第3話:魔王の様子がおかしいのだが……
「さて……」
僕はスッキリした気持ちで進んでいた。魔王城は、もうすぐそこだ。
「ですが、勇者様。魔物たちが全然いませんね」
「どうしたのかしら」
「きっと勇者に怖気づいて、逃げだしたんだよ」
彼女たちの言う通りだった。魔王城の近くだというのに、魔物が全然出てこない。やけに静かだ。
(警備の魔物もいないなんて、おかしいな)
僕は冷静になった頭で考えた。
「でもまぁ、僕たちなら何があっても大丈夫か」
僕が最強なのは言うまでもないけど、この三人も、それはそれはすごいメンバーだ。
「油断はいけませんけど、私たちが負ける気がしません」
マジカルは、大賢者の孫だ。素晴らしい才能と魔力を受け継いでいて、彼女の魔法はピカイチだった。
「どんなことがあっても、勇者様は私が守るよ」
それに、こっちには絶対防御のリプトイスがいる。聖修道院きっての大天才と言われる彼女の、聖域展開を破れた者は一人もいなかった。
「今回も、余裕っしょ!」
たとえ魔法攻撃が効かなくても、ウオリアの爆裂拳があれば問題ない。ドラゴンでさえ、彼女の前ではひるんでしまう。僕たちが恐れる必要なんて、どこにもなかった。
(魔王を倒したらどうしようかな。女神とヤるってのもいいね。ゲヘへへへ)
考えているうちに、魔王城の前まで来てしまった。ここまで来ても、魔物が一匹も見当たらない。それどころか、門も開けっ放しだった。むしろ、入ってきてほしい、と言ってるみたいだ。さすがに、僕たちも警戒する。
「なんで門は、開いているんだろう」
「何かの罠でしょうか?」
「気を付けた方が良さそうね」
「なんだか、怪しいな」
とそこで、城の中から何者かが走ってきた。
(なんだ!? あれは!?)
数えると、全部で5人いる。
「勇者様! もしかしたら、魔王に捕まっていた人たちかもしれません!」
(だとしたら、まずい! すぐに助けないと)
「よし! みんな、行くぞ!」
僕たちが走り出そうとしたとき、彼らが叫んできた。
『勇者様! ようやく来てくれた!』
少しずつ、彼らの姿が見えてくる。
「え? あれって!?」
僕はその姿が明らかになり、とても驚いた。
「ちょ、ちょっと! あいつ、魔王じゃんか!?」
「きゃああああああ!」
「勇者様! 早く戦闘態勢を!」
あろうことか、走ってきたのは魔王だった。
「クソッ! 不意打ちするなんて卑怯な!」
僕たちは、急いで態勢を整える。そして、自分たちの最強攻撃で彼らを迎え撃つ……。
『ちょっと待ってください! 攻撃しないで! まずは、話を聞いてください!』
魔王はゼイゼイしながら言ってきた。
「な、なに? 話を聞いて?」
「勇者様! 気をつけてください!」
「私は聖域展開の用意をするわ!」
「何かしようとしたら、ぶっ飛ばすからな!」
魔王に続いて、残りの人たちも追いついた。
「そ、それで……この方たちは?」
『ほら、みんな! 勇者様に自己紹介して!』
『私は四天王、ダークエルフのズールイと申します』
『俺は四天王、デーモンのコワイだぜ』
『同じく四天王、サタンのカウコツ』
『アタシは四天王、ハーピーのアイドクさ』
「そ、そうすか」
きょとん……。
(なんだ、この状況は)
城の前で、魔王と四天王に自己紹介された。
「すみません、何が何だか……」
『そうですよね! いきなりすぎますよね! 実は私たちは今、非常に困っておりまして……』
魔王は説明し始めたが、ウオリアが遮った。
「知るか、そんなの! 散々、人間を怖い目にあわせやがって!」
「ウオリアさんの言う通りです! あなたたちの言うことなど、信じられません!」
「私たちを騙そうったって、そうはいかないからね!」
魔王はタジタジしている。
『すみません! 本当にすみませんでした! 私は調子に乗っていたんです! ちょっと力を見せたら、人間たちはすごいびっくりしていたので、ついイキがっちゃったんです! もう二度とやりませんから、お願いします!』
魔王はしきりに謝っている。地面につくほど、頭を下げている。
(ほ、本当に魔王なのか?)
『ほら、みんなからも頼んで!』
『よろしくお願いいたします』
『俺からも頼む』
『力を貸してくれ』
『お願いよ』
四天王も、一緒になって頭を下げてきた。
「ちょっと待ってください」
僕たちは、少し離れたところで相談しはじめた。
「ねえ、みんなどう思う?」
「どう思うって、絶対あいつら何か企んでやがるよ!」
「勇者様! 騙されてはなりません!」
「早くやっつけよ!」
「いやぁ、しかしなぁ」
さっきから魔王たちは、ソワソワしながら僕らを見ている。
「とりあえず、話だけでも聞いてみようよ。何かあったら僕が戦うから」
(僕は最強なんだから、大丈夫だろう)
三人は悩んでいたが、しぶしぶ了承してくれた。
「「「勇者(様)がそういうなら……」」」
魔王たちのところに戻る。
「何かあったんですか?」
『おぉ……勇者様はお噂どおり、お優しい方だ……』
パァァァ!
魔王は、満面の笑みになった。とても喜んでいる。
「おい、さっさと話せや、コラ」
『す、すみません! この前、“転生者”とかいう人間が突然来まして……。お恥ずかしい話なんですが、魔王の座を奪われてしまったのです』
「へぇ~、そんなことあるんですねぇ」
“転生者”と聞いて、僕はちょっとドキッ! とした。
(まさか、僕以外にも誰か来たのだろうか?)
「その人は強いんですか?」
『それが、とんでもなく強いのです。手も足も出ませんでした。家来の魔物でさえ、全員私たちを見捨てて逃げだす始末です』
「なるほど」
『私たちでは、どうにもできません! どうか、アイツをやっつけてください! もちろん、お礼は十分すぎるほどお渡ししますから!』
「バカバカしい。勇者、こんなヤツ相手にしなくていいよ」
「どうして私たちが、魔王の味方をしないといけないのですか」
「意味わかんない」
彼女たちはみな、魔王を助けるつもりなど全くないようだ。
『勇者様は困っている人を助けるのが、仕事じゃないんですか!?』
しかし魔王は僕に、ひっしとしがみついてきた。目がウルウルしている。僕は魔王が、かわいそうになってきてしまった。
「……わかりましたよ。戦いますよ」
『やった! ありがとうございます、ありがとうございます! あなた様がいれば、絶対に勝てます!』
「それで、そいつの名前は何て言うんですか?」
(まぁ、別にいいか。相手がどんなヤツだろうと、僕の敵じゃないしな。何せ、僕の能力値は全てが無限……)
『はい。オモイ・シュウコと名乗っています』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます