ。モンスターと難民と水不足だ」

 「モンスターは皇王が退治してるんでしょ?」

 「問題はモンスター自体じゃない。奴らに攻め落とされた区画があって、ここから難民が出た。けど城が生活支援をらなかったせいでさらに死者が出たから国民は反皇王派だけど、拍車をかけたのが皇王の水強奪だ」

 「水強奪?でも城にはお水あるからいらないじゃない」


 結衣が首を傾げると、メイリンは水珠を一つ取り出し机に転がした。

 これがあるなら城がわざわざ水を奪う必要など無いように思えた。


 「城の水は魔法で作られた水です。これは過去どこからか与えられた物らしいですが、出所が不明なのです。ヴァーレンハイト皇国では生産ができないのです。だから陛下は常々天然の水源を求めていらっしゃいました」

 「そんな時に難民が逃げ込んだ地下都市で水脈が発見されたんだ。それを皇王は兵団を率いて水脈を管理下に置いた」

 「これでまた水不足で死者が出ましたが、これを助けたのがルーヴェンハイトです」

 「ルーヴェンハイトが難民を受け入れたんだ。おかげで国民の気持ちはルーヴェンハイトへ傾いた」

 「それが今回の暴動……?」

 「そうだ。つまり城の外は全員敵だと思っていい。そこにきて皇王の命があと三年で尽きる」


 え、と結衣は目を見開いた。


 「三年?それどっからきたの?」

 「前も言ったけど、魔力の枯渇は死に繋がる。日常生活で魔法を使う分には問題ないけど、奴はモンスター討伐で派手な魔法を使うんだよ。だから魔力がどんどんなくなってる。これはグレディアース老の診断だから間違いない」

 「これはアイリス様にとっても大変な問題なのです。陛下が崩御なさった場合はアイリス様が国を率いる事となりますが、おできになりますか?」

 「できない……」

 「それに皇王は権力者から強く支持されている。権力目当ての奴らが無能なアイリス様を守るとは思えない」


 ようやく結衣が事態を呑み込んで、じゃあこれからだけど、と流司が話を進めようとした瞬間にドオオオと大きな揺れと共に破壊音が響いた。そして一気に室内の温度が上がり、まるで火の中に放り込まれたようだった。


 「この魔法、まさか陛下がもう!?」

 「早すぎる!迎えが来るまであと三日はかかるぞ……!」

 「入ってくるんじゃないの!?どうするの!?」

 「くっ……」

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